2017.03.30 腎移植のアニメ
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Chapter 3: 「知らない人を減らしたい」...膵腎同時移植への想い
-----膵腎同時移植は、1型糖尿病患者さんにとって大変有効な治療法だと思いますが、知らない患者さんも多いのですか。
加来先生:
非常に多いと思います。前述のとおり1型糖尿病は糖尿病全体の約5%と言われていること、糖尿病を持つ透析患者さんが少なくとも約13万人いることから単純計算すると(*1)、1型糖尿病の透析患者さんは5,000~6,000人程度いることになります。その中には、膵腎同時移植の適応となる患者さんも多数いらっしゃるはずですが、現在、膵腎同時移植の希望登録をして待機している患者さんは、たったの170名程度です(2023年10月時点では約130名(*2))。膵腎同時移植は知っているけど希望しないという方もいらっしゃるかもしれませんが、知らないために登録していない方がかなり多いと考えられます。
中村先生:
知っていても、何かしらの誤解があり移植を希望していない可能性もありますね。例えば、移植というだけで医療費の自己負担が数百万になると思われている方も多いようです。しかし、実際は、健康保険を適用した上で医療費助成制度も利用できるので、移植した月も、それ以降も、医療費の自己負担は、多くの場合、月2万円以内です(2019年6月現在)※。このような誤解も、登録患者さんが少ない原因かもしれません。
※ 入院時の差額ベッド代、日本臓器移植ネットワークのコーディネート費用10万円は自己負担となります。また、摘出医師派遣費および臓器搬送費の実費負担があります(ただし、一部もしくは全額の返還があります)。その他、膵腎同時移植希望登録の新規登録料(6万円)、更新料(年1万円)などの負担があります(2019年6月現在)。
加来先生:
登録する、しないは患者さんの自由ですが、知っていたら登録するはずの患者さんが、知らないために登録していないのは問題です。これほど成績の良い治療法があるのですから、まずは患者さんにこの治療法について知っていただきたいですね。とにかく、知らない人を減らしたいです。
-----なぜ、膵腎同時移植はあまり知られていないのでしょうか。
中村先生:
原因の1つとして、移植をよく知っている医療者が少なく、患者さんに治療選択肢として提示できていないことが考えられます。移植医療を行っている病院は限られています。日常的に移植が行われている病院であれば、医療者が移植を身近な医療として捉えているため、患者さんにも詳しく説明できると思いますが、そうでなければ、知識としては知っていても、治療の選択肢として患者さんに提示しにくいかもしれません。
加来先生:
腎移植ならまだしも、膵腎同時移植となると、さらにその傾向が強くなるかもしれません。他院から生体腎移植希望で紹介を受けた患者さんの紹介状を見ると、病名が1型糖尿病であったということがあります。1型糖尿病の患者さんに、腎移植を勧めることはできても、膵腎同時移植という選択肢を提示するところまではできていないのが現状だと思います。
-----どうしたら膵腎同時移植をより多くの方に知っていただけると思いますか。
中村先生:
まず、私たち医療者が努力を続けていく必要がありますが、腎援隊のようなウェブサイトや本などで膵腎同時移植の情報を公開していただくことも助けになります。それらを通じて膵腎同時移植を知り、患者さんから医療者に相談していただくことで、移植につながる可能性が出てくると思います。
加来先生:
医療機関や市区町村などが、糖尿病患者さんや腎不全患者さん向けの市民公開講座や講演会を開催することがあり、さまざまな治療法について紹介したりしています。患者さんには、そのような場にもぜひ足を運んでもらいたいですね。
-----患者さんは、どの段階までに膵腎同時移植を知っておくべきですか。
加来先生:
他の腎代替療法と同様に、腎不全が進行して腎代替療法を考える必要が出てきたときには、選択肢の1つとして知っておいていただきたいです。
膵腎同時移植を受けた患者さんのデータを見ると、待機期間は前述のとおり平均約3年半ですが、透析歴は平均約7年です(*3)。つまり、透析導入後、しばらくしてから移植希望登録をしているということです。透析歴が長くなると、血管の石灰化などによる心血管合併症が進み、移植が受けられなくなる場合があります。また、高齢のために移植を受けられない場合もあります。先日、「60代後半の患者さんへの膵腎同時移植が可能か」との問い合わせを受けましたが、ガイドライン上「原則として60歳以下が望ましい」とされているため(*4)、残念ながらお断りしました。
もっと早くに移植希望登録をしていれば移植が受けられたかもしれない方が多く、大変歯がゆい思いをしています。移植希望登録は一定の基準を満たせば透析導入前でも可能ですので、患者さんには、できるだけ早い段階で膵腎同時移植を知り、登録を検討していただきたいです。
中村先生:
膵腎同時移植は、長年インスリンを自己注射し、低血糖におびえながら生活している方や、透析のために仕事が制限されている方にとって、大きく人生が変わる可能性がある夢のような治療法だと思います。この治療法について知っていただける機会を、さらに増やしていかなければいけませんね。
加来先生:
そして、より具体的に知りたいときは、膵腎同時移植を行っている病院に直接相談していただきたいと思います。ほとんどの病院には移植専門のスタッフがおり、結果的に移植希望登録をする、しないに関わらず、時間をとって相談にのってもらえると思います。
当院でも、膵腎同時移植のご相談を受け付けています。診察はせず、ご相談のみの場合は、紹介状は不要ですので、お電話でご予約ください。腎機能の低下がまだ中等度(eGFR 30-59 ml/min/1.73㎡ ※)という方でも結構ですし、現在透析を受けている方でも結構です。私たちが、患者さんのより良い治療選択のサポートをさせていただきます。
※ クレアチニンの値がわかれば、こちらでeGFRの値を計算することができます。
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<出典>
*1 日本透析医学会統計調査委員会 わが国の慢性透析療法の現況(2017年12月31日現在)透析会誌2018;51:699-766
*2 日本臓器移植ネットワーク ホームページ
*3 日本移植学会 臓器移植ファクトブック2018
*4 移植関係学会合同委員会・膵臓移植中央調整委員会 膵臓移植に関する実施要綱