ドクターインタビュー

増子記念病院 理事長
増子記念病院 理事長

両角 國男 先生

両角 國男 <font size="4">先生</font>先生

増子記念病院(名古屋市中村区)は、40年以上の腎臓病治療の実績をもち、黎明期の透析医療をけん引してきました。現在では、検尿異常、腎機能低下を来す各種腎臓病の診断と治療および慢性腎不全保存期から末期腎不全での透析療法・腎移植まで「腎臓内科のすべての領域」を診察できる体制が整っています。
長年、腎臓病の臨床と研究に携わってこられた、増子記念病院 理事長の両角國男先生に、慢性腎臓病の早期発見、治療と末期腎不全治療における腎代替療法の選択について、そして増子記念病院における慢性腎臓病治療への取組みについてお聞きしました。

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取材日:2015/11/01

目次

Chapter 1: 慢性腎臓病(CKD)の早期発見と治療について

-----現在、全国には慢性腎臓病(CKD)の患者さんが1,330万人(20歳以上の成人の8人に1人)いるといわれていますが、この「CKD」とはどのような病気なのでしょうか。

そもそも、CKDというのは医学的な病名ではなく、疾患全体を捉えた概念のことを指しています。3カ月以上持続する検尿異常、腎臓の形態異常、腎機能低下のいずれか、あるいはいくつかの組み合わせがあれば、全てCKDと診断されます。

-----CKDが進行すると、どのような症状が現れるのでしょうか。

症状はCKDの原因となった疾患(原疾患)によって異なりますが、基本的には「多少進行しても症状が現れず、かなり進行してから症状が現れる」という理解をしていただければと思います。腎機能にはゆとりがあるため、その機能が1/4以下、CKDステージ4ぐらいまで進まないと、症状は現れません。そのため、CKDであることに気付かずに受診が遅れ、症状が現れたころにはすでに有効な治療法がない、というケースもよくあります。それがCKDの一番の問題点です。
ただし、CKD患者さんの大半は、無症状のまま、透析や腎移植などが必要な末期腎不全にまでは至らないといわれています。

-----無症状で進行するというのは大変怖いですね。一方で、大半の患者さんは末期腎不全にまでは進行しないということで少し安心しました。

ただ、問題なのは、CKDステージの進行と並行して、あるいは先行して、狭心症や心筋梗塞といった心臓疾患や、脳血管障害などの合併症が起こってしまう点です。ですから、命に関わる重大な疾患を防ぐためにも、より早期にCKDを発見し、治療することが重要です。
原疾患の中でも、特に気をつけなければいけないのが糖尿病性腎症と、高血圧を原因とした腎硬化症です。どちらも動脈硬化を著しく促進します。

-----かなり進行するまで症状が現れないCKDを早期発見するにはどうすればよいのでしょうか。

3つあります。まず1つ目は、尿検査を受けることです。蛋白尿、血尿、できれば24時間蓄尿でアルブミン尿を測定することが望ましいですね。2つ目は、血液検査を受けることです。血液検査には、腎機能を示す指標があります。血清クレアチニンや尿素窒素、詳細にみるならば、β2ミクログロブリンやシスタチンCといわれる検査項目もあります。そして3つ目は、血圧と糖尿病の有無を確認することです。これらのいずれかに異常があれば、定期的な観察、ときには治療が必要となります。

-----つまり、通常の健康診断で受ける検査で十分早期発見が可能ということですね。

一般的には可能です。ただ、中には、蛋白尿や血尿などの検尿異常が現れない腎臓病があることも知っておいてほしいです。代表的なものとしては、鎮痛剤やビタミンDの服用による薬剤性の腎障害(間質性腎炎)です。ほかには、遺伝性疾患である多発性嚢胞腎もあります。現在、透析患者さんの3%近くが、多発性嚢胞腎を原疾患に持つといわれています(*1)(2021年末では3.7%)(*2)。家族に同じ病気の方がいれば早く発見できますが、そうでない場合は発見が遅れてしまいます。また、腎硬化症も蛋白尿がほとんど見られず、現れたとしても軽微ですので注意が必要です。

-----尿検査で異常が現れない腎臓病があるのは知っておくべきですね。では、検査でCKDと診断された場合、その後の悪化を防ぐにはどうすればよいのでしょうか。

両角先生正面

まず出発点は、CKDの原疾患の治療を最適に行うことです。その上で、家庭血圧を測る習慣を持つこと、体重を記録することが大切です。血圧、体重を計測するようになると、食事にも気を配るようになります。腎臓病が進行する最大の危険因子は高血圧ですので、高血圧の治療・予防のためにも、減塩を行います。塩分摂取量は、1日6gを目安とします(*3)
次に必要なのは、適正なカロリーを取ることです。真面目で一生懸命な人に食事指導をすると、逆に制限をしすぎで低栄養になり、状態が悪化することがあります。食事療法は、適正なカロリーをきちんと取ることが大前提であることは、ぜひ認識していただきたいと思います。
それができた上で、3つ目に、腎機能の障害度に応じたタンパク質制限を行います。ただ、昔のような極端なタンパク質制限は、現在は推奨されていません。むしろ最近は、「高度なタンパク質制限は行わない」という考え方が主流です。具体的には、初期段階では0.9g/kg/日、厳しいレベルでも0.6g/kg/日です(*3)

-----0.9g/kg/日というのは、体重60kgの方であれば1日54gまでタンパク質を取れるので、そこまで厳しい印象はないですね。

あとは、水分の摂取です。腎機能の低下の程度にもよりますが、むくみがない限り、水分摂取は多い方がいいとされています。
腎臓は、機能が低下すると濃い尿を作る能力が落ちてしまいます。したがって、血液中の老廃物をたくさん出すには、尿量を増やすことが望ましく、水分はたくさん取るのが基本です。

-----腎臓を働かせすぎないように水分を控えるのではなく、水分を多く取って薄い尿をたくさん出すことが大切なのですね。

そしてもう一つ大切なのが、リンの制限です。リンは、腎臓に限らず、他の臓器も障害するといわれています。基本的には、タンパク質の制限により、リンの摂取も抑えられますが、最近は摂取するリンの種類が重要だといわれています。お肉やお魚などの食材のタンパク質に含まれるリンは「有機リン」といいますが、これは吸収率が低いので、摂取しても全てが体内に吸収されるわけではありません。ところが、食品添加物、例えば防腐剤や保存剤に使われる「無機リン」は、吸収率がほぼ100%です(*3)。したがって、リンを制限するには、食品添加物を多く含む食品は避けてほしいです。

-----食事の際には、リンの摂取を抑えるために加工品などをできるだけ控えたほうがいいということですね。

そうですね。また、先ほどもお話ししましたように、食事療法は一生懸命な人ほどやりすぎる傾向にあります。カロリーはもちろん、過度にタンパク質を制限して痩せてしまったり、腎機能はそれほど悪化していないのに極端な塩分制限をしてしまったりする方もいるので、注意が必要です。

-----制限を行うにしても適切に行うことが大切ですね。薬物療法に関してはいかがでしょうか。

薬物療法では、降圧薬に代表される、腎保護性の薬剤を選びます。腎保護性の薬剤というのは、例えていうなら、機能が落ちた腎臓に対して「無理して働かないでください」と一休みをさせる薬です。

-----腎臓が頑張りすぎないようにするということですね。これまでお話しいただいた、原疾患の治療や食事管理、薬物療法というのは、進行性の腎臓病に対しても、進行を抑える効果があるのでしょうか。

あります。ネフローゼ状態の糖尿病性腎症といった、一部の重症な疾患の進行は止められませんが、それ以外であれば、かなり治療効果はあります。特に多くの糸球体腎炎や膠原病性腎症では免疫抑制薬を含む治療が大きく進歩しています。そのためには、まずは病態解析に優れた能力を持つ医師の診察を受けることが重要です。

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<出典>
*1 日本透析医学会 統計調査委員会 図説 わが国の慢性透析療法の現況(2016年12月31日現在)
*2 花房規男 他. わが国の慢性透析療法の現況(2021年12月31日現在) 透析会誌 2022;55:665-723
*3 日本腎臓学会 エビデンスに基づくCKD診療ガイドライン2018


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