~腎移植後の生活で知っておきたいこと⑤~
腎移植後の生活で知っておきたいこと⑤
病院教授 吉田 克法 先生
2017.07.27 腎移植ライフ
腎移植者インタビュー
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Chapter 2: 家族皆で臨んだ腎移植
-----腎移植を考えることになったきっかけについて教えてください。
田中さん:
主治医から「お子さんが小さいので、透析治療と並行して腎移植も検討してみてはどうですか?」と言っていただいたのがきっかけです。
-----当時、腎移植についてはどのような印象をおもちでしたか。
田中さん:
腎移植を受けるには、亡くなられた方から腎臓を提供してもらうための登録をして、提供いただけるまで長く順番を待つしかないと思っていました。
しかし、先生のお話で、親族※1から2つの腎臓のうちの1つを提供してもらう方法(生体腎移植)もあることを初めて知り、とても驚きました。また、ドナー(腎臓を提供する人)とレシピエント(腎移植を受ける人)の血液型が違っていても腎移植ができることや、医療費の助成を受けられることにも驚きました※2。
※1 レシピエント(腎移植を受ける人)の6親等以内の血族、配偶者、および3親等以内の姻族。
※2 移植した月の自己負担額は、多くの場合0~数万円程度(2018年5月現在)。
-----先生、患者さんやご家族の方に腎移植の話をされると、どのようなことに驚かれますか。
南木先生:
患者さんの親族がドナーになれることを知っている方は割といらっしゃいますが、透析治療と同じく、医療費の助成が受けられることは知らない方が多いです。
ドナーとレシピエントの血液型がどのような組み合わせでも現在は移植ができることや、血のつながりのない配偶者からも腎臓の提供が可能であることも、一般的にはあまり知られていません。
また、腎移植は若い患者さんに限られた医療と思われている方も多いですが、近年では、ドナーもレシピエントも幅広い年齢層で移植が実現できています。
-----これらのことを知って、腎移植を現実的に考えるようになったのですね。
田中さん:
はい。可能であれば腎移植を受けたいと思いました。当時は、子どもと少し遊んだだけですぐに疲れてしまうような状態でしたし、透析を受けた場合、病院に通うだけで子育てにも余裕がなくなってしまうのではないか、という不安も大きかったです。
-----腎移植を検討するにあたって、悩まれたことはありますか。
田中さん:
「誰から腎臓を提供してもらうか」ということが一番の悩みでした。
主人と一緒に先生から腎移植のお話を伺った後、家に帰って両親や兄弟も含めて家族全員で話し合いました。最初、兄が提供すると言ってくれましたが、ドナーの適応条件を満たしておらず、提供できるようになるまでには時間がかかりそうでした。主人も提供すると言ってくれましたが、そうなると手術の時に夫婦2人とも入院することになるので、当時まだ2歳だった子どものことを考えると迷うところがありました。最終的には、幼い孫のことを一番心配していた父が、「提供可能なら自分がドナーになる」と言ってくれたので、父から提供してもらう方向で検討することになりました。
ただ、父は当時70歳と高齢でしたし、完治はしていたものの、15年ほど前にがんを患っていましたので、「腎臓を提供しても父の体は本当に大丈夫なのだろうか」と不安で仕方がありませんでした。
-----しかしその後、お父様からの腎臓の提供が可能だということが確認できたのですね。
田中さん:
はい。当時の主治医から自治医科大学附属病院(以下、自治医大病院)を紹介していただき、父も私も移植前に必要な検査を受けました。結果、父はがんが完治していることがあらためて確認され、血圧が少し高めであるくらいで、腎臓を提供しても問題ないという結果がでました。また、私も移植可能と判断され、父をドナーとして腎移植を行う準備を進めていくことになりました。
-----先生、がんの既往がある方がドナーになるのは、よくあることなのでしょうか。
南木先生:
ドナー候補の方が高齢であると、そのような場合も多くあります。がんの既往がある場合は、がん専門の医師に診てもらい、腎臓を提供しても問題ないことを必ず確認するようにしています。
また、ドナーとしての適格性を確認する検査において、新たにがんが見つかることもあります。その場合、まずはがんの治療に専念していただくことになります。
-----南木先生に初めてお会いした時のことを覚えていらっしゃいますか。
田中さん:
手術に向けての準備で自治医大病院を外来受診した時、初めてお会いしました。手術は外来とは別の先生が担当されると聞いていたので、どのような先生が私の手術をしてくれるのか気になっていましたが、南木先生の方からわざわざ外来にご挨拶に来てくださいました。そのとき優しく接してくれたことで、とても安心したのを覚えています。
南木先生:
田中さんは見た目にも体調が悪いことはわかりました。腎移植を受ける患者さんとしては比較的若く、お子さんが小さいことも含めていろいろな不安を抱えていることが伝わってきましたので、できるだけ安心してもらうことを心がけていたと思います。
-----腎移植手術を受けるまでの間、体調はいかがでしたか。
田中さん:
手術を受けることが決まってから実際に手術を受けるまでは10カ月間くらいありました。最初の5カ月間で腎不全の症状が悪化してきてしまい、とても辛かったことを覚えています。その後、血液透析を受けることになり、透析に通い始めてからは症状が改善されてとても楽になりました。
-----ドナーであるお父様は、手術までの間、どのように過ごしていらっしゃいましたか。
田中さん:
父はお酒が大好きなのですが、少しでも良い状態の腎臓を娘に提供できるようにと、手術が決まってからずっと禁酒してくれていました。先生から「少しくらいなら飲んでもいいよ」と言われても、頑なにお酒は飲まなかったようです。
南木先生:
肥満の方であれば摂取カロリーを制限するためにお酒を控えてもらうこともありますが、ドナーとして適格と判断される方は基本的に健康な方なので、禁酒が必須というわけではありませんし、手術までの間も腎提供後も、それまでと変わりなく生活できることを前提に「提供可能」と判断しています。ただし、喫煙者には、必ず禁煙してもらいます。
-----お父様も、腎移植を成功させるために、できる限りのことをされていたのですね。
田中さん:
父だけではなく、家族皆が私の腎移植を支えてくれたと思います。兄や主人がドナーになることを申し出てくれたことは、本当にありがたかったですし、母は手術まで間、父の食事管理をしてくれました。母が不在のときは、実家の近くに住んでいる兄の奥さんが父の食事を作ってくれていました。
私は、入院中に会えなくなる子どものことが一番心配だったのですが、母が遠方から来て入院中の子どもの面倒を見てくれたので、とても安心できました。
家族皆で臨んで成し遂げた腎移植だと思っています。
☞ 「病院を探そう!」自治医科大学附属病院のご紹介ページ
☞ 【参考】
腎移植者インタビュー
生体腎ドナーインタビュー
透析患者インタビュー
2017.07.27 腎移植ライフ
2017.03.30 腎移植のアニメ
2018.12.27 教えて!ドクター
2019.11.08 レシピエントインタビュー