ドクターインタビュー

奈良県立医科大学附属病院 透析部 教授

吉田 克法 先生
奈良県立医科大学附属病院 透析部 教授

吉田 克法 先生
吉田 克法 <font size="4">先生</font>

目次

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Chapter2: 最近の日本の透析医療について

-----日本の透析医療の現状について、患者数や治療の現状について教えてください。

現在、日本では年間約3万8千人が透析導入となっており、維持透析をしている人は32万人となっています(*1)(2021年時点では、年間導入患者数が約4万人、維持透析患者数が約35万人(*2))。なぜそのように多くの人が維持透析をされているかというと、透析導入となっても長生きできるからです。ですから、透析導入となったら先は長くないという話ははるか昔の時代の話なのです。今では街を歩いていても、どの人が透析患者さんか分かる人はいないと思います。昔の透析患者さんは顔色が悪かったり、ちょっと痩せていたり、一目瞭然で透析患者さんだということが分かりました。現在の透析患者さんにはそのような人があまりいらっしゃらないことからみても、透析医療はかなり進歩していることが分かると思います。
透析医療の進歩に関して1つ例をあげると、腎臓は血液(赤血球)をつくるホルモン(エリスロポエチン)を産生しています。腎臓が悪くなるとエリスロポエチンが産生されなくなるため、昔は腎臓が悪い人は慢性的な貧血に悩まされていました。1990年にエリスロポエチン製剤が発売され、現在は、ほとんどの患者さんがエリスロポエチン製剤の投与によって貧血を改善できています。エリスロポエチン製剤が無かったころは、貧血改善のために輸血をしていました。輸血によって感染症にかかり、それが原因で亡くなる人も多かったのです。このような事例1つをとっても、この10~20年で透析療法は飛躍的に進歩し、透析導入後の予後も良くなっていることが分かると思います。

-----日本の透析医療のレベルは海外と比較してどうなのでしょうか。

日本の透析医療のレベルは、他の医療でもそうですが、医療技術、患者さんの管理、患者さんの平均余命どれをとっても世界一だと言っても過言ではありません。それくらい日本の透析医療というのは非常に進んでいます。

-----血液透析と腹膜透析をされている方の割合は現在どのくらいなのでしょうか。また、血液透析、腹膜透析それぞれのメリット、デメリットを教えてください。

血液透析、腹膜透析の割合に関しては、2014年のデータによると、透析患者さん全体の約97%が血液透析(昼間・夜間・在宅含む)、残りの約3%が腹膜透析となっています(*1)(2021年時点も同率(*2))。
当院では、先ほどもお話ししましたように、透析導入される患者さんで腹膜透析が可能な人には、まずは腹膜透析をお勧めしています。なぜかというと、腹膜透析の場合、自己管理がよければある程度尿が出続けるからです。血液透析の場合は自己管理がいい人は別ですが、導入後は尿の出る量が少しずつ減少していきます。したがって、飲んだもの、食べたものの水分が、そのまま体に残ってしまいます。
自己管理がよくできている腹膜透析患者さんの場合、導入後5年、長い人では10年近くまで尿が出る人もいます。尿を出せるということは、腎臓が持つ能力、先ほどお話ししたエリスロポエチンを産生する力や、血圧を調整する力なども残るということです。それが腹膜透析の最大のメリットです。デメリットはやはり自分で腹膜の中に透析液を入れて治療をしなければならないということです。また、被嚢性腹膜硬化症という、長期の腹膜透析治療や腹膜炎が引き金となって、腹膜が厚くなり、腸の動きが悪くなってしまう合併症もあります。そのような合併症を起こさないためにも、定期的な腹膜機能の検査を受けて確認したり、生体適合性の良い透析液を使用したり、腹膜炎を起こさないように日ごろの管理を徹底したりすることが必要です。
血液透析のメリットは医療施設で治療してもらいますので、医療スタッフに十分な管理をしてもらえることです。基本的には週3回病院に行きますので、前回の来院時との差や、その日の体調も如実に分かります。少しでも調子が悪ければすぐに医療スタッフによる治療を受けられます。デメリットはやはり、基本的には週3回、1回4~6時間透析を受けなければなりませんので、拘束される時間がとても長いということだと思います。

-----日本では腹膜透析を受ける人が約3%と少ないのはなぜなのでしょうか。

吉田先生1

やはり自己管理が難しく、腹膜に寿命があることですね。腹膜透析治療が開発され、腹膜透析をされる患者さんが増えた時代が一時ありましたが、それから15年くらいしてから、先ほどお話ししました、被嚢性腹膜硬化症という合併症が出てきたこともあると思います。しかし、現在では、新しい腹膜透析液もいろいろと開発され、被嚢性腹膜硬化症で死亡するような事例もほとんど見当たらなくなりました。医療スタッフの面でも、腹膜透析専門の資格を持った看護師さんもいらっしゃいます。腹膜透析を専門で行っている病院では24時間体制で対応している施設もあります。

-----最近、透析導入となる患者さんに何か傾向はありますか。

糖尿病を原疾患とする導入患者さんが多いということがあります。導入患者さんの原疾患の中で糖尿病が1位になったのは1998年のことです。透析導入にならないようにするためにも糖尿病管理は非常に重要です。
また、日本の全人口の高齢化も進んでいますが、透析患者さんの高齢化も進んでいます。30年くらい前は、透析患者さんの平均年齢は50歳くらいだったのですが、現在は60代後半になっています。透析医療が今のように進歩していなかったころは、高齢で腎不全になってしまうと、合併症で命を落とす人が多かったのですが、現在は透析の手法や透析機器などの進歩もあり、高齢者でも安全に確実に透析導入できる時代になり、導入後の平均余命も伸びています。

-----透析医療は20~30年前と比較して飛躍的に進歩したということですね。

「雲泥の差」という言葉は、まさにこのためにあるような言葉です。現在のダイアライザーは、長さが30~35cmくらいで直径3~4cmくらいの大きさだと思いますが、私が学生のころは、キール型というダイアライザーで、畳一枚くらいの大きさの透析機械にセロファンのようなものを何枚も張って自分で組み立てていました。今考えたら、消毒はできているのか、セロファンはどういう素材なのか、手で張っているときに少しでも穴があいたらどうするのかなど、いろいろと懸念点があがってきます。当時私も一度だけセロファンを張らせてもらったことがありますが、うまく張るのは難しく、いつも張っている看護師さんでも大体3回はやり直していましたね。ダイアライザーもそのようなレベルでしたし、透析機器の台数も限られていましたので、当時の適応は急性腎不全だけで、慢性腎不全の患者さんはやむなく週1~2回の透析にしてもらっていました。現在は透析液の管理も非常に厳しいですが、その当時は水の管理もできていなかったと思います。そのようなことを考えても、現在の透析患者さんの平均余命が伸びたのは当たり前のことなのです。

-----最近の透析治療では、透析時間はより長い方が体にはいいと言われていますが、なぜなのでしょうか。

健常人では尿の生成は24時間常に行われており、1日で1~2Lくらいの尿を出します。
一方、血液透析では1~2日おきに、それまでに溜った余分な水分と老廃物を4時間で一気に除去するわけです。それが体にとって負担が無いわけがありません。そのため、透析時間はその人の体調に合わせてなるべく長くした方がいいのです。現在では8時間透析、オーバーナイト透析というものも行われています。オーバーナイト透析は、夜22~23時ごろから次の日の朝まで、大体8~9時間透析を行います。
透析時間を長くして、ポンプをゆっくり回すのが、より本来の腎臓の機能に近い形になりますが、患者さんの日常生活もありますので、ずっとベッドの上で透析をしているわけにもいきません。現時点では透析時間はどんなに長くても8時間くらいが限界だと思います。

-----最近話題に出るHDF(血液ろ過透析)や家庭透析とはどのような治療法なのでしょうか。

HDFとは、血液透析にろ過を加えた治療法で、血液をろ過する量を増やすために補液をして血液透析よりもろ過を大量に行います。通常の透析では取りきれない毒素や老廃物が除去できたり、血圧が安定したり、貧血が改善したりと利点が多く、現時点の透析では究極の治療法です。現在、実施可能な施設は急増しています。
家庭透析は全国で現在500人程度が行っています。奈良県でも非常に山奥に住んでいるために透析施設までの通院が難しい患者さんが始められています。自分で透析機器のセッティングをしなければなりませんので、開始前には約1カ月間、同居されている方と一緒に教育入院をしてもらい、操作などを覚えていただいています。教育入院を経て実施が可能と判断された方は、ご自宅に戻り、ご自分たちで透析を行います。やはりメリットは好きな時に透析ができることです。ご自宅で行うので、通院透析ではなかなか難しい長時間の透析を出来る方が多く、そのために非常に体調がいいようです。

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<出典>
*1 日本透析医学会 統計調査委員会 図説 わが国の慢性透析療法の現況(2014年12月31日現在)
*2 花房規男 他. わが国の慢性透析療法の現況(2021年12月31日現在) 透析会誌 2022;55:665-723


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