ドクターインタビュー

慶應義塾大学病院 血液浄化・透析センター 教授・センター長

林 松彦 先生
慶應義塾大学病院
血液浄化・透析センター 教授・センター長

林 松彦 先生
林 松彦 <font size="4">先生</font>

目次

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Chapter 3: これからの腎不全治療

-----高齢化が進んでいる背景があるとはいえ、現在でも透析患者さんの5年生存率が6割というのはかなりショッキングな数字ですが、慢性腎不全患者さんにとって希望となる、新たな治療法の研究は進んでいるのでしょうか。

先ほどは、透析療法を改善し、患者さんの余命を伸ばすというお話をさせていただきましたが、透析患者さんの一番の願いは、「透析療法からの離脱」だと思います。患者さんが透析から離脱するためには、腎移植という手段がありますが、先ほどお話ししたように、すべての患者さんが移植を受けられる状況ではありません。そのため、再生医療や、体内埋め込み型の人工腎臓の開発など、新たな治療法が期待されていると思います。
まず腎臓の再生医療についてですが、iPS細胞に非常に期待されている方が多いと思いますが、iPS細胞による臓器再生ロードマップ(基礎研究や臨床実験を行い、実用化するまでの時間軸を含めた計画案)では、心臓や血管などは、最後までロードマップが出来ていますが、腎臓は現在のところ、基礎研究を終えるというところまでしか出来ていません。また、肺はロードマップさえ無いのです。なぜかというと、心臓や血管、角膜などはシートができればいいわけですが、腎臓や肺は丸ごとに近いものを作らなければならないからです。iPS細胞による腎臓の再生研究は必要な試みですが、現在透析を受けている患者さんが受けられる治療かというと、少し難しいかもしれません。

-----豚やマウスでの腎臓再生の研究のニュースも耳にしますが。

胎生臓器を用いた腎臓再生は東京慈恵会医科大学の横尾隆教授が非常に熱心に取り組んでいらっしゃいます。以前私も一緒に研究班で実験したことがあります。どこかで非常に大きなブレークスルーがあれば、実用化するかもしれませんが、異種動物に腎臓を作らせていますので、倫理上の壁は大きいです。

-----技術的に出来るという話と、倫理的に認められるかという話があるということですね。

幹細胞研究における倫理がありますので、指針を乗り越えられるような手段を考える必要があると思います。それは研究をされている先生も常に頭に入れていらっしゃると思います。大きなブレークスルーが起こり、iPS細胞の時のように一気に発展していくことを期待したいと思います。

-----体内埋め込み型の人工腎臓についてはどうでしょうか。

体内埋め込み型の人工腎臓については、当大学の理工学部の三木則尚准教授と、東京医科大学 腎臓内科の菅野義彦主任教授が、500円玉大の大きさの小型人工透析システムを開発し、将来的に体内に埋め込むことを視野に入れ、研究していらっしゃいます。埋め込み型人工腎臓の開発に関しては、再生医療などに比べると、資本の関係もあり研究の規模は大きくないと思いますが、新素材の開発や、ものを小さくすることは日本人の得意とするところだと思いますので、画期的な工学技術が開発されれば、一気に実用化に繋がるかもしれません。

-----さまざまな研究が進んでいるので、課題も多いですが、今後に期待したいということですね。

そうですね。私は透析センターのセンター長をしておりますが、将来的に血液浄化法が無くなるとは思いませんが、1日も早く、慢性腎臓病患者さんに透析が必要なくなる日が来ることを願っています。

-----現時点では、透析から離脱するためには、腎移植という手段がありますが、日本の腎移植はどうあるべきでしょうか。

腎移植を受けることができれば、透析と比較して社会的な活動度が格段に良くなりますし、透析による合併症の心配も無くなります。子どもの場合は、移植によって成長も期待できます。先ほどお話ししたような新たな治療法が確立するまでは、献腎移植を増やす努力をすることが現実的な対策だと思います。

-----日本は米国や欧州に比べて圧倒的に死後の臓器提供が少ないですが、その理由はどのようなところにあるのでしょうか。

林先生3

日本の献腎移植は年間百数十件ですが、人口が日本の約2.5倍の米国では1万件を超えています(*)。米国の80%近い国民が信仰しているキリスト教では、死後は魂が神様のそばに召され、遺体は意味を成しませんので、死後に臓器提供される方が多いのだと思われます。 日本の献腎移植がなぜ少ないのかというと、さまざまな背景があると思いますが、儒教の影響もあるといわれています。「身体髪膚これを父母に受くあえて毀傷せざるは孝の始めなり」とあるように、人の体はすべて父母から恵まれたものであるから、傷つけないようにするのが孝行の始めということで、自分の体や親の体を傷つけるのはよくないことだということが文化の中にしみ込んでいます。そのため、死後の臓器提供を嫌がる方が多いのだと思います。これを変えるのはとても大変です。

-----社会を変えていくには、大きな何かが必要ですよね。

10年以上前の話になりますが、紀子さまが公的バンクへ臍帯血を提供されたことがあり、一気に臍帯血の提供が広まったことがありました。芸能人が白血病になったというニュースによって、骨髄移植についての認知が広まり、骨髄バンクへの骨髄・末梢血幹細胞の提供がそれまでの何十倍にもなったこともあります。ほんの少しのことで日本の社会は変わることがありますので、何かのきっかけが必要だと思います。

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<出典>
* 日本臓器移植ネットワーク ホームページ


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