~よりよい透析生活のために ②~
よりよい透析生活のために ②
2016.10.31 透析ライフ
透析療法を続けていると、さまざまな合併症が起こることがあります。透析患者さんに起きやすい合併症について説明します。
監修:奈良県立医科大学附属病院 腎臓内科 教授 鶴屋 和彦 先生
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透析療法は、腎臓の働きの一部を人工的に補う治療法です。機能が低下した腎臓の代わりに血液中の余分な水分や老廃物を取り除きます。ただし、血液透析を行う時間は、一般的には週3回、1回につき4時間程度ですので、24時間、365日働き続ける腎臓と同じ働きができるわけではありません。そのため、長期間透析を行っているうちに、さまざまな合併症が起きる可能性があります。
透析導入後は、透析を十分に行うことはもちろんのこと、薬物療法や食事療法などで、これらの合併症の予防や治療を行うのが一般的です。
透析患者さんに起きやすい合併症は、腎機能の低下が主な原因であるため、透析導入前から症状がみられる場合や、症状はなくても徐々に進行している場合があります。そのため、透析導入前から、合併症の予防や治療のために薬物療法や食事療法などを開始することもあります。
早い段階から合併症の対策を行うことで、透析導入後の合併症の発症や悪化を抑えられる可能性があります。
それぞれの合併症が起こる原因と、予防方法について解説します。
腎不全になると、腎臓から尿として排泄していた余分な水分や塩分が体に溜まり、体液(血液)量が増えるため、高血圧になりやすくなります。
高血圧の状態が長く続くと、血管に負担がかかり、血管が硬くなったり、狭くなったりする動脈硬化を起こしやすくなります。また、透析患者さんの場合、リンやカルシウムなどの代謝バランスが崩れた結果、血管の石灰化が起こり、それによって動脈硬化が進むこともあります。
このような合併症の予防や治療には、水分や塩分の過剰な摂取を控え、体液量を増やさないようにしたり、降圧薬で血圧をコントロールしたりします。
また、腎不全になると、赤血球の産生を促す造血ホルモンが腎臓でつくられにくくなるため、貧血になりやすくなります。
貧血になると、心臓が体により多くの血液(赤血球)を送り出そうとするため、心臓に負担がかかります。そのため、貧血の状態が続くことも心不全の原因になります。
貧血の治療には、主に鉄剤や造血ホルモン剤を用います。
☞詳しくは、透析の基礎知識「心血管系疾患」をご覧ください。
腎臓は、摂取した食物からカルシウムを吸収するのに必要な活性型ビタミンDを作っています。腎臓の機能が低下すると、活性型ビタミンDが不足するため、カルシウムの吸収が不十分になり、血液中のカルシウムが減少しやすくなります。
また、腎臓には血液中の不要なリンを尿中に排泄する働きがありますが、腎臓の機能が低下すると余分なリンが血液中に溜まりやすくなります。リンはカルシウムと結合して骨や歯を丈夫にする物質ですので、血液中に余分なリンが溜まると、カルシウムと結合し、さらに血液中のカルシウムが減少します。
このように血液中のカルシウムが減少し、リンが増加すると、副甲状腺ホルモンの産生・分泌が刺激され、骨からカルシウムが溶け出して血液中のカルシウムを補おうとします。そのため、長期間透析を続けているうちに骨がもろくなり、骨が痛んだり、骨折しやすくなったりすることがあります。
このような合併症を予防するために、副甲状腺ホルモンの産生・分泌を抑える薬剤や、 食物からのリンの吸収を抑える薬剤が用いられます。また、食事療法ではリンの摂取を制限します。
☞詳しくは、透析の基礎知識「骨・ミネラル代謝異常」をご覧ください。
また、透析を長い間続けていると、アミロイドという物質が骨や関節に沈着し、神経を圧迫して、関節(特に手首、指、肩、首)の痛み、しびれ、麻痺などの症状が現れることがあります。このような合併症を予防するためには、しっかりと透析を行い、アミロイドの元になる物質を除去する必要があります。
腎不全になると、一般的に免疫力が低下すると言われており、透析患者さんはさまざまな感染症にかかりやすくなります。
感染症を予防する方法には、一般的な感染予防と同様に、手洗い、うがいを徹底することや、必要に応じてマスクを着用すること、栄養不足にならないように、栄養士などの指導に基づいた適切な食事療法を行うことなどがあります。
☞詳しくは、透析の基礎知識「感染症」をご覧ください。
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☞【参考】
腎移植・腹膜透析・血液透析...どうやって治療法を選ぶ?「腎代替療法 私の選び方」
動画体験シリーズ「血液透析」
2016.10.31 透析ライフ
2016.12.22 透析のアニメ
2019.06.20 透析の基本情報
2017.11.29 透析のドクターコラム