ドクターコラム

iPS細胞を用いた腎臓の再生研究の現在(総論)

iPS細胞を用いた
腎臓の再生研究の現在(総論)

京都大学 iPS細胞研究所 教授 長船 健二 先生

京都大学 iPS細胞研究所 教授 長船 健二 先生

iPS細胞を用いた腎臓の再生研究の現在(総論)

掲載日:2017/09/14

iPS細胞とは、皮膚などの体細胞から作った、さまざまな組織や臓器の細胞に分化することができる能力と、ほぼ無限に増殖できる能力を持っている細胞です。近年、このiPS細胞を用いて腎臓を再生する研究が進められてきました。

iPS細胞とは
iPS細胞を用いた腎臓再生研究の歩みと現在地
現在では、ヒトのiPS細胞から胎児期(母親の胎内にある赤ちゃんの時期)の腎臓の元となる細胞を作る方法が開発され、その細胞から糸球体と尿細管を含む腎臓の組織を作ることが可能となっています。

☞参考:腎臓の構造

ネフロンの再生

また、そのヒトiPS細胞から作られた腎臓組織をネズミの体内に移植すると、ネズミの血管と移植された腎臓組織内の糸球体がつながることが発見され、その糸球体ではネズミの血液から尿(原尿)がろ過されていると考えられています。

ネズミの体内で再生
次のステージに進むための課題
上述のように、ヒトiPS細胞を用いて血液から尿をろ過できる腎臓組織を作ることが可能となっていますが、まだ直径数ミリメートルの小さなものしか作ることができていません。次の課題としては、ヒトの腎臓に近い、より大きな腎臓組織を作ることが挙げられます。

腎臓自体は再生できない

また、糸球体と尿細管のつながった腎臓の組織は作れるようになっていますが、それから先の尿管や膀胱へとつながり尿を体の外に排泄する方法はまだ開発されていません。この問題をクリアすることも、もう1つの大きな課題です。
私たちが取り組んでいる研究のゴールとその展望
私たちの研究室では、大きく2つの目標を立てて研究を行っています。

目標①:CKDの進行を抑制する治療法の確立
1つ目は、CKD(慢性腎臓病)の進行を抑制し、CKD患者さんの透析導入を遅らせる治療法を開発することです。CKD患者さんの腎臓にヒトiPS細胞から作った健康な腎臓の細胞や組織を移植することで、腎臓の働きを助けてCKDの進行と透析導入を出来る限り遅らせることを目指しています。現在は動物に移植する研究を行っていますが、10年以内にはCKD患者さんに参加していただける研究を開始したいと思っています。

再生ネフロンの移植

目標②:透析療法に代わる再生腎臓の移植療法の実現
もう1つの目標は、腎不全患者さんの体の中に尿を排泄できる新しい腎臓を作って、透析が必要なくなるようにすることです。上述のとおり、ネズミの体内に尿をろ過する糸球体と尿細管を含む小さな腎臓の組織を作ることには成功しています。しかし、腎不全患者さんの体内に完全な臓器としての腎臓を作るためにはまだまだ解決しないといけない課題が多く残されています。現時点では、いつになったら腎不全患者さんに参加していただける研究を始められるか未定ですが、10年以内には研究開始時期の目途を立てたいと思っています。
再生腎臓の移植
CKD患者さんとそのご家族へ
最近、ヒトiPS細胞から私たちの体の中にあるさまざまな組織や臓器を作ることができるようになり、2014年秋にはiPS細胞から作られた眼の細胞が眼の病気の患者さんに移植されました。一方、腎臓は構造も働きも大変複雑であるため、iPS細胞から作ることも移植治療の方法を開発することも最も難しい臓器の一つです。
しかし、ここ数年の間に研究がかなり進み、上述のようにヒトiPS細胞から小さな腎臓の組織を作ることができるようになりました。実際にCKD患者さんのお役に立てる治療法ができるまで、まだまだ時間がかかることが予想されますが、私たち研究者は毎日全力で研究に取り組んでいますので、今後とも引き続き応援をよろしくお願いいたします。

☞【参考】
京都大学 iPS細胞研究所 CiRA(サイラ)ホームページ
3療法経験者インタビュー 松尾 裕子 さん

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