2017.03.16 透析のアニメ
高齢化や、糖尿病などの生活習慣病患者の増加に伴い、わが国の末期腎不全患者数も増加しています。末期腎不全の治療には、血液透析、腹膜透析、そして腎移植があります。この中で、腹膜透析(Peritoneal dialysis: 以下、「PD」)は、患者さん自ら、あるいは介護者が行う在宅医療です。海外では、先進国を含めた多くの国で、末期腎不全患者さんが受ける透析療法のうち10%以上をPDが占めており(*1)、患者さんの社会復帰や家庭復帰に大きく貢献しています。一方、日本国内には30万人を超える透析患者さんがいますが、そのほとんどが血液透析(Hemodialysis:以下、「HD」)を受けており、PD患者さんはわずか3%未満(*2)です(2021年末時点で3%(*6))。
なぜ、わが国ではPDの普及が進んでいないのでしょうか? 様々な理由が考えられていますが、一つには1990年代から2000年代初めにかけてPD患者さんに多発した被嚢性腹膜硬化症※の影響が大きいと考えられてきました(*3)。これがボディーブローのように影響して、PDの普及を妨げたというわけです。
※被嚢性腹膜硬化症:腹膜透析液による腹膜の劣化や、重度の腹膜炎などが原因となって起きるPDの合併症で、腹痛や吐き気、嘔吐などの腸閉塞の症状を伴う。
今世紀に入って腹膜透析液の改良や開発が行われ、被嚢性腹膜硬化症が起きるリスクは減少したと言われています (*4)。現在、わが国では世界トップレベルの高品質の透析液でPD療法が行われています。それにもかかわらず、PDの普及は進んでいません。
では、PDの普及が進まない本当の原因は何なのでしょうか?私の勤める福島県立医科大学附属病院 腎臓高血圧内科では、2011年に「療法説明外来」を設立し、末期腎不全患者さんやそのご家族に、3つの治療法(血液透析、腹膜透析、腎移植)について、偏りなく、平等に説明をしています。その結果、療法説明外来設立以降、毎年おおよそ3割の患者さんがPDを選択しています。このことからもわかるように、PDの普及が進まない原因の一つは、患者さんやそのご家族にPDについての正確な情報が十分に伝えられていないことのようです(*5)。
☞参考:動画体験シリーズ「自分に合った治療法を見つけよう ~療法選択外来の実際~」
さて、腹膜透析液が今世紀になって改良されたことは述べましたが、このようにPD療法が進化したことにより、専門家の間では、改めてPDの価値が見直されつつあります。
末期腎不全のような慢性疾患を持つ患者さんに、在宅医療や社会復帰の後押しをすることは、国として取り組むべき重要課題と言えます。末期腎不全の領域においては、PDが課題解決の重要な切り札になるものと期待されています。以下、PDが患者さんや社会に対してどのようなメリットをもたらすかを紹介します。
<出典>
*1 USRDS. 2023 Annual Data Report//End Stage Renal Disease:Figure 11.16
*2 日本透析医学会 統計調査委員会 図説 わが国の慢性透析療法の現況(2014年12月31日現在)
*3 Nomoto Y, Kawaguchi Y, et al. Sclerosing encapsulating peritonitis in patients undergoing continuous ambulatory peritoneal dialysis: a report of the Japanese Sclerosing Encapsulating Peritonitis Study Group. Am J Kidney Dis 1996;28:420-427
*4 Nakayama M, Miyazaki M, et al. Encapsulating peritoneal sclerosis in the era of a multi-disciplinary approach based on biocompatible solutions: the NEXT-PD study. Perit Dial Int 2014;34:766-774
*5 中野広文, 古賀祥嗣, 中元秀友, 中山昌明, 平松信, 政金生人. 末期慢性腎不全に対する腎代謝療法の情報提供に関するアンケート調査 日腎会誌48:658-663,2006
*6 花房規男 他. わが国の慢性透析療法の現況(2021年12月31日現在) 透析会誌 2022;55:665-723