2016.12.22 透析のアニメ
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Chapter 2: 透析療法の進歩について
-----慢性腎臓病の治療の発展とともに、透析療法も20~30年前と比べて非常に進歩したと思うのですが、特にどのような点が進歩したのでしょうか。
まず、高機能で生体適合性に優れた透析膜が開発され、透析液の水質も格段によくなりました。そのようなことが透析患者さんの予後の改善につながっていると思います。
また、最近では、新たな透析手法として血液ろ過透析(HDF)が行われるようになりました。HDFは血液透析にろ過を加えた治療法で、通常の透析では除去しきれない毒素や老廃物を取り除くことができます。HDFが透析患者さんの予後を改善するという明確なデータはまだ出ていませんが、個々のレベルでは、透析困難症※が改善したという報告もあります。このような機器や手法の進歩が、最近の透析療法の進歩と言えます。
※ 透析困難症:透析中に発生する一過性の透析合併症。血圧低下、動機、気分不良、冷汗、胸痛、意識消失などの症状が起こり、透析の継続が困難となる病態。
-----透析の合併症の治療についてはどうでしょうか。
合併症の治療の進歩に関しては、エリスロポエチン※1が製剤化されたことが、患者さんのQOLの改善に非常に大きな影響を与えました。
30数年前の透析患者さんは、ヘモグロビン値で6.0g/dL(男性基準値13.7~16.8g/dL、女性基準値:11.6~14.8g/dL (*1))、ヘマトクリット値で20%(男性基準値:40.7~50.1%、女性基準値:35.1~44.4% (*2))あれば、いい数値だと言われており、ヘモグロビン値が15%を下回った場合は輸血を行うというような状況でした。そのため、患者さんは貧血でとても疲れやすく、活動性が落ちていました。輸血を繰り返すことで、ヘモクロマトーシス※2になってしまう方や、C型肝炎に感染する方も多くいらっしゃいました。エリスロポエチンの製剤化は合併症治療の進歩における非常に大きなインパクトだったと思います。
※1 エリスロポエチン:主に腎臓で生成され、赤血球の産生を促進する造血ホルモン
※2 ヘマクロトーシス:体内に取り込まれた鉄量のコントロールがきかなくなり、全身臓器の細胞に鉄が蓄積し、臓器障害をきたす疾患
-----透析療法はすでにかなり進歩してきていますが、今後さらに患者さんの予後を改善できる可能性はありますか。
これは非常に難しい問題です。統計上、過去20年近く、透析患者さんの5年生存率は6割(*3)を超えるか超えないかの値を推移しています。患者さんの高齢化がありますので、年齢補正をかけると余命は伸びていますが、現実としては、透析患者さん全体の5年生存率はずっと6割なのです。5年生存率が6割という数字がどれくらいのインパクトを持っているかというと、全ての部位のがんを合わせた5年生存率が6割くらい(*4)ですので、厳しい現実があるということをご理解いただけるかと思います。透析患者さんはそこまで予後が悪くないというイメージをお持ちの方が多いかもしれませんが、実際には、がんという宣告を受けるのと同じくらいの余命しかもっていないのです。
この点はなんとか改善したいと思っておりますが、高齢化や原疾患などの要因を含めると、どこまで改善できるかは難しいところがあります。
-----最近は、透析回数や頻度を多くすることで、予後の改善ができるのではないかというお話もよくお聞きしますが。
短時間頻回透析は予後を改善し、合併症を減らす1つの手段になると思います。家庭透析であれば、自宅に透析機器を設置し、例えば毎日2時間、365日透析を行うことができます。毎日針を刺さなければならないというデメリットはありますが、施設に行く手間も減らせますので、家庭透析が可能な方にとっては、効果的な手段だと思います。
-----透析患者さんの死因の多くを占める、心血管疾患や感染症などの最近の治療についてはいかがでしょうか。
心血管疾患については、さまざまな対策が検討されています。透析患者さんの血管の石灰化には、リン代謝が一番影響を及ぼしていますが、最近はリンを下げるいい薬が出てきています。そのような薬によってコントロールしてくことで、予後が改善できるのではないかと期待しています。また我々の研究でも、いろいろな要素が絡む血管の石灰化に対し、拮抗薬などを開発していくことで、心血管疾患を減らし、余命を長くすることを考えています。
-----患者さん自身ができる感染症対策にはどのようなものがありますか。
手洗いは効果がありますが、これをやっておけばいいということはありません。基本的なことですが、清潔を心がけることが大切です。
また、最近はフットケアが重視されるようになってきています。透析患者さんは、足に小さな傷ができ、それが大きな潰瘍になり、そこから感染して敗血症を起こすというようなことがありますので、小さな傷のうちにきちんと管理し、大きな潰瘍や壊疽にならないようにすることが重要です。さまざまな病院にフットケアチームが出来ていますので、感染症を少しでも減らせるのではないかと思っています。
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<出典>
*1,2 日本臨床検査標準化協議会 日本における主要な臨床検査項目の共用基準 範囲案―解説と利用の手引き―2014 年 3 月 31 日修正版
*3 日本透析医学会 統計調査委員会 図説 わが国の慢性透析療法の現況(2005年12月31日現在)
*4 国立がん研究センターがん対策情報センター がん情報サービス がん登録・統計 統計ページ