ドクターインタビュー

進歩し続ける慢性腎臓病治療

筑波大学医学医療系臨床医学域腎臓内科学 教授
山縣 邦弘 先生

進歩し続ける慢性腎臓病治療

筑波大学医学医療系臨床医学域腎臓内科学 教授
山縣 邦弘 先生

山縣先生

目次

Chapter 2:近年の生活指導の変化

太り過ぎや痩せ過ぎに注意! しっかり食べて体を維持しましょう

----- 食事などの生活面については、近年はどのような指導方針なのでしょうか。

慢性腎臓病は、糖尿病や高血圧といった生活習慣病が大元の原因になっている場合が多く、以前は対策として肥満を解消することが強調されていました。確かに、慢性腎臓病患者さんは一般に太り気味の方が多いので、もちろんそれ自体は間違いではありません。しかし、最近多いのは、加齢に伴う腎機能低下で、肥満もないまま腎機能が低下し、慢性腎臓病と診断された高齢の患者さんです。このような患者さんは、病気を気にするあまり、食事を過度に制限してしまうことも多く、活力が低下し、ふらつきを自覚するなど、フレイル※1やサルコペニア※2の症状に気を付ける必要があります。慢性腎臓病の進行が抑えられたとしても、他の病気になって寝たきりになったり、寿命が縮んだりしては本末転倒です。患者さんから「食べてはいけないものはありますか?」とよく聞かれますが、最近は「まず好きなものを食べて体を維持し、適度に運動しましょう」と指導することが多いです。

※1 フレイル:筋力や心身の活力が低下し、介護が必要になりやすい、健康と要介護の間の虚弱な状態
※2 サルコペニア:筋肉が減り、体の機能が低下した状態

----- 以前は、タンパク質を制限するようによく言われていましたが、現在はいかがですか。

高度に腎機能が低下した場合にはタンパク質の制限が必要であることは現在も変わりませんが、圧倒的に多い軽度の腎機能低下の方、特に高齢患者さんにおいては、やはり摂取不足が問題視されています。タンパク質は体を構成する栄養素ですので、不足すると痩せていってしまいます。タンパク質も、過度な制限をせず、必要量をしっかりと取ることが重要です。

----- 「制限しながらも必要量をしっかり取る」という難しいコントロールが必要なのですね。

そうですね。ですから、自己流で食事療法を行うのではなく、積極的に病院の栄養士に相談していただきたいです。
一方で、近年はタンパク質の「質」についても研究が進められています。タンパク質には、大きく分けて動物性タンパク質と植物性タンパク質があります。動物性タンパク質は肉や魚介、卵、乳製品などに含まれ、植物性タンパク質は米や小麦などの穀物、大豆やナッツなどの豆類などに含まれています。それぞれの摂取量と腎機能の関係について多数の研究が行われており、植物性タンパク質をたくさん食べた方が腎臓病を予防する可能性があるという研究も増えてきています。

----- 動物性タンパク質を取るか、植物性タンパク質を取るかによっても違いがあるのですね。

透析患者さんにおいては、十分な蛋白摂取量の確保が必要とされています。しかし、タンパク質が多い食品には、リンも多く含まれる傾向があります。血液中のリン濃度が高い状態が続くと、骨折や心血管疾患(心不全、心筋梗塞、脳血管障害など)のリスクが高くなります。リンが体に溜まりやすい透析患者さんにおいては、タンパク質を取る際、いかにリンの吸収を抑えるかが重要です。一般的に、植物性タンパク質を含む食品は、動物性タンパク質を含む食品に比べてリンの吸収率が低いので、大豆蛋白のような良質な植物性タンパク質を積極的に取ることは勧められます。

----- 透析を受けていない慢性腎臓病患者さんにも、動物性タンパク質より植物性タンパク質が勧められるのでしょうか。

多くの調査では、植物性タンパク質を多く摂ることで、腎機能の低下を抑制する効果があるとされています。まだ、信頼性の高い臨床研究の結果はありませんが、国内外で研究が進んでいるので、近い将来明らかになってくると思います。

"腎臓病=安静"は昔の話。医療者の指導の下で積極的な運動を

----- 運動については、現在はどのような指導方針なのでしょうか。

一昔前は、慢性腎臓病患者さんは安静にするように言われていましたが、今は積極的に運動する方が予後も良くなるという見解が一般的です。特に高齢患者さんは、痩せ過ぎると生命予後に関わりますし、食事療法だけではフレイル、サルコペニア対策にはなりません。しっかり食べた上で運動もして、筋肉量を保っていただく必要があります。

----- どのような運動をどれくらいやったらいいのでしょうか。

患者さんの状態によりますので、一概に何が良いと言うのは難しいです。例えば心臓の病気がある方では、疾患の状態によっては運動が禁忌となる場合もあります。運動の内容や量については、主治医と相談して決めていただきたいです。理学療法士などに指導してもらうと、より適切な運動方法を学べると思います。
1つ、筑波大学病院に通院中の慢性腎臓病の患者さんの例を挙げます。彼らは1日の3分の1以上を座位などで過ごされていましたが、このうちの30分を早歩きなどの運動に変えただけで、下肢の筋力の改善が見られました。 このように、日常にちょっとした運動を取り入れるだけでも効果はあると思います。
ただし、運動することにより、胸痛などの症状が出る場合には、運動をやめて、主治医に相談するなど、適切な対応が必要です。

----- 運動を習慣化するのが難しいという人もいると思いますが、運動を続けるためのコツはありますか。

運動の習慣化と同時に、血圧、体重などの目標値を設定することをお勧めします。それらを定期的に測定して記録を残すことが、運動の習慣化につながる刺激になると思います。また、1人だけではなく、家族や知人と一緒に運動することもお勧めです。
最近増えているフィットネスクラブを利用することも1つの方法だと思います。トレーナーの方たちは、運動を続けるためのモチベーションアップにも長けていて、気持ちよく通えるように気を配ってくれます。
実は筑波大学病院の中にもフィットネスクラブがあります。患者さんに体験していただくために、教育入院中にそこで運動指導を受けてもらうことを考えています。いつでも気軽に利用できるので、気に入ったら退院後も通ってもらえればいいと思っています。

----- 山縣先生は、日本腎臓リハビリテーション学会の理事長も務めておられますが、「腎臓リハビリテーション」とはどのようなものでしょうか。

山縣先生

「リハビリテーション」と聞くと運動療法のように思われがちですが、「腎臓リハビリテーション」とは、運動のみならず、食事や服薬、生活の指導、さらには精神的なケア、社会福祉利用なども含めた包括的なサポートプログラムのことです。慢性腎臓病患者さんは、基本的に病気と長く付き合っていくことになります。そのような患者さんたちに"日常生活をより楽しく送ってもらうためにはどうしたらいいか"という発想から生まれたのが腎臓リハビリテーションです。食事や運動などで慢性腎臓病の進行を抑えたり、体を維持したりするだけではなく、その先に何ができるようになるかが重要だと思っています。

----- 腎臓病患者さんの生活の質(QOL)を上げるためのサポートということですね。

そうですね。そして、その結果が、患者さんの腎機能の維持や生命予後の改善にもつながると考えています。
学会の活動によって、腎臓リハビリテーションガイドラインが作成されたり、腎臓リハビリテーション指導士制度が導入されたりして、医療現場に腎臓リハビリテーションが徐々に普及してきています。今は、昔のように「病気になったら家でおとなしくしていましょう」という時代ではありません。患者さんには、日常の活動性を高め、社会との接点を増やしていただきたいと願っています。

バナー


この記事を見た人が読んでいるのは

専門家に聞こう!



関連記事

病院検索 閉じる
トップへ