ドクターインタビュー

特定医療法人 衆済会
増子クリニック 昴 院長

特定医療法人 衆済会 増子クリニック 昴 院長

山﨑 親雄 先生

山﨑 親雄 <font size="4">先生</font>

山﨑親雄先生は、日本の透析医療の創世記から第一線でご活躍され、長年、日本透析医会の会長も務められました。また、増子記念病院の院長時代も含め、腎臓病治療のスペシャリストとして、数多くの腎不全患者さんに接してこられました。現在は増子クリニック 昴の院長として、患者さんが「安全」で「長生き」で「いつまでも元気」でいられる透析を目標とし、診療にあたられています。
45年以上に渡って透析医療に携わってこられた山﨑親雄先生に、日本における透析医療の歩みと今後の展望について、そして増子クリニック 昴における取組みについてお聞きしました。

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取材日:2016/04/27

目次

Chapter 1: 日本の透析医療の過去・現在・未来について

-----山﨑先生は45年以上に渡って透析医療に携わっておられますが、日本における透析医療の歴史についてお聞かせください。

人工透析治療が行われるようになる前は、尿毒症と診断された患者さんは2週間程度で亡くなっていました。人工透析が保険適用となったのは昭和42年(1967年)のことですが、昭和40年代前半は、まだ透析装置が不足しており、私が医師となった昭和43年の時点でも、勤務していた大学病院に透析装置は1台しかありませんでした。また、保険適用となった後も、会社員や公務員でも家族の場合は5割負担、国民健康保険本人の場合でも3割負担でしたので、家族や国保ですと治療を受けるには月10~20万円の負担がかかり(昭和43年(1968年)の大卒初任給:30,600円)、お金が払えないために治療が受けられず亡くなることも多かったです。いわゆる「金の切れ目が命の切れ目」と言われていた時代です。
その後、昭和47年(1972年)に透析患者が更生(育成)医療の対象となり、昭和59年(1984年)からは高額療養費制度が新設され、所得に応じて月最大1万円の負担で透析治療が受けられるようになったため、透析患者数は急激に増加しました。そして患者さんを受け入れるための民間透析施設も増加しました。
こうした患者負担の減少に伴う患者数の増加が、日本の透析治療技術の向上や、関連薬剤・機器の発展につながり、現在の治療成績が実現したのです。

-----透析医療の進歩において特に影響が大きかった薬剤はありますか。

わが国の透析医療に最も大きな影響を与えた薬剤は造血ホルモン剤であると考えます。造血ホルモン剤が開発される前は、すべての透析患者さんに貧血がみられ、日常生活における活動が制限されたり、貧血を改善するために輸血が行われたりしていました。輸血に伴うウィルス性肝炎を合併することも少なくありませんでした。しかし、造血ホルモン剤の使用が可能になったことによって、透析患者さんの貧血は改善し、透析を受ける以外はほぼ健常人と変わらない程度の日常生活が可能になりました。活動度の改善によって食欲不振が改善し、それに伴い生命予後も改善しました。

-----慢性透析患者数は、2014年末には32万人を超えたとのことですが(*1)(2021年末で約35万人(*2))、最近の透析導入患者さんに傾向はありますか。

1998年に導入患者さんの原疾患の第1位が糖尿病性腎症となって以来、糖尿病性腎症の割合は増加し続けていましたが、ここ数年は横ばいとなっています(*2)。むしろ導入患者さんの高齢化を反映し、糖尿病または耐糖能異常を合併する腎硬化症の患者さんが増加しており(*1)、今後も増え続けると思われます。
透析導入時の平均年齢は2014年末で男性が68.1歳、女性が70.9歳となっており(*1)(2021年末で男性が70.4歳、女性が72.7歳(*2))、社会全体の高齢化に伴い、今後も高齢患者の導入が増加することになります。年齢は死亡に影響を与える最も重要な要因ですので、高齢者の透析導入は平均的な生命予後を悪化させることになるでしょう。死亡患者数が増えることにより、透析人口自体は、2021年に34.8万人となった後は減少すると推計されています(*3)
※耐糖能異常:インスリンの分泌不足や作用不良などによって起こる、血糖値の正常化機構が不良になった状態。将来、2型糖尿病に移行する可能性が高いとされる病態。

-----2014年末の日本透析医学会の統計では、40年以上の透析歴を持つ患者さんが451人(*1)(2021年末は1,386人(*2))となっておりましたが、透析患者さんが長生きできるようになった要因についてお聞かせください。

1番目の理由としては、的確な透析導入が行われるようになり、適正な透析時間や血流量の設定など、透析治療そのものが定型化され、日本全国どこにいても一定レベルの透析治療が受けられるようになったことがあげられます。
2番目としては、高機能で生体適合性の高いダイアライザーが開発されたことや、除水コントロールが可能な機器の改良、極めて高度な水質が維持できるようになったことなど、透析技術の進歩があげられます。3番目としては、造血ホルモン剤の使用が可能となり、腎性貧血の改善が可能になったこと、4番目としては、多くのコ・メディカルスタッフが関与して、早期の合併症管理など、きめ細かい対応ができるようになったことがあげられます。
これらの理由によって、現在では元気で長生きできる透析患者さんが増えています。

-----今お話しいただいたような日本の透析医療の発展のベースには、やはり、保険適用などの経済的背景があったのでしょうか。

そうですね。冒頭でお話しさせていただいたように、何よりも患者さんの費用負担が少なく、民間の医療機関が参入する経営的メリットが大きかったことが日本の透析医療の発展に繋がりました。各施設が、看護師、臨床工学技士、栄養士、メディカルソーシャルワーカーなどの充実したスタッフを配置することができ、学会での発表などを通じて、切磋琢磨することにより、より良い透析を目指すことができたのだと思います。

-----最近は、24時間働き続けている腎臓の機能により近づけるために、透析時間を長くしたり、透析の回数を増やしたりする透析方法(長時間透析、オーバーナイト透析、在宅透析など)が注目されていると思いますが、それらについてはどのようにお考えですか。

山﨑先生

できる限り透析時間を長く、できる限り血流量は多く、できれば頻度も多いことが透析量を増やすことになり、特に在宅透析はこれらの条件をすべてクリアできる可能性を持っています。ただし、自己穿刺(自分で針を刺すこと)を含めて治療をやり切ろうとする患者さんの積極性と、治療を支援するご家族などの介助者が必要になります。
オーバーナイト透析では、安全などを考慮して血流量は下げるものの、長時間の透析が可能になることと、就眠中の治療で、社会生活の中で時間的余裕が生じることが最も大きなメリットといえます。しかし深夜に勤務できる医療スタッフの確保が必要になります。
特に若い人の場合は、在宅透析やオーバーナイト透析を利用して、日中は仕事をしながら社会生活を送り、腎移植の機会を待つことができれば理想的だと思います。

-----先生の考えるいい透析とはどのようなものでしょうか。

何よりも生命予後が良い透析で、また、毎回の透析における心身の苦痛がなく、安全であることです。加えて、患者さんが透析の際にスタッフと気持ちよく接することができ、ご家族に大きな負担がかからず、できることは患者さん自身で行えることもとても大切です。

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<出典>
*1 日本透析医学会 統計調査委員会 図説 わが国の慢性透析療法の現況(2014年12月31日現在)
*2 花房規男 他. わが国の慢性透析療法の現況(2021年12月31日現在) 透析会誌 2022;55:665-723
*3 わが国の慢性維持透析人口将来推計の試み 透析会誌 2012;45:599‒613


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