2016.02.12 腎代替療法の基本情報
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Chapter 3:腎代替療法選択の実際
-----静岡県立総合病院では、毎年おおよそ何名くらいの方が透析や腎移植を選択されていますか。
森先生:
透析導入患者数は年間100~130人、そのうち腹膜透析は10%弱です。 生体腎移植は、透析からの移行も含めて年間10人程度です。
-----2016年の全国の透析導入患者数は39,344人で、そのうち腹膜透析は約5%(1,946人)(*1)、生体腎移植を受けた方は透析導入患者数の約4%にあたる1,471人です(*2)。全国に比べると腹膜透析や生体腎移植の割合が少し高いようですね。
※2021年末の透析導入患者数は40,511人で、うち腹膜透析は約6%(2,370人)(*3)、生体腎移植を受けた方は透析導入患者数の約4%にあたる1,648人(*4)
森先生:
やはり、そらまめ応援外来ですべての治療法について一通り説明しているからだと思います。腹膜透析は、もう少し多くの方に選択されてもいいと思っています。透析療法を腹膜透析から始めるのも良いですが※、高齢になって通院が難しくなったときに、血液透析から腹膜透析に移行する患者さんも、もう少し増えていいと思います。自宅で行える治療法ですし、医療機器の進歩のおかげで透析液の交換も比較的楽になったので、ご家族に協力していただければご高齢でも十分実施可能です。当院にも80代の腹膜透析患者さんが何名かいらっしゃいます。
※ 腹膜透析は、残された腎機能が保たれやすい透析方法であるため、透析療法は腹膜透析から始め、適切な時期に血液透析に移行する「PDファースト」という考え方もあります。
-----生体腎移植が比較的多いのも、そらまめ応援外来で説明を聞いたからでしょうか。
森先生:
そのような方もいらっしゃいますし、最初から腎移植を希望して受診される方もいらっしゃいます。当院で腎移植を受けた方のお話がきっかけで腎移植を知り、当院を受診したという方もいらっしゃるので、腎移植の情報に触れる機会が無いだけで、潜在的な移植希望者はもっと多いのではないかと思います。
-----末期腎不全の治療選択肢についての幅広い情報に触れることが大切ということですね。
森先生:
そうですね。一旦治療を始めると、他の治療選択肢の情報を得る機会は極端に少なくなります。ですから、そらまめ応援外来では、その患者さんが選択する可能性が低い治療法でも必ず説明するようにしています。最初は選択しなくても、選んだ治療を続けることが難しくなった場合などに、他の治療選択肢にも考えが及ぶことが重要です。
-----患者さんは、実際にはどのようにして腎代替療法を選んでいますか。
橋口看護師:
治療内容そのものよりも、治療に入ったあとに患者さんがどのような生活を送りたいかを重視して考えていただいています。
外来を始めるなり、「透析はやりません」とおっしゃる方もおられます。そのようなときは、まずは趣味や今大事にしていることについてお聞きするようにしています。すると、透析を受けたくない理由が見えてきます。例えば、お孫さんの面倒を見ているから透析施設への通院はできないとか。そうなれば、私たちも自宅でできる腹膜透析や在宅血液透析を提案できるようになります。
また、透析を受けないとどうなるかをお伝えし、透析を受けることで具体的にどのような症状が改善されるかをお話しします。そして、そのような症状が改善されたら何をしたいかをお聞きすると、少しずつ希望する生活について話していただけるようになります。今はできていないけど、本当はこういうことをやってみたいとか、こんなものが食べたいとか。そこから治療の選択肢が浮かび上がってきます。
治療して家に引きこもる前提ではなく、元気になったときに何をしたいかを考えることが治療選択の鍵だと思います。
森先生:
腎不全患者さんを診ていると、自分の将来についてしっかりと考えている方はあまり多くないように思いますが、そらまめ応援外来を機に将来について少しでも考えるようになると、生きることに前向きになってくれます。腎臓内科での診察時には、「自分はもうこれ以上の治療は受けない」とおっしゃる患者さんもたくさんいらっしゃいますが、そらまめ応援外来を受診すると、ほとんどの方は治療を受け入れるようになります。自分がこれからしたいことに改めて気づき、治療はそのためのものと考えるようになるからでしょう。
-----高齢の方の場合、腎代替療法を受けないことを選ぶ方もいらっしゃいますか。
高津看護師:
少ないですが、介護施設に入所している高齢の認知症患者さんのご家族から相談を受けることはあります。できる治療はあるけど、高齢であることと重度の認知症のために治療を受けることが難しいということで、治療しない選択肢もあることを確認するために、そらまめ応援外来にいらっしゃるようです。
橋口看護師:
ただ、治療しない場合に現れる症状についてはしっかりと説明して、その上で考えていただくようにしています。
森先生:
もちろん、患者さん本人の意思が最優先ですが、ご家族としてどのようなサポートをしていったら良いかを一緒に考えるようにしています。例えば、家庭で介護することが現実的に難しい場合は、訪問看護を提案したりします。そのような知識をご家族に与えてあげることも、そらまめ応援外来の役割の1つです。
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<出典>
*1 日本透析医学会 統計調査委員会. 図説 わが国の慢性透析療法の現況(2016年12月31日時点):2
*2 日本移植学会・日本臨床腎移植学会. 腎移植臨床登録集計報告(2017) 移植 2017:52:113-133
*3 花房規男 他. わが国の慢性透析療法の現況(2021年12月31日現在) 透析会誌 2022;55:665-723
*4 日本移植学会・日本臨床腎移植学会. 腎移植臨床登録集計報告(2022) 移植 2022:57:199-219