今後、どのようになるのですか?
教授 猪阪 善隆 先生
2022.03.28 教えて!ドクター
ドクターインタビュー
神戸大学大学院医学研究科 腎臓内科/腎・血液浄化センターは、糸球体腎炎、保存期慢性腎不全、透析医療、血液浄化療法、透析合併症治療、移植医療など、慢性腎臓病の初期段階から末期に至るまでの総合的な疾患対策を行っており、基礎研究・臨床研究にも力を入れています。 長年、慢性腎臓病治療に携わってこられた、神戸大学大学院医学研究科 腎臓内科/腎・血液浄化センター 教授・センター長の西愼一先生に、慢性腎臓病の進行抑制と治療、末期腎不全治療における腎代替療法の選択について、そして今後期待する慢性腎臓病治療への取組みについてお聞きしました。
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取材日:2016/02/10
Chapter 1: 慢性腎臓病(CKD)の早期発見と進行抑制について
-----日本全国には慢性腎臓病(CKD)の患者さんが約1,330万人(20歳以上の成人の8人に1人)いる(*1)と言われていますが、CKDの原因として、最近はどのようなものが多いのでしょうか。
最近のCKDの傾向としては、糖尿病の合併症である糖尿病性腎症と、高血圧に伴う腎硬化症の二つが増えています。2006年以降、この二つで透析導入の原疾患の半分以上を占めており(*2)、糖尿病や高血圧といった生活習慣病がCKDの主な原因になってきていると言えます。
-----CKDはどのようなタイミングで見つかることが多いのでしょうか。
健康診断の際に蛋白尿が出てCKDステージ1~2の段階で見つかるということもありますが、やはり様々な症状が出始めるステージ3(GFRが60mL/分/1.73m²未満)以降の段階で見つかることが多いです。
-----CKDが進行する前に早期発見するには、どのような検査を受ければよいのでしょうか。
CKDは早期の段階では症状が現れないので、早期発見のためには、健康診断で尿検査と血液検査を受けることが必要です。尿検査では尿蛋白の有無を確認し、血液検査では推算糸球体濾過値(eGFR)を測定します。eGFRは、血清クレアチニン値と年齢、性別から計算することができ、近年では健康診断結果に記載されることが多くなっています。もし記載がなかった場合でも、血清クレアチニン値の検査結果があれば、かかりつけの先生に計算していただくこともできますし、最近はWebサイト上で自分で計算できるものもあります。
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-----早期発見には、まず定期的に健康診断を受けることが大事ということですね。検査の結果、CKDが見つかった場合、どの段階であれば、進行を遅らせる、あるいは治すことができるのでしょうか。
CKDステージの早期段階であるステージ1、2または3aで発見され、適切な対策がとられれば、病気の進行を抑制できる可能性が高まります。具体的な例として、かつては透析導入患者の原疾患として糸球体腎炎(IgA腎症)が多かったのですが、近年はその割合が少なくなっています。理由の一つとして、IgA腎症に対する積極的なステロイド療法と扁桃摘出術による治療が普及し、透析にまで至る患者さんが減少したことがあると考えられています。
-----一方で、透析導入患者の原疾患として糖尿病性腎症が増えていると思いますが、現在の治療法にはどのようなものがあるのでしょうか。
糖尿病性腎症の治療法としては、早期からRA系(レニン‐アンジオテンシン系)阻害薬という降圧薬を使用することが有効であり、症状が若干軽減するともいわれています。糖尿病が疑われる場合、まずは糖尿病専門医の診察を受けて糖尿病の有無を確認し、その際に、もし糖尿病性腎症の症状が現れていたらRA系阻害薬を使い始める、というように、できるだけ早期に対策を打つことが重要です。
-----高齢化に伴って増えている腎硬化症の治療法についてはいかがでしょうか。
腎硬化症の主な原因は高血圧と加齢です。加齢は止めることができませんが、降圧薬の使用と生活習慣の改善によって、腎硬化症の進行を遅らせることができます。特に高齢者においては、生活習慣改善による全身の健康管理が重要で、食事における塩分制限に加えて、腎硬化症の大きなリスク因子である喫煙をやめることや、適度な運動なども有効です。
-----他に最近増えている腎臓病はありますか。
近年、原因不明のCKDが増えつつあります。原因については研究が進められていますが、もともと腎機能は加齢に伴って低下するものであり、通常よりも加齢現象が早く進行した結果ではないかという説もあります。生活習慣が乱れている方は、潜在的に加齢が進行している場合があります。健康診断で腎機能を確認し、同年代の基準よりも機能が低下している場合は、より生活習慣に気を付けていただく必要があります。
-----いずれの疾患の場合でも、定期的にeGFRをチェックしてCKDを早期段階で発見し適切な治療を行えば、進行をとめる、あるいは疾患によっては改善させることも可能ということですね。
もし、早期段階で治療を行わず、放置していたらどのようなことが起きるのでしょうか。
CKDはある程度腎機能が低下するまでは自覚症状が無いため、腎臓に負荷がかかる生活を続けてしまい、予想以上に早く腎機能が悪化し、透析治療や腎移植が必要な末期腎不全の状態になってしまうことがあります。
また、そのように腎機能の低下が早い方は、脳血管・心血管の病気を発症することが多く、腎臓病以外の合併症が増える傾向があります。CKDは、全身の血管病の進行を早めてしまうので、腎臓だけを診るのではなく、同時に全身の状態を診て治療を行う必要があります。
ともかくCKDの治療は、自覚症状がない段階で対策を打つことが非常に大事です。
-----次に、CKDの進行を遅らせる具体的な方法について伺いたいのですが、まず、CKDが見つかったとき、どのような病院、診療科にかかれば良いのでしょうか。
CKDステージ1~2の段階にある患者さんは非常に多く、その段階であれば、かかりつけの先生に診てもらえれば初期治療としては十分です。ただ、ステージが進行している場合、特に3b以降においては、腎臓専門医の診察が必要と考えます。CKDのステージによって病院や診療科を選ぶのが良いでしょう。
また、CKDの種類や原因によっても病院の選び方は異なります。
糖尿病が原因となっている場合、やはり血糖コントロールが基本になりますので、できれば糖尿病専門医に診ていただくのが良いと思います。糖尿病性腎症の発症によって蛋白尿が見られるようになったら、必要に応じて腎臓専門医でも診療するようになります。
腎硬化症は、高血圧が背景疾患ですので、早期段階では一般内科の先生に診ていただき、CKDステージが3bになったら、あるいは蛋白尿が多く出てきたら、腎臓内科でも診療を行うようになります。
糸球体腎炎(IgA腎症)においては、腎生検を行うかどうかの判断が必要になりますので、早期段階から腎臓内科を受診する必要があります。治療はステロイド療法や扁桃摘出術を状況に応じて行います。
-----薬物治療はどのように行うのでしょうか。
降圧薬による治療が中心になりますが、降圧薬にもさまざまな種類があり、合併症のことを考えてどの薬を選択するかを決定する必要があります。
また、腎機能が低下した方では、夜間に血圧が上昇するケースが多いので、家庭血圧※をしっかりと測定・記録していただき、血圧の日内変動のパターンに応じて薬を飲むタイミングを工夫する必要があります。腎臓専門医を受診して服薬方法を調節するようにしていただきたいと思います。
※家庭血圧:自宅で測る血圧のこと。毎日測れるので、血圧の変化を知ることができる。
-----食事はどのようなことに気を付ければ良いのでしょうか。
CKDの食事療法の基本は塩分制限で、特に高血圧の方には重要です。塩分の摂取量として一日6g以下(*3)が推奨されているのですが、現実的には自分が今、何g摂取しているかを常に把握するのは難しいので、一度、栄養士の先生の指導を受けて勉強していただくのが良いと思います。
-----近年は、タンパク質は以前のように厳しく制限をしていないと伺っていますが、実際はいかがですか。
腎機能に合わせてタンパク質の制限を行うことで、末期腎不全ないし死亡率を減らすと言われています(*4)。ただし、日常生活において毎日完全に指導を守ることは大変難しいので、私としては一つの努力目標だと考えています。また、あまり過剰な制限をすると、カロリー摂取不足や体重減少につながることもあるので、やはり栄養士の先生の指導を受けながら、栄養管理をしていただくのが一番ですね。
-----食事療法の第一は塩分制限、次にタンパク質の制限が重要ということですね。 運動についてはいかがでしょうか。CKD患者さんに運動は禁忌と言われていた時代がありましたが、今は運動についてはどのような考え方になっていますか。
CKD患者さんは運動を制限した方が良い、という特別な根拠もないので、適度な運動であれば制限するようなことはしていません。ウォーキングなどの軽い運動は、全身的な健康維持にも有効ですので、むしろ推奨しています。ただし、むくみがひどい場合など、何かしらの症状が出ているときは運動を控えた方が良いと思います。
-----その他に、CKD進行抑制のためにできることはありますか。
やはり規則正しい生活を送ることが大切です。特に睡眠時間には気を付ける必要があります。血圧が急に変動するような場合、睡眠不足が原因になっていることがありますので、患者さんの状態が悪化しているときは、睡眠時間をお聞きするようにしています。
具体的に何時間の睡眠が良いかについては、さまざまな研究があり一概には言えないのですが、少なくとも短時間睡眠は、交感神経の緊張や血圧の上昇につながるため、CKD患者さんにとって良くないと言われています。人によって必要な睡眠時間は異なりますが、寝不足と感じるような状況が続くことは避けていただきたいですね。
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<出典>
*1 日本腎臓学会 編. エビデンスに基づくCKD診療ガイドライン2023:1
*2 花房規男 他. わが国の慢性透析療法の現況(2021年12月31日現在) 透析会誌 2022;55:665-723
*3 日本腎臓学会 編. エビデンスに基づくCKD診療ガイドライン2023:92-93
*4 日本腎臓学会 編. エビデンスに基づくCKD診療ガイドライン2023:87-89
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