ドクターインタビュー

進歩し続ける慢性腎臓病治療

大阪大学大学院医学系研究科 腎臓内科学 教授
猪阪 善隆 先生

進歩し続ける慢性腎臓病治療

大阪大学大学院医学系研究科 腎臓内科学 教授
猪阪 善隆 先生

猪阪先生

目次

Chapter 2:難治性腎障害の研究

一人ひとりに合わせた投与量で副作用を減らすーー"オーダーメイド医療"の可能性

----- 猪阪先生は、「難治性腎障害に関する調査研究」の研究班代表を務めておられますが、どのような研究が進められているのでしょうか。

※難治性腎障害に関する調査研究:厚生労働省が行っている、難治性疾患政策研究事業の一つ。腎臓病の中でも難病とされている疾患に対し、原因の究明・治療法の確立に取り組んでいる。

私たちの研究班の主な役割は、指定難病とされているIgA腎症、急速進行性糸球体腎炎、ネフローゼ症候群多発性嚢胞腎について、国内の診療データを集めて、どのような傾向があるかを調べ、そこからより良い診療につながる見解を導くことです。
研究目的の1つは、それぞれの疾患の現状の治療成績(予後)を明らかにすることです。現在一般的とされている予後はかなり前の報告です。例えば、IgA腎症は診断後20年で約40%が末期腎不全に至るとされていますが、これは20年以上前の報告です(*1)。その後、治療法が進歩してきているので、現状の予後を把握し、患者さんたちもご覧いただける形で調査結果を公表したいと考えています。

----- 研究結果として、今後どのような治療法が生まれる可能性がありますか。

猪阪先生

例えば、より適切なステロイド薬の使用法を確立できると思います。今やろうとしているのは、ステロイド薬を使用しているさまざまな患者さんの診療データを人工知能で解析して、患者さんの状態に応じたステロイド薬の最適な減量方法を見つけることです。また、ネフローゼ症候群の患者さんの自己抗体の値と、ステロイド薬の必要量の関係も研究しており、自己抗体を測ることでステロイド薬の投与量を適切に調整できるようになる可能性があります。
また、患者さんの遺伝子を解析して、この遺伝子を持つ患者さんであれば、このお薬がいいとか、このくらいの量がいいとか、そのような治療法が生まれる可能性もあります。

※自己抗体:自分の体の特定の細胞や組織を攻撃するように働く異常な抗体。

----- それぞれの患者さんに応じたオーダーメイド的な治療が可能になっていくのですね。そのような医療が実現するとしたら、いつごろになるのでしょうか。

5年後くらいまでには研究結果をデータとしてお示しできるようにしたいと思っています。うまくいけば、10年以内に実用化されると思います。

小児科から腎臓内科へのスムーズな移行が課題

----- 他にはどのような取り組みをされていますか。

難治性腎障害は小児の患者さんも多いです。一般的に、子どものころは小児科で治療を行いますが、成人になると腎臓内科で治療を行うようになります。この移行がスムーズに行えるようにすることも私たちの大きな課題の1つで、移行のためのガイド作りに取り組んでいます。

----- どのような場合に移行がうまくいかないのでしょうか。

例えば、大学への進学を機に引っ越しをした場合、同時に主治医が変わってしまうと環境が急に大きく変わって強いストレスを受けるようになり、せっかく安定していた状態が大きく崩れてしまうことがあります。そうならないためには、あらかじめ診療体制を準備し、過剰なストレスを与えないようにすることが重要です。小児科から腎臓内科への移行期の対応についてガイドを作成することで、全国の難治性腎障害の小児患者さんが移行期の病状悪化を回避できるようになればと思っています。

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<出典>
*1 松尾清一 他. 厚生労働科学研究費補助金難治性疾患克服研究事業 進行性腎障害に関する調査研究班報告IgA 腎症分科会IgA 腎症診療指針―第3版― 日腎会誌 2011;53:123-135


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