2017.03.30 腎移植のアニメ
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Chapter 2: 膵腎同時移植のメリットと現状
-----膵腎同時移植とは、どのような治療法でしょうか。
加来先生:
1型糖尿病患者さんを対象に※1、膵臓と腎臓を同時に移植する治療法です。基本的には、脳死ドナーの方から臓器提供を受けます※2。
1型糖尿病患者さんが腎移植を受けると、末期腎不全からは脱却できますが、糖尿病が治るわけではありません。しかし、膵臓と腎臓の同時移植を受ければ、移植した膵臓からインスリンが出るようになるため、末期腎不全だけでなく、糖尿病が治ることも期待できます。
日本では現在、年間30件程度の膵腎同時移植が行われており、その数は徐々に増えてきています(*1)。
※1 2型糖尿病患者さんでも、インスリンがほとんど出ていない場合は膵腎同時移植の適応になりますが、現状、2型糖尿病患者さんへの膵腎同時移植が行われた実績はありません(2018年10月31日現在)(*1)。
※2 生体間で膵腎同時移植が行われる場合もありますが、生体間の膵臓移植は保険適用になっておらず(2019年6月現在)、日本では2014年以降行われていません(2018年10月31日現在))(*1)。
-----膵腎同時移植には、どのようなメリットがありますか。
加来先生:
やはりQOL(Quality Of Life:生活の質)の改善が大きなメリットです。膵腎同時移植を受ける患者さんは、基本的に透析療法を受けている方ですので、移植後は、合併症のリスクや時間的な拘束から解放されます。そのため、毎日の免疫抑制薬の服用と、月1回程度の通院以外は、多くの場合で健常者とほとんど変わらない生活ができるようになります。拒絶反応などによって、移植した腎臓や膵臓が再び機能を失ってしまう場合もあるため、必ずしもその生活を生涯続けられるとは限りませんが、治療満足度は非常に高いです。
糖尿病が治れば、長年行ってきた血糖コントロールから解放されるメリットも期待できます。1型糖尿病患者さんがインスリン療法を行っていると、低血糖を起こすことが度々あります。低血糖が重度の場合、けいれんを起こしたり、意識を失ったりすることもあるため、お仕事をされている方は、仕事中にそのような状態になったら、と常に不安をかかえています。インスリン療法が不要になり、そのような不安が無くなることは、患者さんにとって大きなメリットです。 加来先生:
また、膵腎同時移植は、患者さんの生命予後を改善します。アメリカの研究で、膵腎同時移植を待っている患者さんと、移植を受けた患者さんの4年後の生存率※を比較したところ、移植を待っている患者さんは58.7%、移植を受けた患者さんは90.3%でした(*2)。
※ 移植を待っている患者さんの生存率は、膵腎同時移植の希望登録をしてから4年後のもの、移植を受けた患者さんの生存率は、移植手術を受けてから4年後のもの。
-----移植した臓器の生着率※はいかがでしょうか。
※ 生着率:移植後のある時点で機能している移植臓器の割合。移植臓器が機能している期間を示す指標とされる。
加来先生:
生着率も良好です。膵腎同時移植における腎臓の生着率は、移植5年後で90.9%で(*1)、腎臓のみを移植した場合(献腎移植)の成績(88.0%)と同等です(*1)。膵臓の生着率も、移植5年後で82.2%と良好です(*1)。
加来先生:
1型糖尿病であり、腎移植の適応条件を満たしていれば、膵腎同時移植を受けられる可能性があります。そのためには、まず日本臓器移植ネットワークに膵腎同時移植の移植希望登録をする必要があります。膵腎同時移植を行っている病院は全国で18施設ありますので(2019年5月現在)、主治医に紹介状を書いてもらい、ご自身が移植を受けたい病院を受診して、登録手続を行います。その後は、移植の順番が回ってくるまで、基本的には透析療法を受けながら待機します。
☞ 日本臓器移植ネットワーク:膵腎同時移植を行っている病院一覧
-----献腎移植(腎臓単独)においては、移植希望登録をしてから実際に移植を受けるまでの待機期間は成人で平均約16年ですが(*3)、膵腎同時移植における待機期間はどのくらいでしょうか。
加来先生:
現状、平均約3年半ですので(*1)、献腎移植の待機期間に比べるとかなり短いです。また、あくまで平均ですので、かなりのばらつきがあります。これまでに膵腎同時移植を受けた患者さんの約4割は、待機期間が2年未満です(*3)。当院の実績においても、待機期間は平均約2年です。まだ十分ではありませんが、最近少しずつドナーが増えてきているので、今後、さらに待機期間が短くなる可能性もあります。
-----近年、生体腎移植であれば、透析を経ずに行う腎移植(先行的腎移植)も一般的に行われています。糖尿病患者さんは、透析導入後に心血管疾患の発症リスクがより高まるため、糖尿病患者さんが腎移植を受ける場合は、できれば先行的腎移植が良いとも言われています(参考:ドクターコラム「糖尿病患者さんの腎移植」)(*4)。
透析を受けながら膵腎同時移植を待つのと、先行的腎移植を受けた後に膵臓移植を待つのとでは、どちらが望ましいでしょうか。
加来先生:
どちらも良い治療ではありますが、腎臓と膵臓、両方の移植を希望しているのであれば、まずは膵腎同時移植を勧めています。膵腎同時移植の成績が良いことと、脳死や心停止された方からの臓器提供になりますので、生体ドナーにご協力いただく必要がないことが理由です。
ただし、待機期間が長くなり、移植時期が遅れることのリスクも無いわけではありません。実際、膵腎同時移植を待っている間に、心血管疾患で亡くなってしまった患者さんもいらっしゃいました。そのため、生体腎ドナーがいる場合には先行的腎移植を行った後に膵臓移植を待つ治療選択肢も必ず提案しています。
-----1型糖尿病患者さんが、腎移植のみを希望して膵臓移植を希望しない場合もありますか。
加来先生:
そのような場合もあると思います。実際、生体腎移植で腎臓のみ移植を受ける1型糖尿病患者さんも、国内で年間20~30名程度いらっしゃいます(*5)。
※2021年に生体腎移植を受けた1型糖尿病患者さんは55人でした(*6)。
中村先生:
腎移植だけでも受けられれば、血圧が安定するので、心血管合併症のリスクは軽減できます。また、生命予後も良くなるので(*7)、十分なメリットはあります。
膵臓移植を受けない場合、糖尿病自体はよくならないので、いずれは移植した腎臓にも影響が出てくる可能性はありますが、仕事をしなければならない期間だけ透析を回避できれば良いという考え方もあるかと思います。そのために、早くに腎移植を受けることを優先して、膵臓移植は特に希望しないという方もいらっしゃるかもしれません。
加来先生:
ただ、患者さんが膵臓移植や膵腎同時移植という治療法があることを知らないために、移植を希望していない場合も多々あると思われます。これについては、問題だと考えています。
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<出典>
*1 日本移植学会 臓器移植ファクトブック2018
*2 Rainer W.G. et al. Mortality Assessment for Pancreas Transplants American Journal of Transplantation 2004;4:2018-2026
*3 日本臓器移植ネットワーク 臓器提供・移植データブック2017
*4 Becker BN, et al. Preemptive transplantation for patients with diabetes-related kidney disease Arch Intern Med 2006;166:44-48
*5 日本臨床腎移植学会・日本移植学会. 腎移植臨床登録集計報告(2018) 移植 2018;52:89-108
*6 日本臨床腎移植学会・日本移植学会. 腎移植臨床登録集計報告(2022) 移植 2022;57:199-219
*7 日本腎臓学会 他. 腎不全 治療選択とその実際(2023年版)