ドクターコラム

CKD-MBD(慢性腎臓病に伴う骨ミネラル代謝異常)

CKD-MBD
(慢性腎臓病に伴う骨ミネラル代謝異常)②

和歌山県立医科大学 腎臓内科学 教授 重松 隆 先生

和歌山県立医科大学 腎臓内科学 教授 重松 隆 先生

CKD-MBD<font size="3">(慢性腎臓病に伴う骨ミネラル代謝異常)</font>②

掲載日:2020/01/16

二次性副甲状腺機能亢進症の治療

二次性副甲状腺機能亢進症や線維性骨炎の治療は、具体的にはどのように進歩したのでしょうか?

1)腎移植
二次性副甲状腺機能亢進症の根本治療は腎機能障害を直すことですが、残念ながら容易ではありません。腎移植がそれに当たりますが、拒絶反応を抑えるために用いる副腎皮質ホルモンや免疫抑制薬の副作用で、骨粗鬆症のような骨代謝異常が新たに起こることがあります。
※骨粗鬆症(こつそしょうしょう):骨の密度が低くなり、強度が低下して、骨折しやすくなる病気。

また、腎移植前に透析療法を行っていた頃に生じたCKD-MBDを持ち越してしまうことも稀ではありません。そのため、最近では腎不全になった段階で、CKD-MBDが出来上がる前に透析療法を一度も行うことなく腎移植を行うこと(先行的腎移植)がトレンドになっています。

腎移植

2)各種の薬剤による治療

① 活性型ビタミンD製剤
腎臓の機能が低下してきた腎臓病の患者さんのうちでも、特に透析患者さんでは、活性型ビタミンDの産生低下による不足が、CKD-MBDが始まるきっかけとなることを述べてきました。この活性型ビタミンDは、どのような構造を持つものかが明らかになっています。個人的なことで恐縮ですが、この世界的な業績には、私の恩師である昭和大学歯学部名誉教授の須田立雄先生が大きく関与しておられます。活性型ビタミンDは、学術的には1,25-ジヒドロキシコレカルシフェロール(1,25-dihydroxycholecalciferol)または1,25ジヒドロキシビタミンD3(1,25-dihydroxyvitamin D3)とも呼ばれ、女性ホルモンや男性ホルモンなどの性ホルモンや、副腎皮質ホルモンなどのステロイドホルモンに似た構造を持っています。これらのホルモンも、活性型ビタミンDも、元々は脂質の1つであるコレステロール(C27H46O)から生合成されるため、コレステロールとも似た構造を持っています。

ビタミンDの構造

この活性型ビタミンDは、今では飲み薬から注射薬までたくさん開発されており、低カルシウム血症から骨粗鬆症、二次性副甲状腺機能亢進症まで、多くの病気の治療薬として応用されています。ただし、透析はしていないけれど透析が近いと言われているような慢性腎不全の患者さんや、年配の高齢者(特に75歳以上の方)では、活性型ビタミンD製剤を不用意に用いると、一気に腎機能が低下して透析開始が早まることがあるので、注意が必要です。心配な場合には、腎臓内科医にご相談されると良いと思います。

② リン吸着薬
CKD-MBDにおける、低カルシウム血症と並ぶもう1つの主要なキャラクターは、高リン血症へとつながる「リン過剰」です。リン過剰は、食事や飲み物と関係が深いので、対策の1つとしては食事療法が挙げられます。リンの取りすぎを是正する方法については、栄養士さんにご相談されると良いでしょう。もう1つの対策は薬物療法です。リンは多くの食品や飲み物に含まれており、口から入って腸から吸収されます。この吸収を抑える薬がリン吸着薬(別名:リン低下薬)です。このリン吸着薬もたくさん開発されており、わが国では世界でもっとも多い6種類ものリン吸着薬が発売され(2019年12月現在)、日常的に使用されています。ただ、このリン吸着薬は、食前だったり食後だったりと飲み方のバリエーションが多く、しかも食事やおやつに合わせて1日3回服用だったりしますので、飲む薬の数も多くなってしまいます。そのため、真面目な透析患者さんでも、薬の飲み残しはリン吸着薬がもっとも多いと言われています。リン吸着薬が飲み切れない場合は、透析療法によるリンの除去を含めて、主治医の先生や薬剤師さんにご相談されると良いと思います。血中リン値のコントロールは重要ですが、必要な薬の数が少ないのは良いことです。

③ カルシウム受容体作動薬
腎臓の働きが弱くなると、カルシウムが不足し、リンが体に溜まります。その結果、二次性副甲状腺機能亢進症が起き、さまざまな障害が誘発されて患者さんを苦しめることになります。活性型ビタミンD製剤やリン吸着薬による治療も有効ですが、近年、副甲状腺の働きを直接制御する「カルシウム受容体作動薬」という画期的な薬が登場しています。副甲状腺には、血液中のカルシウムが多いか少ないかを判定する「カルシウム受容体」というものがあることがわかっており、「カルシウムが多い」と判定されると、副甲状腺からのPTH(副甲状腺ホルモン)の分泌が抑制されます。このカルシウム受容体に働きかけ、「カルシウムが多い」と判定させるのがカルシウム受容体作動薬で、PTHの分泌を直接強力に低下させることができます。

カルシウム受容体作動薬の作用

これまで、二次性副甲状腺機能亢進症を活性型ビタミンD製剤やリン吸着薬のみで治療することが難しい場合は、手術で副甲状腺を切除する副甲状腺摘出術を受けなければなりませんでした。しかも結構細かい手術で、副甲状腺の取り残しや、声が枯れるなどの副作用が出ることもありました。このカルシウム受容体作動薬の特長は、従来では手術が必要であった治療抵抗性の二次性副甲状腺機能亢進症にも効果があることです。
現在、わが国で使用されているカルシウム受容体作動薬は3種類あります。これらの薬が使われるようになってからは、副甲状腺摘出術が必要となる患者さんがとても減りました。ただし、副甲状腺摘出術が腎移植と並ぶCKD-MBDの根本治療であることに今も変わりはありません。もし主治医の先生から副甲状腺摘出術を勧められたら、きっとそれなりの理由があると思いますので、主治医の先生とよくご相談された上で前向きに考えていただきたいと思います。

二次性副甲状腺機能亢進症以外の これから大事なCKD-MBD

骨折対策が重要!
腎臓内科や糖尿病内科の治療が進歩した結果、透析療法が必要となる時期を遅らせることができるようになってきました。このため、透析療法が必要となる患者さんも高齢化が進んでいます(*)。そうすると問題になるのが骨折です。特に「大腿骨近位部骨折」といって、ちょっと転んだくらいで脚の付け根の骨が折れてしまうことがあります。この骨折は、腎臓病患者さん(特に透析患者さん)でとても多く、寝たきりや認知症、床ずれ、肺炎などの誘因にもなり、骨折が命を落とす原因になることもあります。

骨折

こうした患者さんは、タンパク質を中心とした栄養不足で低リン血症を呈し※1、骨粗鬆症と骨軟化症※2を合併しており、痩せてきて筋肉が衰えていることがほとんどです。この状態は、今ではいろんな言葉で表されています。

Protein-Energy Wasting(PEW:タンパク質エネルギー不足)
・MIA(ミア)症候群(MIA : Malnutrition Inflammation Atherosclerosis)
・フレイル(Frailty:虚弱)
・サルコペニア(Sarcopenia)
・ロコモ(Rocomotive症候群)

1つくらいは耳にされたことがあるのではないでしょうか。
※1 タンパク質を多く含む食品にはリンも多く含まれている場合が多く、タンパク質を制限することでリンが不足しやすくなります。
※2 骨軟化症:骨へのカルシウムの沈着が障害された状態で、骨痛、筋力低下などを引き起こす。

筋肉がつく食事を心がけましょう
このような場合には、塩分と水分制限以外の食事制限、特にタンパク質制限やリン制限は、不必要なばかりか有害です。医師や栄養士の指導にもとづいて、しっかり食べましょう。お勧めは、卵(特に白身はいくら食べても良いくらいです)、赤身の肉(焼肉屋ならハラミ)、鳥の胸肉やささ身、豆腐などです。

タンパク質の多い食品

運動で筋力アップをはかりましょう
こうしたフレイルやサルコペニアの患者さんにとって、もう1つ重要なことは運動です。運動には「有酸素運動」というものと「レジスタンス運動」というものがあります。腎臓病の患者さん(特に透析患者さん)に必要な運動はレジスタンス運動です。この運動の代表は、腕立てふせ、腹筋運動、スクワットの3つです。詳細はここでは説明しませんが、関節への負担を減らすやり方・強度など、ものすごく沢山のバリエーションがあります。あまり頑張りすぎないで、コツコツと続けることが大事です。続けるという点からは、階段登りがお勧めです。ちょっとした高低差なら、エスカレーターやエレベーターを使わずに、階段を登ってみてはいかがでしょうか。ただし、イメージとは逆だとは思いますが、階段下りは危険なので、エスカレーターやエレベーターの使用をお勧めします。

運動の例

ストップ・ザ・億劫!
なお、生活面の工夫は大事です。実は、転ぶのは外出時ではなく、自宅の中や周辺が多いのです。玄関マットやスリッパはつまずきの原因となるので使わない方が無難です。靴は、歩きにくいおしゃれ靴よりウォーキングシューズが良いでしょう。できれば、ミドルカットかハイカットでくるぶし辺りまでカバーする靴が勧められます。靴紐は、億劫がらずにきちんと結びましょう。登山靴がベストですが、簡単ではないでしょうね。
大事なことは「ストップ・ザ ・億劫!」です。何かあればすぐに、ちょっと立ち上がったり座ったりしましょう。女性の方が、こうした動きは多いと思います。杖は、1本ではダメで、ウォーキングポールという2本セットを使いましょう。肩掛けバックも勧められません。両手が空くリュックがいいでしょう。最近では、街中でもリュックを見ることが増えました。たくさんの商品が出てきて選択肢が増えていますので、ぜひトライしてみてください。

フロアマット~ウォーキング

最後に(CKD-MBD対策の目標)

CKD-MBD対策においては、心筋梗塞や狭心症、心不全、脳卒中(血管が詰まる脳梗塞と血管が破ける脳出血)などの、命をおびやかす重大な病気の発症を少しでも減らしたり、病状を軽くしたりすることが大きな目標です。このためには、特に高リン血症はコントロールすべきと思います。
一方で、骨折や、それが招く寝たきり・認知症などを予防することもCKD-MBD対策の目標であり、そのためには、患者さん自身がまず身近な目標を設定し、遂行していくことも非常に重要です。できる限り自分の足で動いて外出し、お風呂やトイレに自分で行くことなどは、大変素晴らしい目標です。「こんなはずではなかった」と思う前に、遠慮せず、さまざまなエキスパートに相談してみましょう。主治医の先生や看護師さん、栄養士さん、理学療法士さん、薬剤師さんなど、周りにはいっぱい専門職の方がおられるはずです。そして、食事にちょっぴり気を使い、体を動かす心がけが大事です。「ストップ・ザ・億劫!」です。
このコラムが、皆さまの生活のちょっとしたヒントや助けとならんことを願っておしまいにします。長文を最後までお読みいただき、ありがとうございました。

☞ CKD-MBDとは?:CKD-MBD(慢性腎臓病に伴う骨ミネラル代謝異常)①

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<出典>
* 花房規男 他. わが国の慢性透析療法の現況(2021年12月31日現在) 透析会誌 2022;55:665-723


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