2017.12.14 腎移植の基本情報
ABO血液型不適合移植
監修:新潟大学大学院 腎泌尿器病態学分野 准教授 齋藤 和英 先生
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ABO血液型不適合とは、ドナー(提供する人)からレシピエント(提供を受ける人)に輸血ができない血液型の組み合わせのことをいいます。具体的なABO血液型適合・不適合の組み合わせを、以下にお示しします。
ABO血液型不適合の腎移植は、今では一般的に行われていますが、以前はほとんど行われることがありませんでした。
血液型とは、赤血球などの細胞にある抗原の型のことで、A型の人はA抗原を、B型の人はB抗原を、AB型の人はその両方を持っており、O型の人はそのいずれも持っていません。
一方で、それぞれの抗原に反応する「抗体」という物質が存在します。抗体は、抗原を異物とみなして体内から排除しようとする生体のはたらき(免疫)において、中心的な役割を担っています。
ABO血液型不適合の組み合わせにおいては、ドナーの血液型抗原に反応する抗体を、レシピエントが持っています。そのため、適切な処置を行わずにABO血液型不適合移植を行うと、移植された腎臓にあるドナーの血液型抗原を目印にして、レシピエントの抗体が腎臓を攻撃します。その結果、移植後の早い段階で移植された腎臓の機能が失われてしまいます。
以前はABO血液型不適合移植がほとんど行われなかったのは、この強い拒絶反応が起こることが理由でした。しかし、医療の発展や免疫抑制薬の進歩によってこの拒絶反応を抑制することが可能になったため、現在では、ドナーとレシピエントの血液型がどのような組み合わせでも腎移植が可能となりました。
ABO血液型不適合移植の手術後に現れる強い拒絶反応は、移植手術の前に適切な処置を行うことによって抑制できるようになりました。現在では主に、移植手術に先立って、抗体の除去と脱感作療法と呼ばれる治療が行われます。
①抗体の除去
レシピエントの血液中にある抗体を、移植前に除去します。抗体は血液中の「血漿」と呼ばれる液体成分の中に含まれているため、体の外に取り出した血液を、血漿分離機で血球成分と血漿成分に分離して血漿を破棄し、その分を健常な方の血漿(新鮮凍結血漿)、あるいはアルブミンで補います。これを血漿交換といい、移植手術の1週間程度前から数回行います(実施回数は抗体の減り方を見ながら増減します)。
②脱感作療法(だつかんさりょうほう)
移植された腎臓はレシピエントの体にとっては異物であるため、ドナーとレシピエントの血液型が適合しているかいないかにかかわらず、移植手術の準備段階から免疫抑制薬が使われます。また、移植後も移植した腎臓が機能している限り、数種類の免疫抑制薬を毎日飲み続けなければなりません。
ABO血液型不適合移植の場合、強い拒絶反応を抑えるため、ABO血液型適合移植の際に使われる免疫抑制薬を移植手術の数週間前から開始するのに加えて、特に抗体を作り出すBリンパ球に作用して抗体の産生を低下させるはたらきがある、新しい免疫抑制薬を使用します。この薬剤は、通常、移植手術の2週間前ないし1週間前に点滴で使用されます。薬剤の使用量やタイミングは病院によって若干異なります。このように移植に先立って行う、血液型不適合に関連する拒絶反応を抑える免疫抑制療法のことを「脱感作療法」といいます。
以前は、抗体の産生にかかわる脾臓の摘出も一般的に行われていましたが、この脱感作療法が普及してからは、行われないことが多くなりました。
新潟大学の研究では、2001年から2010年までに行われたABO血液型不適合移植(1,427件)のうち、移植の1年後に腎臓が生着し続けていた方は全体の96%、5年後で91%、9年後で83%でした。これは血液型適合移植の治療成績とほとんど変わりません(*)。
2000年頃からABO血液型不適合移植は普及し、今では一般的に行われるようになりました。2017年には、年間に行われた腎移植全体の約25%がABO血液型不適合移植となっています。
以前は困難とされたABO血液型不適合移植が今では一般的になっているように、移植医療は日々進歩しています。腎移植を希望される方は、ご家族の方と一緒に、移植施設、あるいは治療を受けている施設の主治医から詳しく話を聞いてみてください。
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☞【参考】
動画体験シリーズ「生体腎移植」
<出典>
* 高橋公太,齋藤和英 ABO-incompatible kidney transplantation Transplantation Reviews 2013;27:1-8