薬剤師コラム

慢性腎臓病の薬物療法:降圧薬

慢性腎臓病の薬物療法:降圧薬

東京薬科大学 薬学部 医療実務薬学教室 准教授 竹内 裕紀 先生

東京薬科大学 薬学部 医療実務薬学教室 准教授
竹内 裕紀 先生

慢性腎臓病の薬物療法:降圧薬

掲載日:2016/06/30

慢性腎臓病(CKD)と高血圧の関係

高血圧は、慢性腎臓病(CKD)の原因となり、CKD患者さんではCKDを悪化させる要因となります。また、反対にCKDは、高血圧の原因ともなり、高血圧のある患者さんでは高血圧を悪化させます。このようにCKDと高血圧は悪循環の関係にあるため、高血圧を改善することで、CKDの悪化を抑制して、透析導入にならないようにしたり、透析導入時期を遅延させたりすることが可能です。
また、CKDおよび高血圧は、ともに動脈硬化などが原因となる心筋梗塞や脳梗塞などの心血管疾患の引き金になりますので、高血圧を改善することで、心血管疾患の発症や悪化を防止することができます。このため、生活習慣の改善や降圧薬による高血圧の治療はとても重要となります。

☞参考:心血管疾患のドクターコラム「虚血性心疾患」「大動脈弁狭窄症」「慢性うっ血性心不全

CKDとHTの悪循環

CKDによる高血圧の原因

では、なぜCKD患者さんの多くが高血圧になるのでしょうか?大きな原因として以下の3つがあります。

1)腎臓の機能が低下してくると、尿からの塩分(ナトリウム)と水分の排泄が低下し、体内にナトリウムと水分が過剰に溜まります。ナトリウムは血管内に水分を引き寄せる作用があり、結果的に血液量が増えて血圧が高くなってしまいます。塩分を控えること(減塩)により血圧を下げることが期待できるのは、このためです。

2)腎臓で作られる血圧を上げる作用のある物質(レニン)は、血圧を一定に保つ働きの一旦を担っていますが、腎臓の機能が低下してくると分泌が高まり、血圧を調節できなくなるため、血圧が高くなってしまいます。

3)上記のような原因で、腎臓の機能が低下して血圧が高くなると、長い間に腎臓の細い血管も硬くなってきて、血管の抵抗が大きくなり、さらに血圧が高くなってきてしまいます。

生活習慣を改善しましょう

高血圧により、CKDが悪くならないようにするためにも、命にかかわるような心血管疾患にならないためにも、適切な血圧にする必要があります。高血圧を誘引するものとして、食塩の摂取過多、喫煙、ストレス、運動不足、肥満、加齢、遺伝的素因などがあります。これらの中で、減塩、禁煙、ストレス回避、適度の運動、肥満解消など、生活習慣を改善することで実践できることは、医師と相談しながら行っていって下さい。

血圧測定と目標血圧

家庭で測る血圧を家庭血圧、病院の診察室で測る血圧を診察室血圧といいます。病院では、緊張でドキドキして血圧が普段より高くなることがよくあります。また、血圧の日内変動の大きい人はCKDが悪化しやすく、夜間に血圧の高い人は心血管疾患のリスクも増加します。これらのことから、普段の家庭血圧を測定することも重要とされています。血圧計を24時間つけて血圧の日内変動を検査する方法もあります。
目標とする血圧(診察室血圧)は、通常、CKD患者さんでは収縮期(最高)血圧130㎜Hg以下/拡張期(最低)血圧80㎜Hg以下です(*)。過度の降圧や急激な降圧は、腎血流量が低下して、反対に腎臓の機能を低下させてしまう場合がありますので、徐々に血圧を下げていきます。

CKD患者さんの血圧を下げる薬(降圧薬)

血圧を正常範囲まで下げるために使用される治療薬が降圧薬です。CKDで使用される主な降圧薬にはRAS阻害薬(ARB、ACE阻害薬)、Ca(カルシウム)拮抗薬、利尿薬(ループ利尿薬、サイアザイド系利尿薬)、β遮断薬、α遮断薬、中枢性交感神経遮断薬などの種類があります(下記の表をご参照ください)。
CKD患者さんでは降圧薬の選び方が決められており(*)、以下の2つに分けられます。

1)蛋白尿のあるCKD患者さんや糖尿病のあるCKD患者さんでは、RAS阻害薬を第一選択とします。第一選択で効果が不十分の場合は、Ca拮抗薬や利尿薬を追加併用します。

2)蛋白尿もなく、糖尿病もないCKD患者さんには、降圧薬の種類はどれでもよく、患者さんの病態に合わせた降圧薬を第一選択とします。第一選択で効果が不十分の場合は、種類が違う降圧薬を追加併用します。

蛋白尿のあるCKD患者さんと糖尿病のあるCKD患者さんに、RAS阻害薬が使用される理由は、RAS阻害薬は蛋白尿を減少させることが報告されているからです。
腎臓が悪くなると蛋白尿が出てきますが、この蛋白尿自体が腎臓に悪さをして、腎機能を低下させてしまう悪循環があります。よって、蛋白尿を抑えてこの悪循環を断ち切るためにRAS阻害薬を使用します。
また、RAS阻害薬は、腎臓(糸球体)の内圧を低下させ、長期的に腎臓の負担を軽減する作用があり、腎臓の保護作用のある薬剤として知られています。
糖尿病性腎症では、蛋白尿が出ていない時期、軽度の蛋白尿(微量アルブミン尿)の時期にRAS阻害薬を使用することで、糖尿病性腎症の進行を抑制することができます。
※糖尿病の3大合併症(腎症、網膜症、末梢神経障害)の一つで、透析導入の主要原因となっている病気。

降圧薬の服用にあたっての注意点

各薬剤の血圧を下げるしくみや、主な副作用を表に示しました。

降圧薬一覧
降圧薬すべてに共通する注意点として、過度に血圧が下がることにより、めまい、ふらつきがあらわれることがあります。特に投与初期には、自動車の運転などの危険を伴う機械の作業に注意して下さい。
また、Ca拮抗薬の中には、グレープフルーツやグレープフルーツジュースを摂取している患者さんが服用すると、薬剤の血中濃度が高くなり、降圧作用が過度になるものもあります。飲食物、特にグレープフルーツとの飲み合わせについては、医師、薬剤師に必ず確認するようにして下さい。

降圧薬作用機序
☞ 参考:竹内先生のコラム「利尿薬

バナー

<出典>
* 日本腎臓学会 CKD診療ガイド2012


この記事を見た人が読んでいるのは



関連記事


病院検索 閉じる
トップへ