~よりよい透析生活のために ②~
よりよい透析生活のために ②
2016.10.31 透析ライフ
透析療法を続けていると、さまざまな合併症が起こることがあります。透析患者さんに起きやすい合併症について説明します。
監修:久留米大学医学部 内科学講座 腎臓内科部門 主任教授 深水 圭 先生
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透析患者さんの多くは、腎臓病が悪化して亡くなるのではありません。最も多い死亡原因は心不全で、透析患者さんのおよそ4人に1人が、心不全および脳血管障害、心筋梗塞を含む「心血管系疾患」で亡くなっています。
透析患者さんは一般の人に比べて、心血管系疾患を起こすリスクが高いことがわかっています(*)。その理由は、透析導入前から心血管系疾患の原因である動脈硬化が進行しているためです。また、腎機能の低下に伴って心臓にかかる負荷が大きくなることも原因の一つです。
動脈硬化の進行
動脈硬化は、血管の壁にコレステロールなどがたまって、血管が狭くなったり詰まったりした状態です。脂質異常症や高血圧、糖尿病などによって進行します。透析患者さんは、このような疾患を合併していることが多く、さらにリン、カルシウムの代謝異常が加わって、血管の石灰化が進みやすいことが特徴です。
心臓にかかる負荷の増大
透析患者さんは、透析と透析の間は水分が体に溜まるため、体液(血液)量が増えます。血液量が多いと、それを全身に送り出す心臓に負荷がかかります。
また、透析患者さんや腎機能が低下した患者さんが合併しやすい貧血も心臓に負荷がかかる原因になります。貧血が重症になると、多くの血液を全身に送り出そうとして、心臓に負荷がかかります。
透析患者さんの動脈硬化は全身の血管で進行するため、さまざまな心血管系疾患を起こす可能性があります。
脳血管障害
脳の血管が破れて出血する脳出血と、脳の血管がつまる脳梗塞があります。どちらも体の片側のまひが生じ、歩けない、うまくしゃべれないといった症状が突然起こり、後遺症が残ることもあります。
虚血性心疾患
心臓の筋肉に栄養を送る血管(冠動脈)がつまって、突然の胸痛や冷や汗などがみられます。症状が一時的におさまれば狭心症、血流がとだえて心臓の筋肉が障害されると心筋梗塞です。
心臓弁膜症
血液の逆流を防ぐための弁が石灰化などにより動きが悪くなり、心臓が血液を体にうまく送り出せなくなります。さらに弁の逆流により心臓に負担がかかります。
不整脈
上記のような心臓の疾患や血液中のカリウムの異常などが原因で、心拍数やリズムが不規則になります。
心不全
心臓のポンプ機能が低下した状態で、さまざまな心臓病が原因となります。透析患者さんは体液量が増加しやすいため、心臓に負担がかかって心不全になりやすいことが知られています。
閉塞性動脈硬化症(ASO)
足の血管がつまる病気です。歩くと足が痛む、足がしびれるなどの症状がみられます。原因としては石灰化が挙げられます。
心血管系疾患を防ぐためには、動脈硬化の予防や、心臓にかかる負荷の増大を避けることが重要になります。前述のとおり、透析患者さんの心血管系疾患は透析導入前から進行していることが多いので、医師などの指導に従って、早い段階から対策をとるようにしましょう。
<主な対策>
血圧のコントロール
透析患者さんの場合、適正な透析を行った上で、血液量が増えすぎないように、塩分、水分の摂取量を制限したり、降圧薬を用いたりして、血圧を適切にコントロールします。透析導入前も、塩分制限や降圧薬の使用などによって、しっかりと血圧を管理することが大切です。
脂質異常症の改善
食事療法や運動療法で、血液中のLDLコレステロール(悪玉コレステロール)や中性脂肪を適切に管理します。また、必要に応じて脂質降下薬を用います。ただし、低栄養状態にならないように注意する必要があります。
ミネラルのコントロール
リンとカルシウムは血管の石灰化の原因になるミネラルなので、食事療法や薬物療法で特にしっかりと管理します。また、カリウムも同様に食事療法や薬物療法でコントロールします。
貧血の改善
十分な透析を行うことや、造血ホルモン剤や鉄剤による薬物療法などで貧血を改善します。ほとんどの患者さんで透析導入前から貧血が進行しますので、早い段階からの治療が必要になります。
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<出典>
* Foley RN, Parfrey PS, Sarnak MJ:Epidemiology of cardiovascular disease in chronic renal disease. J Am Soc Nephrol 1998;9:S16-S23
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