ドクターコラム

在宅血液透析のススメ
〜自由と自立、より良い透析と生活を求めて〜

在宅血液透析のススメ
~自由と自立、より良い透析と生活を求めて~

中島土谷クリニック 院長 森石 みさき 先生

中島土谷クリニック 院長 森石 みさき 先生

在宅血液透析のススメ 〜自由と自立、より良い透析と生活を求めて〜

掲載日:2017/10/12

腎代替療法には大きく分けて血液透析腹膜透析腎移植があります。その中で在宅血液透析(HHD)が最近注目されています。2016年末、日本の透析患者さんは32万9,609人、そのうちの約97%が施設血液透析を受けています。HHD患者さんは635人、約0.2%と極めて少ないですが(*1)、2010年以降は年間50~70人ずつ着実に増加しています(*2)
※ 2021年末の透析患者さんは34万9,700人で、施設血液透析を受けている患者さんは約97%。HHD患者さんは748人で、透析患者さん全体の約0.2%(*3)

HHD患者数の推移

在宅血液透析はその名のごとく患者さんの自宅で行う血液透析です。施設に通う血液透析では、透析日、透析回数、透析時間に制限があり、通院にも多くの時間を取られますが、HHDは、自宅でリラックスして透析を受けることができ、自分の生活に合わせた透析スケジュールを組むことができます。例えば、1日おきに行う(例:月・水・金・日・火・木・土...)、1週間に3〜6回行う、毎日行うことも可能ですし、透析時間も2〜8時間とあらゆるスケジュールに対応できます。
透析回数や透析時間を増やすと、体液過剰状態が緩和され、尿毒素の除去量が増えます(*4)。それによって高血圧の改善、貧血の改善、血清カリウムやリン値が低下し、薬が著しく減る可能性があります(*5,6)。もちろん、食事や飲水制限の大半が緩和されます。「HHDを始めて体調がよくなった」「頭がスッキリしてやる気が出てきた」と多くの患者さんの声を聞きます。また、週3回4時間の施設透析を行っている患者さんと比較して、HHDの患者さんでは生命予後が良好であったと報告されています(*7)。さらに社会復帰が容易になる、家族の繋がりが深まる、精神的な安定がえられるというメリットもあります。 当院でも、HHDを開始したことで、透析導入前の仕事を変わりなく継続できた、学校の授業や課外活動にも積極的に参加できるようになった、仕事と家庭生活が充実し、ゆとりが出てきたという方がおられました。

HHDの図

一方で注意すべき点があります。HHDでは、透析を主に患者さん自身が責任を持って行っていただきます。透析機器の組み立て、操作、シャント血管への自己穿刺、透析中のトラブル処理、透析液の管理などです。自宅に透析機器の設置場所や医療材料の保管場所を確保する必要もあります。透析機器は透析施設から貸与され、透析材料は医療保険医療費から支払いますが、水道費、電気費は自己負担金として1カ月に1.5〜2万円程度かかります(2017年9月現在)。また、安全に血液透析を行うために介助者の理解と協力が不可欠です。
※ 介助者は透析の見守りをします。また、患者さんがご自身で行うことが難しい操作(シャント血管への穿刺以外)の補助や、緊急時の処置、連絡をします。
自己穿刺と介助者

「HHDは自己穿刺が怖い」「透析機器の操作が心配だ」という声を聞きます。自己穿刺には勇気が必要ですし、透析のトラブルも発生します。しかし、適切なトレーニングを受けることで、ほとんどの患者さんは安全にHHDができるようになります。国外で発生した透析のトラブルは透析手順の非遵守だったと報告されています(*8)。無理な過除水、体調不良時の透析、透析手技の自己流化は禁物です。実際のHHDの導入は、HHDのトレーニング施設で自己穿刺、透析機器の組み立て・操作、透析中のトラブル対応の訓練を約2~3ヶ月間受け、確実に透析ができるようになったことを確認した後に自宅での透析が開始されます。HHD開始後は、透析施設には1ヶ月に1〜2回の通院となりますが、定期的な機器点検と透析手技の確認のために透析施設から患者さん宅への訪問も行われます。透析施設は透析中の緊急連絡に対応しており、些細なことも問い合わせが可能です。

医療スタッフの自宅訪問

HHDは、患者さんに自由と自立、より良い透析と生活を与えてくれる魅力的な治療方法です。このHHDを安全に継続するためには、無理な治療計画をしない、透析操作手順を守ることが肝心です。HHDに関心がある方、HHDを始めたいけれどHHDをしている施設がわからない方は、在宅血液透析研究会のサイトに入り、在宅血液透析実施施設の項をご覧ください。
この"在宅血液透析のススメ"のコラムが、みなさまの治療の選択肢を広げることにつながれば幸いです。

☞ 参考:透析ライフ「在宅血液透析の生活パターン

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<出典>
*1 日本透析医学会 統計調査委員会 わが国の慢性透析療法の現況(2016年12月31日現在)
*2 政金生人、中井滋、尾形聡、他 わが国の慢性透析療法の現況(2014年12月31日現在)透析会誌 2016;49:1-34
*3 花房規男 他. わが国の慢性透析療法の現況(2021年12月31日現在) 透析会誌 2022;55:665-723
*4 日本透析医学会 維持血液透析ガイドライン:血液透析処方 透析会誌46:587-632,2013
*5 FHN Trial Group, Chertow GM, Levin NW, et al. In-center hemodialysis six times per week versus three times per week. N Engl J Med 2010;363:2287-2300
*6 Woods JD, Port FK, Orzol S, et al. Clinical and biochemical correlates of starting "daily" hemodialysis. Kidney Int 1999;55:2467-2476
*7 Rocco MV, Daugirdas JT, Greene T, et al. Long-term Effects of Frequent Nocturnal Hemodialysis on Mortality: The Frequent HemodialysisNetwork (FHN) Nocturnal Trial. Am J Kidney Dis 2015;66:459-468
*8 Tennankore KK, d'Gama C, Faratro R, et al. Adverse technical events in home hemodialysis. Am J Kidney Dis 2015;65:116-121

図「在宅血液透析患者数の推移」に用いている統計調査結果は日本透析医学会より提供されたものです。これらの調査結果の利用および解釈は当社が独自に行っているものであり、日本透析医学会の考えを反映するものではありません。予めご了承ください。


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