腎移植後・腎提供後の生活の注意点
監修:東京女子医科大学病院 腎臓病総合医療センター 泌尿器科 准教授 奥見 雅由 先生
腎移植後の生活の注意点
腎移植を受けると、多くの場合、健常者とほとんど変わらない生活を送ることができるようになります。
ただし、他人から提供してもらった腎臓(移植腎)は、移植者の体にとっては「異物」ですので、何も対処しないと拒絶反応によって早期に機能が失われてしまいます。
また、腎移植を受けても、糖尿病や高血圧といった腎不全の原因となった生活習慣病は治るわけではありません。これらの生活習慣病を悪化させたり、移植後新たに発症したりすると、再び腎不全になってしまう場合もあります。
移植腎をできるだけ長持ちさせるためには、日常生活において、いくつかの点に注意する必要があります。
<服薬の遵守>
移植者は、移植腎が機能している限り、免疫抑制薬を毎日服用する必要があります。免疫抑制薬は決められた時間やタイミングで、決められた量をしっかりと服用することが重要です。
また、糖尿病や高血圧といった腎不全の原因疾患の治療薬なども、主治医の指示に従って服用を続ける必要があります。
☞ 参考:腎移植ライフ「腎移植後の服薬」
<感染予防>
免疫抑制薬を毎日服用していると、感染症にかかりやすくなります。そのため、手洗い・うがいといった基本的な感染予防の励行が大切です。また、移植者は感染症にかかると重症化しやすいので、早期治療が重要です。
<定期受診>
移植手術を受けて退院した後は、月1回程度、移植施設を受診し、血液中の免疫抑制薬の濃度や移植腎の機能などを検査してもらいます。検査の結果を受け、必要に応じて、免疫抑制薬の服用量や種類が変更されます。
<適正な食事・十分な水分摂取>
腎移植を受けると、末期腎不全の状態を脱するため、腎機能が安定していれば、ほとんどのものを自由に食べられるようになります。ただし、以下の点に注意します。
1) 免疫抑制薬の効果に影響を及ぼすものは飲食しない
一部の柑橘類やセイヨウオトギリソウ(セント・ジョーンズ・ワート)を含む食品は食べたり飲んだりしないようにします。
2) 感染リスクのある食品に注意する
生ものを食べる場合は、新鮮なものを選ぶようにします。
3) バランスのよい食事をとり、食べ過ぎに注意する
糖尿病や高血圧などの生活習慣病がある方はもちろん、それらがない方も、生活習慣病の発症・悪化や太り過ぎを避けるために、食事のバランスや量に気を付けます。
4) 塩分の取り過ぎに注意する
塩分の取り過ぎは移植腎に負担をかけ、高血圧の原因にもなります。
5) 十分な水分を取る
脱水は移植腎に負担をかけるので、適宜十分に水分をとるようにします。具体的には1日の尿量が1.5~2リットル程度確保できるように心がけます(*)。
☞ 参考:腎移植ライフ「腎移植後の食事」
<適度な運動>
腎移植後6カ月以上が過ぎ(*)、主治医の許可が得られれば、移植腎を圧迫する可能性がある運動や、体に極端な負荷がかかる運動以外なら、どのような運動でもできるようになります。太り過ぎは移植腎に負担をかける上、生活習慣病の原因にもなるので、適度な運動を積極的に行うことが望ましいです。
なお、プールも、腎移植後3~6カ月以上が過ぎ(*)、主治医の許可が得られれば入ることができますが、衛生管理が行き届いているプールを選ぶようにします。
温泉や公衆浴場も、プール同様に、衛生管理が行き届いていることを確認してから入るようにします。
☞ 参考:腎移植ライフ「腎移植後の運動」
<主治医の指示に従った妊娠準備>
腎移植後は、透析中に比べると妊娠・出産できる可能性が高くなりますが、妊娠するためには、主治医の指示に従って準備する必要があります。移植腎の機能が安定していることなど、いくつかの条件をクリアした後、免疫抑制薬などの薬剤を必要に応じて変更し、一定期間問題がなければ、主治医から妊娠の許可が得られます。
☞ 参考:腎移植ライフ「腎移植後の妊娠・出産」
腎移植は、他人から腎臓を提供していただくことで成り立つ医療です。移植された腎臓には、提供者(生体腎ドナーや、献腎移植の場合は亡くなられた方とそのご遺族)の「移植者に生き生きとした生活をできるだけ長く送ってほしい」という願いが込められています。彼らの思いを忘れずに日々を過ごすことが、何よりも重要です。
生体腎ドナーにおける腎提供後の生活の注意点
生体腎ドナーは、腎提供後も提供前と変わらない生活ができます。ただし、将来的に腎機能が低下するリスクも0ではないので、年1回は移植施設などでフォローアップを受けることが重要です。
また、生活習慣病に気を付けること、定期的にがん検診を受けること、移植者と同居している場合などは、移植者にうつさないように感染予防をすることも大切です。
☞ 参考:腎移植ライフ「腎提供後の生体腎ドナーの自己管理」
<出典>
* 後藤憲彦・鳴海俊治・渡井至彦 編 腎移植あなたの疑問にすべて答えます2018:バリュープロモーション 2018