
2019.04.04 教えて!ドクター
ドクターコラム
東邦大学 医療センター 大森病院 腎センター 教授 酒井 謙 先生
東邦大学 医療センター 大森病院 腎センター 教授
酒井 謙 先生
掲載日:2016/04/07
腹膜透析では、腹膜が腎臓のフィルターの役割をします。カテーテルという管を通して、腹腔内に体よりも濃度が高い透析液を注入します。この透析液の主成分はブドウ糖です。ブドウ糖を使う理由は、体に吸収されても代謝されるので、短期的には人体に害が少ないと考えられているからです。
甘い(濃い)透析液をしばらく腹腔内に入れておくと、濃度の違いから生まれる浸透圧によって、半透膜である腹膜を通して、腹膜の毛細血管から水分が徐々に透析液側に移動していきます。また、拡散現象によって、血液中の老廃物や塩分なども透析液側へと移動します。
透析液に水分や老廃物などが十分に移動したら、カテーテルを通して透析液を体外に出し、代わりに新しい透析液を腹腔内に入れます。これを繰り返すことで血液を浄化するのが、腹膜透析のしくみです。透析液は、通常、1回あたり6~8時間ほど腹腔内に入れておき、1日に4回交換します。
腹膜透析は、血液透析に比べて浄化能力が弱いので、毎日行う必要があります。しかし、毎日時間をかけて老廃物や余分な水分を取り除くことが腹膜透析の利点でもあります。血液透析に比べ、急激な老廃物や水分の貯留がないため、透析と透析の間の負担や食事の制限が少なく、循環動態が不安定になることも少ないと考えられています。
腹膜透析の種類
腹膜透析には、1日かけて4~5回透析液を交換する「CAPD」と、日中の交換をなくし、夜間就寝時に透析装置を使って透析液を交換する「APD」があります。腹膜の状態によっても向き不向きがありますが、生活スタイルによって、いずれかを選択することができます。
☞参考 透析ライフ:腹膜透析の生活パターン
透析液の腹膜への影響
腹膜透析に用いる透析液は、高濃度のブドウ糖とミネラルで組成されています。ブドウ糖は短期的には人体に影響はありません。しかし、腹膜がブドウ糖に繰り返しさらされると、糖尿病による血管障害に似た変化が腹膜に生じ、腹膜が劣化してきます。腹膜の機能が変化すると除水能力が低下し、さらに形態学的にも変化してくると腹膜が腸管と癒着して、腸閉塞を起こすことがあります。披嚢性腹膜硬化症といわれる致命的な合併症です。このようなブドウ糖による腹膜への繰り返しの刺激を避けるためにも、腹膜透析を施行する期間は7年以内が望ましいとされています(*2)。
ただし、近年では中性液の開発により(今までは酸性の透析液でした)、披嚢性腹膜硬化症の発症は少なくなり、7~8年を超えても腹膜透析を継続できる方が多くなってきました。
血液透析と腹膜透析は、ほぼすべての末期腎不全患者さんが受けられる治療法です。腎臓以外の主要臓器の機能不全は、患者さんの生命が絶たれることにつながりますが、腎臓はそうではなく、代替治療が受けられます。
透析導入後の人生は、透析を受ける前の人生と同じだけの価値があります。その価値を維持・継続するためにも腎代替療法があるのです。
我が国の透析医療は今日まで発展を続け、患者さんの生存率は世界で1、2位を争うほどです。血液透析、腹膜透析、および腎移植は、すでに我が国の普遍的な医療になっています。
残念ながら腎機能を失ったとしても、ご自身にあった腎代替療法を選び、それまでと変わらない価値ある人生を送り続けていただきたいと思います。
☞ 「病院を探そう!」東邦大学医療センター 大森病院のご紹介ページ
<出典>
*7,8 イラスト原画 東邦大学医療センター大森病院 腎センター ホームページより
*2 日本透析医学会 2009年版 「腹膜透析ガイドライン」 透析会誌42:285-315,2009