ドクターインタビュー

進歩し続ける慢性腎臓病治療

神戸大学大学院 腎臓内科 名誉教授
医療法人社団 一陽会 服部病院 腎臓内科部長 兼 透析センター長

西 愼一 先生

進歩し続ける慢性腎臓病治療

神戸大学大学院 腎臓内科 名誉教授
医療法人社団 一陽会 服部病院 腎臓内科部長 兼 透析センター長
西 愼一 先生

西先生

目次

Chapter 3:慢性腎臓病の早期発見・早期治療について

定期的な健康診断で慢性腎臓病の早期発見を!

----- 慢性腎臓病の早期発見・早期治療という点では、近年どのような進歩がありましたか。

慢性腎臓病という概念は、2000 年以降に世界的に広まりました。日本でも、日本腎臓学会を中心に対策が行われ、2010年代後半ごろから慢性腎臓病が社会的に認知されるようになりました。これは、慢性腎臓病の予防という意味でも大きな成果だと思います。また、近年は健康診断の結果にeGFRが記載されるようになりましたし、慢性腎臓病の重症度分類が一般の開業医の先生方にも浸透し、それに基づいて腎臓専門医に紹介する仕組み作りが進められています。このような取り組みは、慢性腎臓病の早期発見・早期治療に大きく貢献していると思います。

----- 社会的な対策が進んでいるのですね。

ただし、まだ十分とは言えません。慢性腎臓病対策の一番の入り口となるのは健康診断ですが、そもそも定期的な健診を受けていない人がまだ多いです。これでは、どれだけ対策をしても早期発見はできません。
普段から体を動かしていて元気な人ほど、健診は不要と考えがちですが、検査してみたら腎臓が悪かったということはよくあります。「他の病気で通院していて検査も受けているけど、腎臓が悪いと言われたことはないので大丈夫」と思っている方でも、実は慢性腎臓病だったということもよくあります。

----- やはり健診を面倒に思う方が多いのでしょうか。

その気持ちは私も分かります。以前、歯医者さんで虫歯の治療を受けたとき、その後も定期的に受診するように言われましたが、正直なところ面倒だと思いました(笑)。しかし、定期的に診てもらうようになると、虫歯になることはほとんどなくなりましたし、歯周病も良くなりました。医師として常に患者さんに言っていることですが、改めて自分の体をケアすることの大切さを実感しました。

----- 特にご高齢の方には、定期的に健診を受けていただきたいですね。

人間の体は、何もしないより、少しでもケアしてあげた方が当然長持ちします。最近は「人生100年」と言われますが、100歳まで元気でいるためには、悪いところを早く見つけて対処することが絶対に必要です。心不全や認知症、虫歯など、気を付けるべきさまざまな病気があり、慢性腎臓病もその1つです。「腎臓は沈黙の臓器」と言われるように、慢性腎臓病の初期段階は自覚症状が何もありません。どれだけ元気な方でも、最低1年に1回は、簡単なコースでもいいので健診を受けていただきたいです。

"教育入院"でライフスタイルを見直す

----- 健診の結果、腎臓に異常があると言われたら、どのような病院にかかったらいいですか。

まずは、近隣の内科の開業医さんにかかるといいと思います。慢性腎臓病は、糖尿病や高血圧などの生活習慣病が原因となっている場合が多いです。それらの病気の治療をして、それでも腎機能の低下が続くようであれば、病院の腎臓内科を紹介してもらうという流れが一般的です。ただし、腎機能の低下速度が速い場合は、すぐにも腎臓内科を受診していただく必要があります。

----- 腎臓内科を受診する目安はありますか。

日本腎臓学会が作成したガイドラインに腎臓内科への紹介基準(*1)が設けられているので、それに基づいて主治医の先生が判断してくれると思いますが、大まかに言えば、eGFRが30以下なら絶対に腎臓内科を受診していただきたいです。若い方の場合は、45以下でも受診していただいた方がいいと思います。また、eGFRが1年間で5以上低下している場合も受診していただきたいです。

----- 腎臓内科では、どのような診察を受けるのですか。

基本的には、血液検査や尿検査などで腎臓の状態を詳しく調べます。腎機能の低下速度が速い場合や、血圧のコントロールができていない場合などは、教育入院を勧めることもあります。

----- 教育入院では、どのようなことを行うのですか。

西先生

腎臓病の教育の他に、腎機能が低下している原因を探り、改善の指導を行います。
例えば、24時間血圧計で1日の血圧の変動を調べたり、睡眠状態を調べたりします。夜中に目覚めることが多かったり、朝目覚めるのが早すぎたりして睡眠不足になっていると、血圧のコントロールが悪くなります。入院によって1日の様子が分かってくると、有効な対策が立てやすくなります。
食事指導も、外来で行う場合より詳しく行うことができます。ご自身では制限していると言っていても、詳しく確認してみると、思っていたよりも多くの食塩を取っていることがあります。そのようにして食生活を見直し、具体的な改善指導を行います。
また、服用しているお薬を整理する機会にもなります。特にご高齢の方は、複数の病院でお薬を処方してもらっていることが多いですが、改めてすべてのお薬を確認してみると、飲み合わせが良くないことがあるなど、調整が必要な場合もあります。

----- 教育入院は、やはり効果がありますか。

そうですね。教育入院によって、eGFRの低下が緩やかになる患者さんは多いです。慢性腎臓病の治療にはライフスタイルの改善も必要ですので、教育入院を勧められたら、ぜひ受けていただきたいです。

----- その後の治療は、どのように進んでいくのですか。

慢性糸球体腎炎など、腎臓専門医による治療が必要な腎臓病の場合は、その後も腎臓内科に通うことになりますが、糖尿病や高血圧が原因となっている慢性腎臓病の場合は、基本的に紹介元の開業医さんで治療を行っていくことになります。
ただ、いずれの場合も、日々の自己管理は慢性腎臓病治療のベースになります。今後、新しい治療法が現れても、それは変わりません。医療スタッフと相談しながら、適切に自己管理を続けていただきたいと思います。

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<出典>
*1 日本腎臓学会 エビデンスに基づくCKD診療ガイドライン2023:p4


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