ドクターインタビュー

筑波大学 医学医療系 腎臓内科学 教授
筑波大学 医学医療系 腎臓内科学 教授

山縣 邦弘 先生

山縣 邦弘 <font size="4">先生</font>先生

筑波大学附属病院 腎臓内科では、腎臓病の早期発見から診断と治療、栄養管理、保存期慢性腎不全の管理、末期腎不全における腎代替療法選択、血液透析、腹膜透析の合併症管理、腎移植後の免疫抑制薬の管理に至るまで、全ての内科的腎疾患ならびに腎不全に対してきめ細かい診療を行う体制が整っています。
長年、慢性腎臓病治療に携わってこられた、筑波大学医学医療系 腎臓内科学教授の山縣邦弘先生に、慢性腎臓病の早期発見と治療、末期腎不全治療における腎代替療法の選択について、そして筑波大学附属病院 腎臓内科における慢性腎臓病治療への取組みについてお聞きしました。

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取材日:2015/09/29

目次

Chapter 1: 慢性腎臓病(CKD)の診断について

-----現在、日本には慢性腎臓病(CKD)の患者さんが約1,330万人いると言われていますが、そもそもCKDとはどのような病気なのでしょうか。

 

CKDとは「蛋白尿などの腎障害の存在を示す所見」または「腎機能の低下(GFRが60mL/分/1.73m²未満)」のいずれか、または両方が3カ月以上続く状態を言います。それまでは腎臓病というと難しい病気というイメージを持たれやすかったため、一般の方々にもっと腎臓病を知ってもらい、しっかりした予防、早めの治療をしていただくための啓発キャンペーンの中で、誰でもわかりやすく腎臓病を理解してもらうために用いられるようになりました。
CKDは初期には自覚症状がありません。放っておくといずれは慢性腎不全となり、さらに進行して末期腎不全の状態になると、透析や腎移植などの腎代替療法選択の必要性が出てきます。しかも近年では、CKDは脳卒中や心筋梗塞を起こす危険性が非常に高い病気であることも分かってきました。
そのような合併症を起こさないためにも、早期から治療を始めることが肝心です。

-----CKDは早期発見できるのでしょうか。

血液検査と尿検査の2つを受けるだけで診断可能です。ただし、先ほどもお話ししましたように、初期には自覚症状がないため、検査を受けなければ絶対に分かりません。
日本では、昭和40年代からCKDの診断のための血液検査や尿検査を行う体制が整えられてきました。全ての国民に対して、尿蛋白などの尿検査は小学校入学前から、血清クレアチニンなどの血液検査はある程度の年齢から受ける体制が取られていました。現在の特定健診となっても多くの自治体、企業などでは引き続き健診項目にクレアチニンを入れているところが多いと聞いております。

-----逆に、自覚症状が現れたときには、かなり進行した状態にあるということでしょうか。

基本的に、自覚症状が現れたときにはCKDのステージとしてはすでにかなり進行した状態と言えます。症状がないから大丈夫、ということは絶対にありませんので、その点を理解していただきたいと思います。

-----CKDの中にも治るものはあるのでしょうか。

山縣先生2

あります。新しい治療薬や治療法などが、少しずつですが着実に増えているのは事実です。特に若い世代に多い慢性糸球体腎炎は、腎臓の精密検査によって診断できる病気ですが、免疫抑制療法などの治療を行うことで、完全寛解という状態に至る方も結構いらっしゃいます。
※寛解(かんかい):症状が一時的あるいは継続的に軽くなったり、消えたりした状態。症状がなくなり、検査の数値も正常を示す状態を完全寛解という。


-----治る可能性があるというのは、大きな希望になりますね。逆に、治らないCKDもあるのでしょうか。

高血圧や糖尿病、動脈硬化などによって、腎臓の血流が減ったり、腎臓の糸球体が破壊されたりして、CKDになる方がいます。このような長い年月の間の悪い生活習慣により発症する、生活習慣病を原因とするCKDの場合、悪化した腎機能が回復することはありません。ただし、これらの場合でも、それ以上の悪化を防ぐことは可能です。悪い生活習慣を改めれば、進行を抑えられることも十分にあります。
また、現在日本で増えている加齢に伴う腎機能の低下の場合も、機能が回復することはありません。健常者でも多くの人は、80歳を超えると腎臓の機能が60%に低下します(*)。ただ、その場合でも蛋白尿がなければ、まず末期腎不全に至ることはありません。あくまで加齢に伴って腎機能が低下し、CKDの範疇に入ったということなので、そもそもこれを病気と呼んでいいのかは議論が分かれるところです。

-----CKDの治療方針を決める上では、どのようなことが大切なのでしょうか。

CKDの診断は血液検査と尿検査で済みますが、治療方針を決めるには、精密検査を行い、原疾患が何かを調べることが大切です。

-----精密検査は、どの病院でも受けることができるのでしょうか。

例えば、慢性糸球体腎炎の正確な診断には腎生検が必要ですが、腎生検ができるのは、腎臓の専門医のいる病院に限られ、また、検査には入院の必要もありますので、どの病院でも検査ができるというわけではありません。ただ、都道府県単位であれば必ずそのような施設がありますので、主治医と相談の上、紹介を受けていただきたいと思います。
※腎臓の組織を一部採取し、顕微鏡で評価する検査
加齢により腎機能が低下してきた場合などは、必ずしも腎臓専門医でなくても診断は可能だと思います。しかし、例えば、慢性糸球体腎炎や、膠原病による腎疾患、糖尿病性腎症の中でも、ネフローゼ症候群を呈するようになったものなどは、定期的に腎臓専門医を受診するほうがよいと思います。

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<出典>
*日本腎臓学会 CKD診療ガイド2012


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