ドクターインタビュー

進歩し続ける慢性腎臓病治療

増子記念病院 理事長 両角 國男 先生

進歩し続ける慢性腎臓病治療

増子記念病院 理事長
両角 國男 先生

両角先生

目次

Chapter 2:病状を正しく評価するための課題

適切な治療には、適切な評価が不可欠

----- 慢性腎臓病の診断や治療方針については、近年変化がありますか。

近年は、腎機能の評価方法が少しずつ変わってきています。現在、腎機能の評価には、性別、年齢、血清クレアチニン値(Cr、CRE)から算出されるeGFRが主に用いられています。クレアチニンは筋肉から生まれる物質で、腎機能が低下すると、尿中への排泄が滞って血液中に溜まり、血清クレアチニン値は高く、逆にeGFRは低くなります。
しかし、血液中のクレアチンの量は筋肉量の影響を受けるため、筋肉量が少ない人は実際の腎機能よりもeGFRが高く、筋肉量が多い人はeGFRが低くなりやすいです。そのため、患者さんが病気を軽視してしまったり、逆に必要以上に心配してしまったりする可能性があります。

----- そうなると、適切な治療が行われないリスクもありますよね。どのような対策があるのでしょうか。

血清クレアチニン値の代わりに血清シスタチンC値を使って算出したeGFRで補正する方法があります。シスタチンCは全身の細胞から生まれる物質で、筋肉量の影響を受けません。血清クレアチニン値で算出したeGFRと、血清シスタチンC値で算出したeGFRの平均値は、より正確に腎機能を反映することが分かっています(*1)。現状はまだ血清クレアチニン値で算出したeGFRが一般的ですが、今後はこの評価方法がもっと普及するべきだと思います。

"悪くならない腎臓病"を見極める

----- 患者さんは日ごろから腎機能をとても気にしているでしょうし、不要な心配は取り除いてあげたいですよね。

もう1つ、患者さんの不要な心配を取り除く上で大切なことは、「悪くならない腎臓病」をしっかりと見極めることです。腎臓病を診る上で一番大事なポイントは、病気が進行するスピードです。例えば、高血圧性腎硬化症の患者さんの血圧を管理すると、腎機能の低下が止まったり、低下速度がすごくゆっくりになったりする場合があります。また、CKDの重症度がステージG4(腎機能が高度低下)の患者さんでも、ほとんど悪化しない患者さんもたくさんいます。

----- 患者さんも、自分の慢性腎臓病が悪くならないものだと分かれば安心できますね。

両角先生

ですから、そのときの腎機能だけではなく、5年前、10年前、15年前のデータと比べて腎機能の低下速度を把握する必要がありますし、その上で治療方針を判断することが大切です。例えば、ご高齢の患者さんで、腎代替療法が必要になるまでに20年くらいかかりそうだと分かれば、そのころには天寿をまっとうしているので、今のまま無理のない治療を続けるという選択肢も出てきます。透析の心配をせず、厳しい食事制限もない穏やかな生活を選ぶこともできるのです。

----- ずっと同じ病院に通っていれば、病気が進行するスピードも分かりやすいですね。

ただ、慢性腎臓病は、多くの場合、長期の治療が必要ですし、患者さんの事情で同じ病院に通い続けるのが難しいこともあると思います。将来的には、すべての診療データが一括管理されて、どこの病院に行っても過去の診療データが確認できるような全国的な体制整備が必要だと思います。

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<出典>
*1 Horio M, et al. GFR estimation using standardized serum cystatin C in Japan. Am J Kidney Dis. 2013;61:197-203


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