ドクターインタビュー

筑波大学 医学医療系 腎臓内科学 教授

山縣 邦弘 先生
筑波大学 医学医療系 腎臓内科学 教授

山縣 邦弘 先生
山縣 邦弘 <font size="4">先生</font>先生

目次

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Chapter 2: 筑波大学附属病院腎臓内科におけるCKD治療への取組み

-----CKDになるリスクが高い人というのは、どのような人でしょうか。

先ほどもお話ししましたが、CKD発症の主なリスクは、糖尿病、高血圧、脂質異常症といった生活習慣病のほか、加齢があげられます。性別でいえば、女性より男性のほうが発症する可能性が高いです。その他、喫煙や肥満などもその要因となります。飲酒は適量であれば問題ありませんが、飲み過ぎるといろいろな害を及ぼしますので、注意した方がいいかもしれません。
また、CKDの既往がある、過去に検尿異常を指摘されたことがある、家族に腎臓が悪い人がいる、といった人も注意が必要です。家族歴がある人に関しては、家族は生活環境が似ていることや、一部の腎臓病は遺伝性であることを考えても、特に気を付けた方がいいですね。

-----筑波大学附属病院の腎臓内科では、検査の結果、CKDと診断された患者さんに、どのような説明や治療を行っているのですか。

重要なのは、「なぜCKDになったか」ということを理解していただくことですので、患者さんにはまず、原疾患の管理の大切さをお伝えします。その上で、検査値の中で治療の目標値から外れている項目があれば、目標値に近づけるよう、生活習慣の改善をうながします。それでも目標値に到達しない場合には薬物治療を進めます。治療の目標値としては、例えば血圧は130/80mmHg未満、HbA1cは7%以下、LDL-Cは120mg/dL以下、BMIは25kg/m²未満、尿酸は、基準値は7.0mg/dL未満ですが、治療をするのであれば5.5mg/dL程度を目指します(*1)
私たちの治療目標は、これ以上の腎機能の悪化を防ぐことです。不幸にして患者さんの腎機能が悪化していく中でも、腎不全に伴う症状が出ないように管理をしていくということです。例えば、利尿薬をきちんと使ってむくみを抑える、血中のカリウムを下げて心臓に悪影響が出ないようにする、貧血が起こらないように対処する、といったことです。それが結果的に腎機能の悪化を抑制したり、症状が無い状態を維持することにより透析導入を遅らせることに繋がりますし、万が一、透析導入になったとしても、導入後の自己管理がしっかりできるため、体調を良い状態に保つことができます。また、腎移植を行う場合にも、移植が可能な状態に保つことができるわけです。

-----患者さんの状態にもよりますが、最近では、専門医の元でしっかりと治療を行えば、CKDの進行を遅らせることができるということですね。

エビデンスのある治療法がいくつかあり、それらを積み重ねていくことによって、CKDの進行を遅らせることができることは間違いないと思います。

-----患者さん自身ができる食事療法において大切なことはどのようなことでしょうか。

食事療法に関しては、まず塩分を控えることが大切です。CKDが進行した方には、その方の状況に応じてタンパク質制限を行います。疾患によっては厳格なタンパク質制限が望ましい場合もありますので、専門家の指導のもとに行ってください。自己流でタンパク質制限を行うのは非常に危険です。食事療法だけで腎臓病が治ることはありませんので、その点をきちんと理解してほしいと思います。

-----こちらの腎臓内科では、栄養指導はどのように行っているのですか。

以前は、栄養指導は1回で終わることが多かったのですが、現在では、3カ月毎など期間をおいて、定期的に管理栄養士が行うようになっています。やはり定期的に何度も繰り返し指導することで、患者さんの生活習慣改善に非常に有効だということが分かりました。

-----その点については、先生が代表を務められた「FROM-J(厚生労働科学研究費補助金腎疾患対策研究事業)」という研究でも報告されていますね。医師と管理栄養士が一緒に治療に取り組むことで、患者さんの状態が改善した、ということでしょうか。

医師と栄養士が共同で患者さんの生活習慣指導をすることで、降圧薬や糖尿病治療薬の使用が減り、体重も減少することが明らかになりました。そして、血圧がコントロールされることによって蛋白尿が減り、結果的に、わずかではありますが腎機能悪化の進行を遅らせることができることが分かりました。
ただ、今後、各地域の実態にあわせ、様々な職種のコメディカルの方との連携の方法や、細かい指導内容に関しては、まだ改良の余地があると思います。

-----運動療法についてはいかがでしょうか。かつては、腎臓病患者さんは絶対安静といわれていた時期もありましたが、最近はCKDステージ5でも多少の運動は必要だという考え方に変わってきたと聞きます。

確かに少しずつ変わってきていますね。大量の汗をかくような運動は、脱水が懸念されますので控えた方がいいと思いますが、激しい運動でない限りは、定期的に運動を行って筋肉を維持することのほうがCKDの患者さんにとっても重要です。
一方で、CKD患者さんのための運動指導の詳細については、どれも根拠が非常に乏しいのが実情です。そこで現在、我々は、根拠のあるデータを出せるよう、医師と理学療法士が一緒になって研究に取り組んでいます。

-----筑波大学附属病院の腎臓内科は、すでに、腎臓病の治療を包括的に行う「総合内科」として機能していると思われますが、さらに、管理栄養士や理学療法士との連携も行うということですね。

そうですね。他にも、当院の腎臓内科では、厚生労働省や茨城県など、さまざまな機関と組んで、疾患の把握や、腎臓病のリスクに関する調査を行っています。
腎生検も、関連病院を含めて年間数百件実施しており、治療方針も常に患者さんにとって最適な方法を検討しています。

-----これまでお聞きしたように、腎機能悪化の進行をできるだけ抑えるように、患者さんに合った治療を行っていらっしゃるわけですが、そのような治療を行いながらも、残念ながら末期腎不全まで進行してしまった患者さんに対しては、どのように腎代替療法選択のお話をされるのですか。

当院の腎臓内科の外来には、腎代替療法の説明をする専任の看護師がいます。末期腎不全の患者さんに対し、外来で主治医が、血液透析、腹膜透析、腎移植という3つの選択肢について説明した後、看護師から詳しい説明を行います。
必要に応じて、血液透析や腹膜透析の現場を実際に見てもらったり、腎移植患者さんの話を聞いてもらったりしながら、最善の方法を看護師と話し合います。仕事や生活環境に関する話は、どうしても外来診察の時間内で医師からの話だけで理解するのは難しい面がありますので、看護師との話の中でよりその患者さんの生活スタイルに合った療法を考えていただくようにしています。

-----患者さん一人一人に時間をゆっくり取って、チームで丁寧にお話されるということですね。

他にも、日本腎臓学会、日本透析医学会、日本移植学会、日本臨床移植学会が共同で作成している、「腎不全 治療選択とその実際」という冊子や、そのDVDもありますので、それをお渡しすることもあります。

-----先生ご自身は、腎代替療法の選択法について、どのようなお考えをお持ちでしょうか。

山縣先生1

まずは、「もし自分が患者の立場だったらどの治療法を選択するか」を考えることが重要だと思っています。医師の側がそれをよく考えなければ、患者さんにも説明できません。
日本の透析技術がどんなに優れているといっても、同じ年齢の腎移植患者さんと透析患者さんを比べると、腎移植患者さんの方が、明らかに生命予後もQOLもよいことが分かっています(*2)。また、今や日本だけではなく、世界中で透析患者さんが増えているため、透析の医療費が大きく膨らんでいます。
そのような現状を考えると、腎移植が可能な患者さんには、すべて腎移植が行えるような状態になり、末期腎不全患者さんのうち30%程度が腎移植を行えるようになるのが適正ではないかと思っています。
ただ、そのためにはドナー確保の対策が不可欠ですし、末期腎不全患者さんや透析患者さんへの啓発が鍵になってくると思います。

-----最後に、「腎援隊」の読者に向けてメッセージをいただけますか。

今、皆さんは、腎臓病と診断され、戸惑っていたり、いずれは透析や腎移植をしなければならないのではないか、と不安に感じていると思います。
私たち医療者は、患者さんを、腎移植や透析が必要ない状態にするのが理想であると考えており、どうしたら腎不全にならないか、進行させないかを中心に考えて治療を続けていきたいと思っています。また、不幸にして腎機能が悪化し、透析が必要になっても、最適な方法を一緒に考えてきたいと思っていますので、安心してこれからの治療法について一緒に考えていきましょう。

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<出典>
*1 日本腎臓学会 医師・コメディカルのための慢性腎臓病 生活・食事指導マニュアル
*2 Czyżewski L, et al. Ann Transplant 2014;19:576-585


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