2017.03.30 腎移植のアニメ
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Chapter 2: 最近の腎移植医療について
-----次に腎移植についてお聞きしたいのですが、日本の腎移植医療の現状についてお聞かせください。
日本の腎移植の現状は、生体腎移植が主体で、この3年間は年間1,400例を超えています。2014年は、1,471例の生体腎移植が行われました(*1)(2021年においては1,773例(*2))。一方、献腎移植は各国と比べてかなり少なく、年間200例にも満たない状況が続いています(*2)。
-----腎移植が透析に比べて非常に少ないのはなぜなのでしょうか。
献腎移植に関して言えば、日本は、臓器提供をしてくださる方が他の国に比べて格段に少ないことがあげられます。2013年のデータでみると、人口100万人あたり0.7人くらいです。韓国は人口100万人あたり8.4人、香港は6.1人となっていますので、アジア諸国に比べても少ない状況です。スペインは人口100万人に対し35.1人、米国は27人ですので(*3)、欧米と比べるとかなり少ないということになります。
※2020年における各国100万人あたりの献腎移植件数 日本:1.1人、韓国:16.3人、香港:7.7人、スペイン:51.3人、米国:56.2人(*4)
-----生体腎移植の数に関しても、米国などに比べ、人口における割合が少ないと思われますが、その一番の要因はどのようなことなのでしょうか。
大きな要因としては、腎移植医療の認知が行き届いておらず、末期腎不全の患者さんに対する腎移植の説明が、十分になされていないことが問題だと思われます。血液透析や腹膜透析についての説明をされる病院は多いのですが、腎移植の説明をされているところは多くありません。また、透析に従事する医療スタッフも腎移植の知識については、まだかなり不足していると思います。医師の中にも、20年以上前の腎移植の成績と現在の成績が違うということをご存知ない方もいらっしゃいますので、現在の腎移植医療について広く認知していただくことがとても大事だと考えています。
-----腎代替療法についてお聞きした際、医師から腎移植の話が出てこないからといって、腎移植ができないと思わない方がいいということですね。
そうですね。70歳前後の方でも腎移植ができる可能性はありますし、ドナーになられる予定の方と血液型が違っても現在は問題なく腎移植が可能です。最近は高齢者の腎移植が増えており、特に夫婦間移植がとても増えています。夫婦間移植をされるご夫婦のほとんどが60歳以上で、70歳以上の人もいらっしゃいます。当院で移植を受けた人の中には、76歳の方もいらっしゃいます。現在、全国の生体腎移植の約1/3は夫婦間移植となっており、親子間の移植件数とほぼ同じになっています(*2)。
-----腎移植のメリットについて教えてください。
まず、QOLの改善に関してですが、血液透析の場合は、基本的には、週3回、1回につき4時間透析を行いますので、週の約12時間を透析にあてなければなりません。通院時間を含めると約18時間です。移植後は、その時間が全部自由に使えるようになります。仕事に使っても、遊びに使っても、趣味に使ってもいいわけです。
また、透析の医療行為がなくなりますので、血液透析の際の2本の太い針刺しや、腹膜透析に必要なおなかのカテーテルがなくなります。腹膜透析を受けていた人は、おなかのカテーテルが気になり、温泉やプールに入れなかった人もいると思われますが、移植後は、一定の期間を過ぎれば、自由に温泉に入ったり、プールで泳いだりすることもできます。
それから、何といっても食生活の幅が広がります。血液透析の場合は塩分制限、蛋白制限が厳しいですが、移植後は塩分制限はもちろん必要なものの、蛋白制限はそれほどきつくありません。カリウム制限も無くなりますので、スイカやバナナなどの果物をいくら食べてもいい、ジュースを飲んでもいいのです。最近、高齢で夫婦間の移植を希望される人の目的の多くは、「夫婦で同じ食事をしたい」ということが多いです。
-----腎移植後はさまざまな面でQOLが改善されるわけですが、女性の場合、移植後に妊娠・出産することもできるのでしょうか。
透析をしていても妊娠や出産ができないわけではないですが、母体や胎児に対する安全性から言えば、腎移植後、腎機能が回復してからの妊娠・出産ははるかに安全です。これは間違いありません。女性に対して妊娠・出産は強要されるものではないですが、子どもを産むことができるのとできないのでは大きく違います。
-----小児における腎移植のメリットにはどのようなものがあるのでしょうか。
小児の腎不全患者さんの場合、第二次性徴の遅れや低身長などの症状が現れますが、腎移植後は腎不全におけるさまざまな症状が改善し、第二次性徴も見られ、身長が大きく伸びるお子さんが多いです。
また、小児の患者さんが透析療法を選択する場合は、体が小さいため、通常は腹膜透析を行うことになりますが、腹膜透析治療をしながら学校生活のすべてに対応するのは難しいことが多いです。腎移植後はさまざまな制限が無くなりますので、友達と一緒に学び、一緒に遊ぶことができるようになります。小児における腎移植は、お子さんの心と体の成長にとって非常にメリットのあるものです。
-----透析における生存率と、腎移植後の生存率に違いはあるのでしょうか。
腎移植後の生存率は圧倒的に良くなっていますので、腎移植ができるのであれば移植をした方が、透析をしている場合と比べて、生存率が10年で少なくとも20%上がるというデータが出ています(*3,5)。
-----透析の費用と腎移植後の費用には違いがあるのでしょうか。
移植後の1年目は手術料や免疫抑制薬の量も多いので、透析と移植の医療費にそれほど違いはないのですが、2年目以降になると差が出てきて、3年目以降には透析の約1/3の医療費で済むようになります。
-----透析や腎移植にかかる医療費の自己負担額についてはどうでしょうか。
腎移植を受けると高額な医療費を請求されると考えている人が多いのですが、自立支援医療(更生医療・育成医療)が適応されますので、移植手術費用だけでなく、移植後に支払う医療費の自己負担額も大きく軽減されます。移植後の医療費の自己負担額は所得額によって異なりますが、月0~2万円程度になります。そういった意味では、非常に受けやすい医療と言ってもいいと思います。
一部、移植前の組織適合性検査に関しては自費になっていますが、この検査費用も移植が完遂されれば返金されます。
-----腎移植のメリットはたくさんありますが、デメリットについても教えてください。
まず、生体腎移植の場合は、ご親族の中でドナーとなっていただける人がいないとできません。「腎臓を1つ提供した後のドナーの体は大丈夫なのか」ということをよく聞かれますが、いくつかの文献があります。まず、一般人と腎提供後のドナーを比較すると、腎提供から数十年たっても生存率や腎機能に差はないというデータがあります(*6)。ただし、最近では、ドナーとなり得る基準を満たすとても健康な一般人と、ドナーとの比較では、ドナーに一定のリスクがあるというデータもありますので(*7)、生体腎ドナーに関しては、提供時に腎機能が正常であっても、提供後のフォローアップは長期に渡ってしっかりと行わなければならないということが言えます。
次にレシピエントに関しては、移植後にさまざまな合併症が起こる可能性があります。免疫抑制薬の副作用や、高血圧、糖尿病などの成人病に注意が必要です。
移植後は自由に食事ができるようになりますので、患者さんの中にはそれまでの反動で、脂肪分や糖分が高いものを多く取ってしまう人もいます。せっかく移植ができたのに、成人病によって移植腎機能を悪化させてしまっては元も子もありませんので、そのような人には栄養指導をしっかりと行わなければなりません。
また、移植後に服用が必要な薬をご自身の判断でやめてしまう人がいらっしゃいますので、そのようなことが起こらないような自己管理、病院側の管理も必要です。
注意しなければならない点はいろいろありますが、生体腎移植の成績(移植腎が機能している期間)は、5年で90%以上になっていますし(*2)、当院における成績では、移植後10年でも90%を超えていますので、しっかりとした自己管理や指導を行えば、移植後の成績はさらに良くなると思います。
-----最近の腎移植医療の発展について教えてください。
近年の新しい免疫抑制薬の登場や、組織適合性検査の進歩によって、移植後の急性拒絶反応が非常に少なくなり、移植の成績はとても良くなっています。移植後長期の成績に関しても、先ほどもお話ししたように、当院の成績では、生体腎移植における移植後10年の移植腎生着率は90%を超えています。
また、血液型不適合移植の成績も、血液型適合移植と遜色ないものになっています。血液型不適合移植は日本では1989年から行われており、当院でも同じく1989年から行っています。当院で血液型不適合移植を受けた患者さんのうちの1人は、今年で移植後26年が経過しましたが、腎機能は現在も問題ありません。移植後に出産されたお子さんは高校生になりましたね。
-----そのように腎移植の成績は向上し、移植腎が長期生着するようになっていますが、長期生着によって起こる問題もあるのでしょうか。
移植後10年を超えると悪性腫瘍の発生率が高くなります。腎機能は問題がないのに、がんで亡くなるようなことがあっては元も子もありません。特に移植後長期間経過された人は定期的にがん検診を受けていただきたいと思います。女性に特有のがん、男性に特有のがんも含めて、定期的に検査を受け、早期発見に努めることが大切です。
-----最近は透析導入せずに移植を行う先行的腎移植(プリエンプティブ腎移植)も増えていますが、透析をしない方が移植の成績はいいのでしょうか。
透析導入せずに移植をした方が成績がいい、というデータは昔から出ています。最近では1~2年程度の透析期間であれば、移植後の長期成績に影響がないという文献も出ていますが(*8,9)、透析導入しないにこしたことはありません。当院では生体腎移植の約30%、小児の場合は約40%が先行的腎移植です。地域の腎臓内科の先生が腎移植の知識を豊富にお持ちで、移植実施施設と密接に連携を取られているところでは、先行的腎移植の割合も多くなっています。昔は透析という苦しい体験をしたほうが、移植後に怠薬することもなく、自己管理をきちんとするだろうと言われていましたが、何も患者さんにつらい思いをさせる必要はないわけで、移植後の自己管理の大切さも含めてきちんとお話をした上で移植を受けていただくのが一番いいと思います。
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<出典>
*1 日本移植学会・日本臨床腎移植学会 腎移植臨床登録集計報告(2015) 移植 2015;50:138-155
*2 日本臨床腎移植学会・日本移植学会 腎移植臨床登録集計報告(2022) 移植 2022;57:199-219
*3 IRODaT(http://www.irodat.org/)
*4 USRDS. 2022 Annual Data Report//End Stage Renal Disease:Figure 11.17a,Figure 11.19
*5 日本透析医学会 統計調査委員会 図説 わが国の慢性透析療法の現況(2015年12月31日現在)
*6 Ibrahim HN,Foley R,Tan L, et al. N Engl J Med 2009;360:459-469
*7 G Mjoen, et al. Long-term risks for kidney donors Kidney Int 2014;86:162-167
*8 Goldfarb-Rumyantzev A,et al.Nephrol Dial Transplant 2005;20:167-175
*9 Jung GO, et al. Transplantation Proc 2010;42:766-774