管理栄養士コラム

食事療法の基本④ エネルギー

食事療法の基本④ エネルギー

自治医科大学附属病院 臨床栄養部 主任管理栄養士 川畑 奈緒 先生
(腎臓病病態栄養専門管理栄養士)

自治医科大学附属病院 臨床栄養部 主任管理栄養士
川畑 奈緒 先生
(腎臓病病態栄養専門管理栄養士)

食事療法の基本④ エネルギー

掲載日:2019/06/13

エネルギーの役割

エネルギーは、生命機能の維持や身体活動に必要不可欠なものです。栄養学では、エネルギーの量(熱量)を表すとき、カロリー(cal)、キロカロリー(kcal)の単位が用いられます。
食事の三大栄養素である脂質、タンパク質、炭水化物の熱量は、1 gあたり脂質 9 kcal、タンパク質 4 kcal、炭水化物 4 kcalなので(*1)、 ある食品にこれらが何g含まれているか分かれば、エネルギー摂取量(それぞれの熱量の和)を算出できます。 エネルギー消費量は、基礎代謝量、身体活動(生活活動や運動)や食後に生じる代謝量からなります。
エネルギーの収支バランスは、(エネルギー摂取量)-(エネルギー消費量)として定義され、エネルギー摂取量がエネルギー消費量を上回る状態が続けば体重が増加し、逆にエネルギー消費量がエネルギー摂取量を上回れば体重が減少します。

エネルギー収支

一般人と比べたエネルギーの摂取基準(蛋白異化)

一般人におけるエネルギー必要量は、「日常生活で良好な健康状態を長期間維持するのに必要なエネルギー量」とされており、短期間の場合には、「そのときの体重を保つ(増加も減少もしない)ための適当なエネルギー」と定義されています。つまり、エネルギーの収支バランスがゼロの状態を言い、(エネルギー消費量)=(エネルギー摂取量)=(エネルギー必要量)となります。
しかし、慢性腎臓病の患者さんでは、目標とするべき体重を、現在の体重や標準体重などのいずれにするかは、病態に応じて異なります。
※ 標準体重:身長に対する標準的な体重。身長(m)×身長(m)×22 で算出される。

また、慢性腎臓病の患者さんの食事療法では、腎機能低下の程度に応じたタンパク質量の制限が必要となりますが、タンパク質量を減らすと、その分のエネルギー摂取量が減ります。エネルギーが不足すると、身体は、その分のエネルギーを補うために筋肉(タンパク質)を分解し(蛋白異化)、エネルギーを得ようとします。しかし、同時に筋肉が分解されたことで尿素窒素が増加し、腎臓への負担が増えます。

蛋白異化

0.6 g/kg実測体重/日以下にタンパク質を制限した場合、35 kcal/kg実測体重/日以上のエネルギーを摂取しなければ蛋白異化が進むことが報告されています(*2)。また、「慢性腎臓病に対する食事療法基準2014年版」では、標準的な食事療法としてのタンパク質制限を強化する場合(0.6~0.8 g/kg標準体重/日)には、エネルギーを少なくとも35 kcal/kg標準体重/日摂取すれば、蛋白異化を防ぐことができるとされています。
一方、糖尿病や肥満などの生活習慣病が増加している現在の慢性腎臓病では、これらの生活習慣病も考慮する必要があります。
以上より、慢性腎臓病の患者さんでは、エネルギー摂取量は、それぞれの病態に応じて25~35 kcal/kg標準体重/日を基準としています(*3)。エネルギー必要量の決定後は、体重の変化を観察しながら、適正なエネルギー摂取量になっているかを経時的に評価しつつ調整していくことが重要です。

エネルギーを摂る際の工夫

1)主食をでんぷん製品やタンパク質調整食品に替える
食事における副食(魚介類、肉類、卵類、豆類、乳・乳製品など)の量を減らしてタンパク質制限をすると、前述のとおり、エネルギーの摂取量も不足しやすくなります。タンパク質は主食(ご飯、パン、麺類など)にも含まれているので、主食にでんぷん製品やタンパク質調整食品を利用すると、主食から得られるタンパク質を減らしつつ、エネルギー摂取量を確保することができます。そして、主食で減らした分のタンパク質を副食から得ることができるようになり、それに伴ってエネルギー摂取量も増えるので、タンパク質制限によるエネルギー不足を防ぐことができます。

でんぷん、低たんぱく食品の利用

2)脂質(油)を利用する
油は高カロリーのため、天ぷらやフライなどの揚げ物にすると、エネルギーアップが図れます。サラダにマヨネーズをかけたり、パンにマーガリンやバターを塗ったり、コーヒーに生クリームを入れるとエネルギーを補給することができます。チャーハンなど、主食に油を使うのも効果的です。

脂質(油)を利用したエネルギーアップの例

エネルギーアップの具体例

また、MCT(中鎖脂肪酸油)は一般的な油に比べ、消化吸収に優れた、エネルギーになりやすい油です。無味無臭なので、ドレッシングや炒め物に使用するだけでなく、汁物やヨーグルトなどに入れたり、米と一緒に混ぜて炊いたりしてもおいしく食べられます。

3)炭水化物を利用する
サイダーや砂糖を入れた紅茶やコーヒー、あめやゼリーなどの嗜好食品からもエネルギーを補給することができます。

紅茶、コーヒー、お菓子

でんぷん糖(粉飴®)は、1 gあたりのエネルギー量は砂糖と一緒ですが、甘味が少ないため、砂糖よりも多くの量が使えます。また、粉飴®を利用したデザートなども販売されています。
はるさめや葛きりはでんぷん食品で、タンパク質がほとんど含まれていないので、炒め物、酢の物、煮物など、色々な料理に取り入れましょう。
はるさめを使った料理

参考文献)
1.日本人の食事摂取基準2015年版
https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-10901000-Kenkoukyoku-Soumuka/0000083871.pdf
2.慢性腎臓病に対する食事療法基準2014年版
https://cdn.jsn.or.jp/guideline/pdf/CKD-Dietaryrecommendations2014.pdf

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<出典>
*1 菱田明、佐々木敏 監修 日本人の食事摂取基準2015年版 第一出版株式会社 2014:153-161
*2 Kopple JD, et al. Effect of energy intake on nitrogen metabolism in nondialyzed patients with chronic renal failure. Kidney Int 1986;29:734‒742
*3 日本腎臓学会 慢性腎臓病に対する食事療法基準2014年版 日腎会誌2014;56:553‒599


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