ドクターコラム

透析量について

大分大学医学部附属病院 血液浄化センター 診療准教授 友 雅司 先生

透析量について

掲載日:2017/11/29

血液透析は多くの腎不全患者さんに選ばれている腎代替療法ですが(*1)、このコラムでは、その治療効果に関わる「透析量」について詳しく説明したいと思います。

血液透析をはじめとする腎代替療法の基本は、尿毒症性溶質※1の除去、電解質・酸塩基平衡※2の是正、適正な水分状態の維持でありますが、この中でも尿毒症性溶質除去は最も重要と考えられます。なぜならば、水分除去、電解質・酸塩基平衡の是正に関しては、薬剤等による治療(尿を出すための利尿剤、カリウムを下げるイオン交換樹脂剤、リンを下げるリン吸着剤、酸塩基平衡を保つ重曹等)が可能だからです。
しかし、尿毒症性溶質の除去に対する薬剤は極めて少なく、その効果も限定的です。
※1 尿毒症性溶質:尿毒症を引き起こす体内から発生する老廃物のこと。
※2電解質・酸塩基平衡:体内のナトリウム、クロール、カリウム、カルシウム、リンなどのイオン(電解質)のバランスや、体液の酸性・アルカリ性のバランスのこと。


「透析量」とは、腎代替療法においての尿毒症性溶質除去を反映する指標と考えられます。尿毒症性溶質の除去が比較的十分になされているかを推定する値が「透析量」といえます。

透析量

「『透析量』は、尿毒症性溶質の除去を推定する指標」と述べさせていただきましたが、血液中の尿毒症性溶質そのものを測定しているのではありません。多くは腎不全状態において血液中に増加する物質を代替の指標として用いています。
腎不全状態において血液中に増加する物質で「透析量」の算定に用いられているものとしては、尿素窒素(Urea nitrogen)、クレアチニン(Creatinine)があります。また、本邦においてはβ2マイクログロブリン(β2MG)の除去率も「透析量」の指標として用いられております。

透析量の指標

「透析量」を増やすことのメリットは

1.症状の改善
腎不全状態では多くの全身症状がありますが、それらの改善が期待できます。

<改善する症状>
・食欲不振
・かゆみ
・頭痛
・倦怠感
・関節痛
 等

透析量増加で改善する症状

2.検査値の改善
貧血の改善(ヘモグロビン値・赤血球数の改善、または造血ホルモン剤等のESAの減量可能)
・血清リン値の改善
・血清β2MG値の改善
※ ESA(Erythropoiesis Stimulating Agent):腎不全に伴う貧血を改善するために用いる薬剤の一種。

3.栄養状態の改善
1で述べさせていただきました食欲の改善等により、栄養状態の改善も期待されます。

4.生命予後の改善
透析量をある程度のレベルに確保しないと、生命予後が悪化することも確認されています(*2)

「透析量」を増やす方法は

「透析量」を増やす方法としては、以下のようなものがあります。

1)血液透析において、治療時間、治療回数を固定した場合は、
・血流量※1を多くする
ダイアライザーの面積を大きくする※2
・透析液流量※3が少ない場合は、多くする
※1 血流量:1分間あたりのダイアライザーに送り込まれる血液の量。
※2 ダイアライザーの中には透析膜の束が詰まっており、透析膜の面積によっても除去できる尿毒症性溶質の量が変わります。
※3 透析液流量:1分間あたりのダイアライザーに送り込まれる透析液の量。尿毒症性溶質は透析膜を介して血液から透析液に移動するため、透析液流量によっても除去できる尿毒症性溶質の量が変わります。

透析量を増やす方法

低分子量蛋白(中分子量溶質)の「透析量」を増加させる場合には、タンパク透過性の高い透析膜(High flux膜ダイアライザー、High performance membraneダイアライザー)の使用やオンラインHDF等も有用かもしれません。
※低分子量蛋白(中分子量溶質):β2マイクログロブリンなどがあり、尿素やクレアチニンなどの小分子量溶質よりも分子量が大きいため、透析によって比較的除去されにくい。

2)治療時間、治療回数を変更可能な場合は、治療時間を延長する、治療回数を増やす、といったことも有効な方策です。

「透析量」を増やすことのデメリットは

「透析量」を増やすことのデメリットとしては、以下のようなものが挙げられます。

1.QOL(生活の質)の低下
透析時間の延長は、人によっては負担に感じるでしょうし、QOL(生活の質)を低下させるかもしれません。

2.保険上の制約
在宅血液透析においては、保険上、特に治療回数の制約はないため、連日血液透析を行うこともできますが、多くの方が受けられている施設血液透析では、保険上、1ヶ月の治療回数は14回までとなっております(*3)

3.患者さんの状態への影響
中に入っている透析膜の面積が大きいダイアライザーを使用する場合は、ダイアライザーに充填される血液量が若干増加し、その分、体を循環する血液量が減少します。血流量を増加させる場合も、体の循環血液量が減少する可能性があります。そのため、十分な血液を体に送り出そうとする心臓等に負荷となる場合もあります。循環動態不安定の患者さんにおいて、ダイアライザーの膜面積を大きくする際、血流量をあげる際には注意が必要です。
※ 循環動態:血管や心臓を血液が流れる状態のこと。

どのようなときに「透析量」を増やすことが勧められるか

では、どのようなときに「透析量」を増やすことが勧められるのでしょうか。

1.残腎機能の消失のとき
透析治療を開始したのちもしばらく、半年から数年の間は、尿量が1日で500㏄程度維持されている患者さんもおられると思います。尿量がある程度出ておられる場合は、腎臓による尿毒症性溶質の除去と透析療法による尿毒症性溶質除去が合わさって有効に作用しているのですが、腎機能が廃絶しますと腎臓による尿毒症性溶質の除去量が減りますので、透析療法による尿毒症性溶質除去すなわち「透析量」を増やす必要があるでしょう。

腎機能廃絶

当然、患者さんによっては尿量が出なくなっても、症状、検査結果等が悪化することのない患者さんもおられます。その際には「透析量」を増やすことは必須ではありません。

2.検査結果の悪化、症状の悪化がみられたとき
患者さんが食欲不振、かゆみ、全身倦怠感、血液の検査で 貧血の悪化、血清リンの上昇等がみられて持続する場合等も、透析量を増加することを考慮してもよいのかもしれません。

*1 日本透析医学会 統計調査委員会「図説 わが国の慢性透析療法の現況(2015年12月31日現在)」:2
*2 鈴木一之, 井関邦敏, 他 血液透析条件・透析量と生命予後 : 日本透析医学会の統計調査結果から 日本透析医学会雑誌 2010;43:551-559
*3 医科診療報酬点数表(厚生労働省 平成28年3月4日改定)(http://www.mhlw.go.jp/file.jsp?id=335765&name=file/06-Seisakujouhou-12400000-Hokenkyoku/0000114821.pdf)


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