松尾裕子さん
松尾裕子さん
2018.10.11 3療法経験者インタビュー
透析患者インタビュー
☞ 「病院を探そう!」増子記念病院のご紹介ページ
Chapter 2:長時間透析(オーバーナイト透析)を始めたきっかけ
-----増子記念病院で透析を受けるようになったのは何年前ですか。
長屋さん:
6年前に仕事の関係で名古屋市内に転居したときから、増子記念病院で透析を受けています。転院当初は、岐阜県にいたときと同じように、週3回の夜間透析でした。18時までに透析を開始して23時頃まで、1回約5時間の透析を受けていました。
-----どのようなきっかけで深夜の長時間透析(オーバーナイト透析)を始めることになったのですか。
長屋さん:
岐阜県に住んでいた頃、県の透析患者会の活動の中で、長時間透析が合併症の減少などさまざまな点で良いという話はよく耳にしていました(*1)。また、通院していた透析施設でも長時間透析が推奨されており、患者さん対象の勉強会などを通じてメリットを知っていたので、できれば長時間透析を受けたいと思っていました。また、名古屋市内に転居してからも愛知県の患者会の青年部で活動していましたので、オーバーナイト透析という長時間透析の方法があることは聞いていました。そのため、こちらの病院に転院して2年ほど経った頃に、先生から「オーバーナイト透析を始めるので、興味がある人はいますか?」と聞かれ、すかさず手を挙げました。
西田主任:
当時、当院では1日あたりの透析時間は5時間が最長でしたが、1日6時間以上の長時間透析は患者さんの生命予後にも良いと言われていたので(*2)、2013年に、就労している患者さんを対象にオーバーナイト透析を開始しました。立ち上げ当初は長屋さんを含め数人の患者さんのみでしたが、現在では35名の患者さんがオーバーナイト透析を受けています。
-----長時間透析を受けるようになって、体調に変化はありましたか。
長屋さん:
透析終了後の疲労感が以前より少なくなったと思います。また、リンやカリウムの検査値が改善して、高めだった血圧も下がりました。今ではリン吸着薬も飲んでいませんし、降圧薬の服用量も減り、以前は毎日5、6種類服用していた薬が2種類だけになりました。
長時間透析は、心不全などの合併症が起こりにくいと言われていますので(*1)、その点にも期待しています。
平松技士長:
長時間透析を受けると、一般的にはより多くの老廃物を取り除けるようになり、血圧のコントロールも良くなるので、多くの場合で服用する薬を減らすことができ、また、食事制限の緩和や味覚の改善も期待できます。そのため、暴飲暴食をしないように気を付けないと、食が進んであっという間に体重が増えてしまいます。患者さんの中には、長時間透析を始めてから短期間で体重が20kgも増えてしまった方もいます。長屋さんは体重がほとんど変わっていないので優秀です。
西田主任:
長屋さんは、長時間透析を始める前から、たまに体重が増えるくらいだったので、もともと優秀でしたが(笑)。
-----体調が良くなってから挑戦したことはありますか。
長屋さん:
一昨年、富士山に登りました。もともと体を動かすのは好きな方でしたし、私は体力が落ちると透析を受けたときに疲れやすくなるので、体力維持のためにも、もっと運動したいと思っています。
-----病院に宿泊する形で透析を受けながら睡眠をとることにはすぐに慣れましたか。
長屋さん:
オーバーナイト透析を始めて1週間くらいは、自宅とは環境が違うのでなかなか眠れませんでしたが、1カ月くらいするとよく眠れるようになりました。現在は、毎週月、水、金の23時までに病院に入り、睡眠時間に透析を受け、翌朝7時までに透析を終えています。
-----睡眠時間を透析に充てられるので、時間の使い方も大きく変わったのではないですか。
長屋さん:
それまで透析に充てていた時間を他のことに使えるようになりましたし、仕事の仕方も変わりました。私の職場は岐阜県にあるのですが、名古屋のこちらの病院には23時までに着けばいいので、18時頃まで仕事をしていても十分間に合います。自分で使える時間が増えたことは、仕事面を含めて私にとって非常にメリットが大きかったです。
-----平松技士長は、オーバーナイト透析にどのようなメリットを感じていらっしゃいますか。
平松技士長:
オーバーナイト透析には2つのメリットがあると思います。
1つ目は、1回8時間程度の十分な長時間透析を行うことができる点です。最近は透析患者さんでも、できるだけ食事をしっかり取ることによって、栄養状態を改善することが重視されるようになってきています。そのためにも食事制限を緩和できる長時間透析は大変有用です。
今後、長時間透析の治療成績は、一般的な透析よりも生命予後が良いとされている腎移植の成績(*3)に近づいていくのではないかと思っています。
☞ 参考:教えて!ドクター「腎移植と透析、それぞれの治療成績(生存率)を教えてください。」
2つ目のメリットは、患者さんの活動時間を増やせる点です。夜間に透析を受けている患者さんはお仕事をされている方が多いです。現在、日本で夜間に透析を受けている患者さんは全透析患者さんの約1/10ですが(2021年末では約8.8%)(*4,5)、当院における夜間透析患者さんの割合は約1/4ですので、働いている患者さんが比較的多くなっています。そのような患者さんにとって、オーバーナイト透析は、透析と仕事を両立させ、時間をより有効に使うための1つの選択肢になっています。
☞ 「病院を探そう!」増子記念病院のご紹介ページ
*1 日本透析医学会 維持血液透析ガイドライン 血液透析処方 透析会誌46:587-632,2013
*2 前田利朗 6時間透析における生存率-20年の経験から- 日本透析医会雑誌25;95-100,2010
*3 Wolfe RA, et al. Comparison of mortality in all patients on dialysis, patients on dialysis awaiting transplantation, and recipients of a first cadaveric transplant. N Engl J Med 1999;341:1725-1730
*4 日本透析医学会 統計調査委員会 図説 わが国の慢性透析療法の現況 2016年12月31日現在
*5 花房規男 他. わが国の慢性透析療法の現況(2021年12月31日現在) 透析会誌 2022;55:665-723
☞ 【参考】
腎移植者インタビュー
生体腎ドナーインタビュー
2018.10.11 3療法経験者インタビュー
2016.08.25 透析のドクターコラム
2016.06.30 透析の基本情報
2016.11.24 透析のドクターコラム