ドクターコラム

CKD-MBD(慢性腎臓病に伴う骨ミネラル代謝異常)

CKD-MBD
(慢性腎臓病に伴う骨ミネラル代謝異常)①

和歌山県立医科大学 腎臓内科学 教授 重松 隆 先生

和歌山県立医科大学 腎臓内科学 教授 重松 隆 先生

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掲載日:2019/12/05

CKD-MBDとは?

「CKD-MBD」という用語を聞かれたことがあるでしょうか?これはChronic Kidney Disease(CKD慢性腎臓病)に伴って起こるMineral & Bone Disorder(MBD : 骨ミネラル代謝異常)を表した用語で、約15年前から使われるようになってきた言葉です。20世紀には、腎臓病の患者さん(特に透析患者さん)においては、骨や関節の病気が頻繁に起こり、患者さんの生活の質をずっと下げ続けてきました。この頃は、腎臓病の患者さんに見られる骨関節障害は、Renal OsteoDystrophy(ROD : 腎性骨異栄養症)と呼ばれていました。特に透析患者さんに多く見られたので、「透析骨症」とも呼ばれていました。「腎性骨異栄養症」という名前は、栄養と関係が深い病気と考えられていたことに由来します。

腎臓と骨に関わるミネラル:カルシウムとリン
腎臓は「活性型ビタミンD」を産生する内分泌臓器でもあります。ドラッグストアなどで「ビタミンD」というサプリを目にしたことがあるかもしれません。ビタミンDは、日光に当たって皮膚から作られたり、食べ物から摂取されたりする脂溶性ビタミンの1つです。このビタミンDを原料として腎臓で作られるホルモンが活性型ビタミンDです。活性型ビタミンDは、血液中のカルシウムを保ち、骨を作るホルモンです。そのため、腎臓病で腎臓の働きが落ちると、活性型ビタミンDが不足し、血液中のカルシウムが低下して(低カルシウム血症)骨がスカスカになります。

カルシウムと骨

もう1つ、腎臓と骨に関係するミネラルとして、リンがあります。腎臓の働きが落ちてくると、カルシウムが不足しがちになるのとは逆に、リンは体(血液)の中に溜まってきてしまいます(高リン血症)。これは、血液中のリンが主に腎臓から尿中に排泄されることで調節されているからです。リンは体にとって大事な栄養ミネラル成分ですが、食が細くなったり食事が乏しくなったりしなければ不足することはありません。

リン排泄

では、どうしてROD(腎性骨異栄養症)がCKD-MBD(慢性腎臓病に伴う骨ミネラル代謝異常)に名前が変わったのでしょうか?名前が変わった理由はいくつかありますが、主なものは以下の2つです。

1)CKD(慢性腎臓病)があると、心血管病(心筋梗塞や狭心症・心不全・脳卒中など)が起こりやすいことがわかってきた。

2)CKDに伴う骨やミネラルの代謝異常が、心血管病の発症のみならず、骨折や寿命まで大きく左右していることが明らかになってきた(下図)。

CKD-MBD

CKD-MBDとしての二次性副甲状腺機能亢進症

カルシウムは不足しやすいミネラルで、腎臓病の患者さん(特に透析患者さん)は、低カルシウム血症と高リン血症になりやすいです。しかし、人間の体はよくできており、腎機能が落ちてきても、すぐには低カルシウム血症と高リン血症にならない仕組みがあります。それは、首のところに存在する甲状腺の脇にある「副甲状腺」という内分泌臓器から「副甲状腺ホルモン」というホルモンが分泌され、活性型ビタミンDの産生を促進してくれるとともに、尿中へのリン排泄を促進してくれるという仕組みです。この副甲状腺は、名前は甲状腺に似ていますが、実は全く別の内分泌臓器です。「副」と付いてはいますが、甲状腺にも決して劣らないくらい重要な臓器で、骨ミネラル代謝の守り神です。「上皮小体」という別名もありますが、これもパッとしないですね。名前で損している代表的な臓器です。

PTHの働き

副甲状腺ホルモンはお医者さんが時々測っていて、皆さんも検査結果を見たことがあるかもしれません。ParaThyroid Hormone(PTH:副甲状腺ホルモン)というものがそれです。ただ、このPTHが上がると、骨を削って犠牲にしてでも低カルシウム血症を避けようとします。そのため、骨が一気にスカスカになり、体が痒くなったり、イライラしたり、不眠になったり、ブツブツができたりします。さらに、PTHが上がった状態が長く続くと、血管が傷んで骨みたいに石灰化してしまいます。また、高リン血症が続くと、不整脈や心臓肥大、心電図異常が現れたり、筋肉が萎縮したりします。このような病気を「二次性副甲状腺機能亢進症」と言います。二次性副甲状腺機能亢進症になると、骨がとてもスカスカになって骨折しやすくなったり、骨が変形したりする「線維性骨炎」という恐ろしい状態になります。

PTHと骨

私が医師になった頃は、こうした患者さんに出会って辛い思いをしました。しかし、20世紀後半から最近までのCKD-MBD治療の進歩には、素晴らしいものがあります。腎臓病の患者さんにも、状態をコントロールするためにちょっと努力していただく必要がありますが、現在は、適切な治療を行うことで、二次性副甲状腺機能亢進症や線維性骨炎の恐怖に怯える必要がなくなっています。このような恵まれた状況になったので、ROD (腎性骨異栄養症)からCKD-MBD(慢性腎臓病に伴う骨ミネラル代謝異常)へと名前が変わり、ミネラルの代謝異常や、それに伴う血管障害や心血管病も視野に入れたさらなる医療の進歩を目指す時代になりました。

☞ CKD-MBDの対策について:CKD-MBD(慢性腎臓病に伴う骨ミネラル代謝異常)②

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