透析患者さんに起きやすい合併症

透析療法を続けていると、さまざまな合併症が起こることがあります。透析患者さんに起きやすい合併症について説明します。

透析患者さんの合併症②:骨・ミネラル代謝異常

監修:久留米大学医学部 内科学講座 腎臓内科部門 主任教授 深水 圭 先生
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慢性腎臓病に伴う骨・ミネラル代謝異常(CKD-MBD)

腎臓は、骨に関わるミネラルであるリンとカルシウムの代謝調節に重要な役割を果たしています。腎機能が低下している透析患者さんは、リンがうまく排泄されず、また腸管からのカルシウム吸収も不足するために、骨がもろくなったり、血管などの組織が石灰化したりして、さまざまな問題が起きることがあります。 このような病態は「慢性腎臓病に伴う骨・ミネラル代謝異常(CKD-MBD)」と呼ばれており、透析導入前からの管理も必要と考えられています(*1)

透析患者さんは骨折しやすい

健康な人の骨は、つくるスピード(骨形成)と壊すスピード(骨吸収)が釣り合って、一定の骨密度を保っています。

骨吸収と骨形成

一般の人でも加齢や閉経によって骨密度は低下しますが、透析患者さんでは以下のようなメカニズムによって、骨密度がさらに低下しやすくなります。

【1】腎機能が低下すると、尿中へのリンの排泄が十分に行えないため、体にリンが溜まりやすくなります。

【2】リン(P)とカルシウム(Ca)は密接な関係を持っており、血液中のリンが増えると、食物中のカルシウムを腸から吸収する働きを抑えて、血液中のカルシウムを減らす仕組みがあります。
リンとカルシウムのバランス

【3】血液中のカルシウムが減少しすぎると、逆に体は血液中のカルシウムを上げようとします。副甲状腺という器官から、PTHというホルモンが分泌され、骨からカルシウムを分解して(骨吸収)、血液中のカルシウムを補おうとします。
副甲状腺からのPTH分泌

【4】このような状態が続くと、血液中のカルシウムが増えていてもPTHの分泌が続くようになります。これを、二次性甲状腺機能亢進症といいます。二次性副甲状腺機能亢進症になると、骨吸収が進んで骨密度が低下します。
PTHによる骨吸収促進

透析患者さんは、このようにして骨密度が低下することなどにより、骨折しやすくなります。透析患者さんは一般の人に比べて、大腿骨頚部骨折(太ももの付け根の骨折)が5倍程度多いことがわかっています(*2)
大腿骨頚部骨折

異所性石灰化

腎機能が低下していてリンがうまく管理できない場合、骨がもろくなりやすいだけでなく、体のさまざまな箇所に問題が生じる可能性もあります。
前述した二次性副甲状腺機能亢進症になると、血液中のカルシウムが過剰になりますが、リンの排泄がうまくできずにリンも過剰な状態にあるため、カルシウムもリンも高い状態になります。すると、血液中で余分なカルシウムとリンが結合して、リン酸カルシウムという骨や歯のもととなる結晶がつくられます。
このようにしてつくられたリン酸カルシウムは、関節や筋肉、皮膚、肺、心臓そして血管など全身に沈着します。これが異所性石灰化です。
異所性石灰化が起こると、関節や筋肉では痛み、皮膚ではかゆみ、肺では呼吸不全、心臓では弁膜症、そして血管では動脈硬化による心筋梗塞脳梗塞といったさまざまな病変があらわれることがあります。

異所性石灰化による合併症

CKD-MBDの対策

以上のように、血液中のリン、カルシウム、PTHの管理は透析患者さんにとって重要なため、定期的に検査を行って、一定範囲内に収まっているか確認します。透析患者さんの実際の治療では、リン、カルシウム、PTHの順に優先してコントロールすることが推奨されています(*1)
リン、カルシウム、PTHを上記の目標値内に管理するために、以下のような治療を行います。

P,Ca,PTHの目標値

1.食事療法
リンは食品添加物に多く含まれるため、加工食品やファストフード、清涼飲料水などをできるだけ摂取しないようにします
※参考記事:コラム「食事療法の基本② リン
リンを多く含む食品

2.薬物療法

リン吸着薬
消化管の中でリンを吸着し、リンが体内に吸収されにくくします。炭酸カルシウムは代表的なリン吸着薬ですが、体内に吸収されて血液中のカルシウムが上昇したら減量が必要です。カルシウムを含まないリン吸着薬もありますが、便秘や吐き気などの消化器症状がみられることがあります。

活性型ビタミンD3製剤
副甲状腺のビタミンD受容体に働いて、PTHの過剰分泌(二次性副甲状腺機能亢進症)を改善し、骨の分解(骨吸収)を抑えます。ただし、活性型ビタミンD3製剤には腸管からのカルシウム吸収を促す作用もあり、血液中のカルシウムが過剰になる場合があるので、用量に注意が必要です。

カルシウム受容体作動薬
経口薬剤 副甲状腺のカルシウム受容体に働いて、過剰なPTHの分泌(二次性副甲状腺機能亢進症)を抑えます。骨の分解(骨吸収)が抑えられることで、血液中のカルシウムが低下し、またリンも低下します。

3.外科的治療
二次性副甲状腺機能亢進症になると、副甲状腺が肥大して、PTHが過剰に分泌され続けます。薬物療法で十分な効果が得られない場合は、副甲状腺に注射器でアルコールを注入してPTHの分泌を抑えたり、手術で副甲状腺を摘出したりします。

PEIT

前述のとおり、CKD-BMDは透析導入前から始まっています。そのため、透析導入前でも、食事療法や炭酸カルシウム、活性型ビタミンD3製剤の飲み薬などで、リンやカルシウムの管理を行う場合があります。

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<出典>
*1 日本透析医学会 慢性腎臓病に伴う骨・ミネラル代謝異常の診療ガイドライン 日本透析医学会雑誌45:301-356,2012
*2 日本透析医学会 統計調査委員会 図説 わが国の慢性透析療法の現況(2014年12月31日現在)


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