2017.04.27 透析の基本情報
透析医療も、より良い治療となるように様々な試みが続けられており、最近では、従来の血液透析よりも毒素の除去効率が良いとされている「血液透析濾過(HDF)」という方法も広まってきました。このコラムでは、そのHDFの仕組みとメリットを紹介します。
現在、わが国ではHDF治療、特に2012年に保険適用となった、透析液を清浄化して補充液とする「オンラインHDF」が普及してきています。この治療は欧州でもおこなわれており、通常の血液透析に比べて生命予後を改善する可能性がある(*)ということで注目を集めています。
腎不全に対する標準的な治療法である血液透析では、ダイアライザー内で透析膜をへだてて物質の濃度が均等になろうとする、「拡散」と呼ばれる現象によって老廃物などの毒素を血液から除去します。また、透析液側から血液側に陰圧をかけることで、血液から余分な水分や塩分をろ過し(限外ろ過)、それらを透析液中に排泄します。
血液透析は、英語で"Hemodialysis"と言います。"hemo"は血液、"dialysis"は透析という意味です。HDFは"Hemodiafiltration"という英語を略したものです。"dia"は透析の"dialysis"、"filtration" はろ過を意味しています。ですから、HDFを日本語では「血液透析濾過」(または「血液濾過透析」)と呼んでいます。この言葉の意味するとおり、血液透析治療で行われる拡散とろ過に加えて、さらにろ過をかけることで毒素の除去効率を高めることがHDF治療の狙いです。
血液透析で除去が困難な毒素には、関節痛の原因になったり、かゆみの原因になったりするものがあるとされています。それらの毒素の中には、HDFによってより高率に除去できるものもあります。ですから、関節痛やかゆみなどに悩まされている透析患者さんは、HDF治療により、それらの症状が改善する可能性があります。
また、HDF治療には、透析中の血圧低下、気分不良、足がつる といった困った症状が起らないようにする効果もあるとされています。
したがって、これらの透析の合併症に苦しんでいる患者さんの症状改善や、将来合併症が発生することを予防するために、HDF治療が選択されています。
ろ過をかけるということは、圧をかけて血液の一部(水分など)を、フィルターを通して体外に出すということです。HDFでは、通常の血液透析より多くのろ過をかけることにより、毒素を含んだ多くの水分が体から出て行くので、必要以上に出て行った水分を補充しないといけません。この水分補充に使われる液が「補充液」です。
従来はプラスチックバッグに入った補充液が主に使用されていました。しかし、十分なHDFを行うためには、1回の透析で30~60リットルもの大量の補充液が必要になります。これを従来のプラスチックバックで行なおうとすると、あまりにも作業が煩雑になってしまいます。
現在主流となっているオンラインHDFでは、プラスチックバッグに入った補充液の代わりに、水道水を用いて作られる透析液をさらに無菌化、無毒化して補充液にします。これによって、大量のろ過をかけて大量の補充液を使用することが可能になっています。
オンラインHDFでは、補充液として透析液を血液中に注入するわけですから、透析液の安全性には十分気をつけないといけません。日本透析医学会では、オンラインHDFを行うための透析液の水質基準※を定めています。水質を確保するためには、特殊なフィルターを使って透析液中の細菌や有害物質を取り除きます。また、定期的に水質検査を行い、透析液が無菌かつ無毒であることを確認する必要があります。安全なHDF治療のためには、この基準に沿った水質管理が不可欠です。
※ 日本透析医学会「エンドトキシン捕捉フィルタ(ETRF)管理基準」(2011年版)
日本HDF研究会は平成7年に活動を開始し、これまで20年以上にわたりオンラインHDFの普及に努めてきました。末期腎不全の患者さんに健常人と変わらない元気な生活を送ってもらうために、HDF治療がお役に立てばと思っています。
<出典>
* Francisco M, et al. High-Efficiency Postdilution Online Hemodiafiltration Reduces All-Cause Mortality in Hemodialysis Patients. J Am Soc Nephrol 2013;24