ドクターコラム

慢性腎臓病と腎性貧血

慢性腎臓病と腎性貧血

奈良県立医科大学 腎臓内科学 教授 鶴屋 和彦 先生

奈良県立医科大学 腎臓内科学 教授 鶴屋 和彦 先生

慢性腎臓病と腎性貧血

掲載日:2017/09/21

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腎性貧血とは
慢性腎臓病(CKD)がステージG4~G5(☞CKDの重症度)に進行するとヘモグロビン(Hb)値が低下し、貧血を発症しますが、その主な原因は腎性貧血によるものです。腎臓にはさまざまな機能があり、その中の1つに、赤血球の産生を促す造血ホルモン(エリスロポエチン)を作ることがあります。腎性貧血とは、腎臓で作られる造血ホルモンが腎機能障害とともに減少し、赤血球の産生が減少するために起こる貧血で、進行したCKD患者さんのほとんどに生じる病態です。

※ ヘモグロビンは、赤血球の中に存在し、肺で酸素と結合して血液の流れに乗って全身の組織に酸素を運ぶ役割を持っています。ヘモグロビン値が低下すると、運ばれる酸素の量が減り、倦怠感、動悸、息切れ、めまいなどの貧血の症状があらわれます。

腎性貧血

CKD患者さんの貧血は、腎性貧血の他にも、鉄欠乏や炎症、尿毒症性毒素による赤血球寿命の低下などによっても起こり、さまざまな要因が絡みあって引き起こされることが明らかになっています。
造血ホルモン剤の恩恵
造血ホルモン剤が開発され、1990年に発売されるより以前は、腎性貧血の有効な治療法はなく、透析患者さんなどの重度のCKD患者さんでは、Hb値 8~9 g/dL程度の高度な貧血状態で生活し、それさえ維持できずに定期的な輸血を余儀なくされる患者さんも多数おられましたが、発売以降は、ほとんどのCKD患者さんで良好な管理が可能となりました。その後、2つの長時間作用型の造血ホルモン剤が相次いで開発、発売され、さらに貧血管理は容易になりました。
現在、これらの薬剤は赤血球造血刺激因子製剤(ESA)と呼ばれ、CKD患者さんの腎性貧血治療薬として重要な薬剤となっています。

ESAの登場
目標Hb(ヘモグロビン)値
ESAが登場して貧血管理が容易となり、腎性貧血の治療において目標とすべきHb値が議論されるようになりました。保存期CKD患者さんを対象に、目標Hb値と心血管疾患(心筋梗塞、心不全、脳卒中など)の発症や腎機能障害の悪化との関係が調べられ、ESAを用いてHb値を健常人レベル(≧13 g/dL)まで高くしても、生命予後(どのくらい生きられるか)や腎予後(腎機能がどのくらい保たれるか)はそれほど改善されず、むしろ、心血管合併症のリスクが高まる可能性があると考えられるようになりました(*)。諸外国のガイドラインではHb値を13 g/dL以上にすべきでないことが明記され、わが国のガイドライン(*)にも同様に記載されています。
一方、Hb値が低すぎると、さまざまな貧血症状が起きやすくなるだけでなく、腎機能が急速に低下して透析や腎移植が必要になる時期が早まる可能性があります。そのため、わが国のガイドライン(*)では、保存期CKD患者の目標Hb値として11.0~13.0 g/dLが推奨されています。

適正Hb値
鉄剤の使用法について
赤血球(ヘモグロビン)を作るためには鉄が不可欠なので、ESAが効果を発揮するためには、鉄が充足していることが必要です。鉄が充足しているかどうかは、体内に貯蔵されている鉄の量を示す(血清)フェリチン値※1と、その鉄が赤血球の産生などに利用されている程度を示すトランスフェリン飽和度(TSAT※2)によって調べることができます。

※1 フェリチンは内部に鉄を貯めることができるタンパク質で、多くは肝臓や脾臓に存在しています。
※2 トランスフェリンは血液中で結合した鉄を運ぶタンパク質で、トランスフェリン飽和度は鉄を運んでいるトランスフェリンの割合を示します。

フェリチンとトランスフェリン

これまでわが国では、フェリチン値 ≦100 ng/mL かつ TSAT ≦20% の場合に鉄剤を投与することが推奨されてきましたが、この基準は海外のガイドラインに比べ、鉄剤使用に関してかなり消極的なものでした。その理由は、注射された鉄剤が酸化ストレスの原因となり、生命予後に悪影響を与えることが懸念されたためでした。
しかし、近年、鉄剤の積極使用は、心不全の症状や運動能力、QOL(生活の質)を改善させる可能性がわかり始め、もう少し積極的に鉄剤を使用してもいいのではないかという意見が出されるようになりました。その結果、最新のガイドライン(*)では、炎症や悪性腫瘍(がん)などで鉄がうまく利用できない場合を除き、フェリチン値 <100 ng/mL または TSAT <20% の場合には、フェリチン値が300 ng/mLを超えないように注意しながら鉄剤を使用することが提案されています。まだ海外のガイドラインと比べると控えめではありますが、鉄剤に対する考え方が少し近づいたことになります。
日常生活での注意点
最近では、鉄含有リン吸着薬が相次いで発売され、食事以外で鉄が補充される機会が増加しています。したがって、日常生活で食事からの鉄分摂取を積極的に心がける必要はありません。鉄分の多い食品として、魚介類、レバー、チョコレート、ドライフルーツ、豆類、緑黄色野菜などがあげられますが、これらの食品を過剰に摂取すると血清カリウムやリン濃度が上昇します。鉄欠乏の場合には、鉄剤の注射や内服薬がありますので、それで十分です。
また、炎症と低栄養は、ESA反応性を低下させ、貧血を悪化させます。風邪や気管支炎、腸炎などで食欲が低下すると貧血が悪化しますので、うがい、手洗いを励行し、感染予防を心がけましょう。
手洗いとうがい

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<出典>
* 日本透析医学会 2015年版 慢性腎臓病患者における腎性貧血治療のガイドライン 透析会誌 2016;49:89-158


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