~腎移植後の生活で知っておきたいこと⑤~
腎移植後の生活で知っておきたいこと⑤
病院教授 吉田 克法 先生
2017.07.27 腎移植ライフ
腎移植者インタビュー
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Chapter 3: 手術を終えて
-----手術が終わって麻酔から覚めた時は、どのような心境でしたか。
田中さん:
無事終わったと安心した一方で、父のことが心配でした。先生や看護師さんから、父も無事だとは聞いていましたが、顔を見ないうちは安心できませんでした。
手術の翌日、お互いにベッドに寝たままでの状態で再会し、「大丈夫?」と聞いたら、「大丈夫」と答えてくれて、ようやく安心できました。
-----手術後、痛みはありましたか。
田中さん:
痛みもあったかもしれませんが、それよりもお腹が張っているような違和感がしばらくあったことを覚えています。
南木先生:
お父様が大柄な方でしたので、提供された腎臓も平均よりも大きめでした。一方で田中さんは小柄。小柄な体型にしては物理的に大きいサイズの腎臓を移植したことになるので、下腹部には一定の圧迫感はあったと思います。また、術後にお腹の中で多少の出血もありました。田中さんのように、ドナーとレシピエントの血液型が輸血できない組み合わせで腎移植を行う場合(ABO血液型不適合移植)、術前にレシピエントの血液中の抗体を除去するのですが※1、その際、凝固因子※2も一緒に除去されて出血しやすくなることがあります。そのため、手術部位に滲むような出血が起こったと考えられますが、凝固因子の補充だけで出血を抑えることができました。
※1 ドナーとレシピエントの血液型が不適合の場合、移植後、レシピエントの抗体が移植されたドナーの腎臓を攻撃する強い拒絶反応が起こるため、手術前にレシピエントの血液中から抗体を取り除きます。
※2凝固因子:止血の際、血液が固まるために必要な物質。
-----腎移植を受けたことを実感した出来事はありましたか。
田中さん:
腎臓の状態が徐々に悪くなってきて、そろそろ透析を始めようかという頃から肌がだんだん黒くなっていきました。腎移植の前はかなり黒ずんでいた状態だったのですが、手術の翌日、自分の手を見て肌がとてもきれいになっていることにびっくりしました。あの時の驚きと喜びは忘れられません。
また、手術後に動けるようになって体を起こした時に、本当に自分の体なのかと思うくらい軽く感じられました。
南木先生:
腎不全に伴う皮膚のかゆみなどの合併症については、まだその原因など分かっていないことも多いのですが、移植後に肌の色が白くなった、しっとりと汗をかくようになった、かゆみがなくなったとおっしゃる方は多いです。
-----手術後、どのくらいで退院しましたか。
南木先生:
田中さんは、先ほどお話しした出血以外は順調で、術後8日目に退院されました。当院は通常、順調であれば8~10日目に退院されます。田中さんは若いこともあって回復力があり、透析期間も短かったので、早めに退院することができました。お父様からいただいた腎臓がとても良く機能し、血清クレアチニン値は0.61まで下がり、ABO血液型不適合移植ではありましたが、拒絶反応は見られませんでした。
ドナーであるお父様も経過は良好でしたので、術後5日目には退院されました。
-----移植後の生活で、一番嬉しかったことは何ですか。
田中さん:
体調が良くなり体が軽くなったおかげで、子どもとたくさん遊べるようになったことが何よりの喜びです。腎移植を受ける前は、子どもと公園に行っても、走ったりすることはできなかったのですが、今は一緒におもいっきり体を動かして遊べるようになりました。
また、以前は家族3人で食事をするときも、実家に帰って両親と一緒に食事をするときも、自分だけ違うものを食べていたのですが、移植後は家族と同じものを食べられるようになったことがとても嬉しいです。両親と旅行に行った時でも旅先でおいしいものを一緒に食べられますし。両親は、家族みんなで同じ食事ができるようになったことを一番喜んでいました。
左:家族でディズニーランドへ(移植3カ月後)
中:公園でお子さんと一緒に遊ぶ田中さん(移植4カ月後)
右:旅先でも家族と同じ食事を楽しんでいます(移植1年後)
-----お父様の退院後の様子はいかがですか。
田中さん:
年に2回くらい自治医大病院の外来で腎機能などをチェックしてもらっていますが、特に問題もなく、移植前は我慢してくれていた大好きなお酒を飲んで(笑)元気にしています。父がドナーになるにあたって、腎臓を提供した後の父の体のことが一番心配だったので、今はとてもほっとしています。
移植後にご両親と旅行へ
-----日常生活では、どのようなことに気をつけていますか。
田中さん:
移植前から長く減塩していたので慣れてしまっているのもありますが、減塩は続けています。体重も急激に増えたりしないように気を付けています。子どもと遊ぶことでかなり運動もしていると思いますし。体調を崩さないように注意していますが、実際は、どうしても子どもの風邪をもらってしまうこともあります。
南木先生:
私としては、腎移植を受けた方には、制限が多かったそれまでの生活から切り替えて、できるだけ人生を楽しんでもらいたいと思っています。田中さんは本当によくお子さんから風邪をもらってくるのですが(笑)、子育てが今の大きな仕事であり、喜びだと思うので、お子さんと密に接していればそれも仕方のないことだと思います。もちろん、移植した腎臓への影響も考えなければいけませんが、「絶対に風邪をひくな」とは言えません。
移植者には、こちらから注意を促さねばならないほどに自由奔放な生活をしてしまう方もいますが、一方で、守りの姿勢が強すぎるあまり、透析患者さんと同じかそれ以上の生活の制限をご自身で設けてしまう方もいます。ですから、どちらにも行き過ぎのないように、患者さんに応じた指導をするようにしています。
また、患者さんの体もそれぞれ違うので、人によっては制限すべき程度が異なる場合もあります。腎移植を受けた方には、日々を楽しむためにも、ご自身の生活や今後の人生の希望を主治医にしっかりと伝え、よく相談していただきたいと思います。
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☞ 【参考】
腎移植者インタビュー
生体腎ドナーインタビュー
透析患者インタビュー
2017.07.27 腎移植ライフ
2017.03.30 腎移植のアニメ
2018.12.27 教えて!ドクター
2019.11.08 レシピエントインタビュー