2018.12.20 教えて!ドクター
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糖尿病性腎症(Diabetic Nephropathy;DMN)は、糖尿病発症から約10年の経過で微小血管障害(微量アルブミン尿※)が出現し、次の約10年で末期腎不全に至るのが典型的な経過です(*1)。
近年、糖尿病や高血圧などに対する治療成績の向上と糖尿病患者さんの高齢化により、典型的なDMNの臨床経過ではなく、アルブミン尿の増加を伴わず腎機能が低下する症例が増加しています。
肥満、脂質異常、高血圧、動脈硬化といった糖尿病と併発しやすい病態や、加齢の影響に糖尿病が部分的に関与して腎障害を起こしている病態を糖尿病性腎臓病(Diabetic Kidney Disease;DKD)と呼びます。DKDはDMNを含んだ大きな概念です。約10年以内の糖尿病歴で腎機能障害がある時にはDKDの可能性が高く(*1)、糖尿病以外の原因検索のために腎生検を必要とすることが多いです。
※ 微量アルブミン尿:初期段階の蛋白尿。アルブミンは尿蛋白の主な成分で、糖尿病などによる腎障害の極めて初期に微量のアルブミンが尿中に排泄される。
多くの場合、DMNは腎移植後に再発します。しかし、DMN再発により移植腎喪失することは稀で、心不全や心筋梗塞、脳梗塞といった心血管疾患(Cardio Vascular Disease;CVD)によるDWFG(移植腎が生着しながら死亡;Death With Functioning Graft)が移植腎喪失の原因となることがほとんどです。
腎障害はCVDを増加させます(*2)。また糖尿病もCVDを増加させます。そのため、DKDから末期腎不全になったCKD患者さんは、血管に対する大きな重荷を2つ持つことになります(*3)。DKDからのCKD患者さんが腎移植を受ければ、末期腎不全から脱却して、その後の糖尿病治療経過中における新規CVDや、既にCVDを有するCKD患者さんのCVD再イベント(再発、死亡など)を減少させる可能性が大きくなります。他の原疾患からのCKDに比べて、腎移植のメリットが最も大きいのがDKDからのCKDです。
一方で、腎移植により糖尿病自体は悪化するリスクが高くなります。自分のものではない他人の腎臓を体内に置くのが腎移植ですから、移植腎が機能している間は免疫抑制薬を必要とします。免疫抑制薬の服用により、糖尿病が悪化する場合もあります。
以前は、頻回に起きた急性拒絶反応※への免疫抑制強化により、移植後の糖尿病はコントロールが難しくなる症例もありました。また、激しい急性拒絶反応から早期に移植腎廃絶することも多く、移植腎機能はあまり長期に維持することができませんでした。
※急性拒絶反応:白血球の1つであるTリンパ球が、移植された臓器を攻撃する免疫反応。移植後、3か月以内に起こることが多い。
これらのことから、DKDからのCKD患者さんは腎移植を避けたほうが良いとする時代がありました。しかし、最近の免疫抑制薬の進歩は、この考え方を全く逆にしました。本邦の場合は、献腎移植が少ないのは大きな問題ですが、生体腎ドナーからの腎提供の可能性がある時には、DKDからのCKD患者さんも含めて、腎移植ができないか考えることも必要です。
また最近では、透析療法を導入せずに腎移植をする先行的腎移植(PEKT)が増えてきています。2016年では生体腎移植の34%がPEKTでした(*4)。DKDから透析導入になると、高血糖からの終末糖化産物(AGEs)※が血管への3つ目の重荷を追加します(*5)。PEKTにより早期に末期腎不全から脱却することは、血管へのストレスが多いDKDの患者さんに推奨されています(*6)。DKDにCVDを既に合併しているCKD患者さんではなおさらです。
※終末糖化産物:タンパク質と糖が加熱されてできた物質。強い毒性を持ち、老化を進める原因物質とされている。
最近の腎移植医療が、DKDからのCKD患者さんに非常に効果的とされているのは以上の理由からです。では、その効果をもっと大きくするには、どうしたらよいでしょうか?
それは、免疫抑制薬継続による糖尿病悪化を最小限にすることです。そのため、移植前後にやるべきことがあります。
<移植前>
移植後3ヵ月は免疫抑制薬の内服量が多いです。免疫抑制薬の1つであるステロイドの影響や腎不全からの脱却による食欲増進は、体重増加につながります。また、前述のとおり、免疫抑制薬の副作用によって糖尿病が悪化することもあり、インスリン使用開始またはインスリン使用量の増加が必要になる場合があります。インスリンが増えれば、多くの場合、体重は増加します※。
※インスリンの脂肪合成作用などの様々な要因により、体重が増加するとされています。
これらの理由から、移植前にしっかり減量をしておく必要があります。
通常、末期腎不全下では筋肉量を維持することが難しくなります。BMIが大きい腎移植候補のCKD患者さんは、脂肪か水分の組成割合が多いことになります。PEKT希望のCKD患者さんに多い水分過剰状態の時は、PEKTを諦めて透析導入を先行させる必要があります。体脂肪は食事と運動で落としますが、DKDからのCKD患者さんでは、蛋白制限をしながら糖質制限もする難しい食事管理が求められます。減量できない時には、蛋白制限を緩めるためにいったん透析導入を必要とすることもあります。
<移植後>
移植後にやるべきことは、適切なカロリー摂取と運動です。全身の血管を守るために腎移植をしても、肥満と糖尿病管理が悪いと、CVDからのDWFG(移植腎が生着しながら死亡)により腎移植のメリットを消してしまう可能性があります。カロリー制限は必要ありません。適切なカロリー摂取を心掛けてください。また、腎移植による末期腎不全脱却により、運動をした分だけ筋肉量は戻ってきます。過剰な蛋白摂取はしてはいけませんが、有酸素運動を増やして筋肉を増やす努力をしてください。筋肉量が増えれば糖尿病のコントロールは良くなります。
生体腎移植ドナー候補からの腎機能提供の気持ちに応えて、患者さん自身が腎移植前後の管理をきちんとすることができれば、腎移植をうまく利用して腎不全を早期に脱却することで、患者予後が格段に良くなる時代になりました。
☞ 参考:ドクターコラム「糖尿病のCKD・透析」
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<出典>
*1 日本腎臓学会 編. CKD診療ガイド2012;32 Figure 19
*2 Go AS, Chertow GM, Fan D, et al. Chronic kidney disease and the risks of death, cardiovascular events, and hospitalization. N Engl J Med 2004;351:1296-1305
*3 Foley RN, Murray AM, Li S, et al. Chronic kidney disease and the risk for cardiovascular disease, renal replacement, and death in the United States Medicare population, 1998 to 1999. J Am Soc Nephrol 2005;16:489-495
*4 湯沢 賢, 八木澤 隆, 三重野 牧, et al 腎移植臨床登録集計報告(2017)2016 年実施症例の集計報告と追跡調査結果 移植 2017;52:113-133
*5 Makita Z, Bucala R, Rayfield EJ, et al. Reactive glycosylation endproducts in diabetic uraemia and treatment of renal failure. Lancet 1994;343:1519-1522
*6 日本腎臓学会 編. エビデンスに基づくCKD診療ガイドライン2023:175-176