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血尿は、尿中に基準値以上の赤血球(血が赤く見える理由となる酸素を運ぶ細胞)が混じっている状態です。尿に赤血球が混じっているかは、尿を遠心して、その沈殿物を顕微鏡で見る尿沈渣(ちんさ)と呼ばれる検査で判断します。
一方、健康診断などで行う検査では、血尿を尿沈渣でなく、試験紙での潜血(せんけつ)反応で判断しています。ただ、潜血反応は赤血球そのものでなく、鉄を検出する反応であり、尿潜血は血尿が無くても、鉄分を含むミオグロビン(筋肉の成分タンパク)やヘモグロビン(赤血球に含まれるタンパク)が尿に含まれると陽性となりますので、尿沈渣で本当の血尿かどうかの判断が必要です。
血尿にはさまざまな原因がありますが、大きく分けると、腎臓の糸球体から出血している場合と、それ以外(主に尿路)から出血している場合の2つに分けられます(下図)。
糸球体から出血する原因
血液が糸球体を通るとき、糸球体の壁から老廃物がろ過されますが、赤血球は通常ほとんどろ過されません。しかし、糸球体に障害が起こると、多くの赤血球が漏れ出し、尿に混じる場合があります。
原因となる主な病気には、以下のようなものがあります。
1)糸球体自体の病気
● 慢性糸球体腎炎(IgA腎症など)
● 急性糸球体腎炎(溶連菌感染後腎炎など) など
2)二次的に糸球体に障害を起こす病気
● ANCA関連血管炎
● 全身性エリテマトーデス(ループス腎炎)
● 紫斑病 など
これらの病気では、多くの場合、蛋白尿(たんぱくにょう)を伴います。
IgA腎症に代表される慢性糸球体腎炎や、ループス腎炎は、慢性腎臓病(CKD)の原因疾患の1つですし、溶連菌感染後腎炎などの急性糸球体腎炎やANCA関連血管炎は、完全には回復せず、CKDに移行する可能性があります。慢性腎臓病は、放置すると腎機能が回復しなくなり、進行すると腎代替療法(腎移植や透析)が必要になる場合もあります。
糸球体以外(主に尿路)から出血する原因
尿路(腎臓、尿管、膀胱、尿道)のどこかに病気があり、出血して尿に血液が混じる場合もあります。また、男性の場合は、膀胱と尿道に隣接している前立腺の病気も、尿に血液が混じる原因になります。
原因となる主な病気には、以下のようなものがあります。
1)炎症(感染症)
● 腎盂腎炎
● 膀胱炎
● 前立腺炎
● 腎結核 など
尿路や前立腺が細菌に感染するなどして炎症を起こすと、そこから出血して血尿が出る場合があります。
2)尿路結石
● 腎結石
● 尿管結石
● 膀胱結石 など
結石は、尿に含まれている成分が結晶化したものです。結石が尿路内の粘膜を傷つけて出血すると、血尿が出る場合があります。尿管結石では、下腹部や腰、わき腹に強い痛みがあらわれることがあり、膀胱結石では、排尿時に痛みがあらわれることがあります。
結石が1cm未満であれば自然に排出されることも少なくありませんが、大きくなると2cm以上になることもあり(*1)、手術などの治療が必要になる場合もあります。
3)悪性腫瘍(がん)
● 腎がん
● 尿管がん
● 膀胱がん
● 前立腺がん など
血尿から悪性腫瘍(がん)が見つかることも少なくありません。「見た目でわかるほどの血尿(肉眼的血尿)が一時的に出たが、ほかに特別な症状もない」というときでも、尿路の悪性腫瘍が原因の場合があります(*2)。
血尿が糸球体からの出血によるものか、尿路からの出血かどうかは、上記の尿沈渣を行って、主に尿中の赤血球の形態に変形があるかどうか(変形がある場合は糸球体からの出血)や、尿中に腎臓の障害で生じる尿蛋白や円柱と呼ばれる物質があるかどうか(あれば、糸球体からの出血)によって判定します。
尿沈渣で赤血球の変形を認めたり、円柱が見つかったりして、糸球体から出血している可能性が示唆される場合は、主に腎臓内科で原因を調べます。詳しく調べるために、腎炎の存在を示唆する血液マーカーの検査や、超音波による腎形態の確認の検査、さらには腎臓の組織を針で採取する検査(腎生検)が行われることもあります(*3)。
☞ 参考:教えて!ドクター「Q. 腎生検はどのような検査ですか?痛いですか?」
糸球体以外から出血している場合は、主に泌尿器科で原因を調べます。
さらに詳しく原因を調べるためには、専門医のもとで精密検査(癌を示唆する血液マーカー検査や尿中のがん細胞を調べる尿細胞診、超音波やCTによる腎・尿路の画像検査など)を受ける必要があります(*3)。
このように、血尿は腎臓内科の病気の場合も、泌尿器科の病気の場合もありますが、どちらに紹介いただいても、検査にて他方の科での診療が必要と判断すれば、互いに紹介しますので、迷ったらどちらの科に紹介いただいても大丈夫です。
なお、以下のような場合は、早期受診が勧められます(*3)。
◆ コーラ色の尿、あるいは明らかに血や血塊の混じった尿が出ている場合
◆ 明らかな蛋白尿(定性(試験紙の検査)で1+以上)が見られる場合
◆ 腎機能が低下している場合:血清クレアチニン値が高い、あるいは糸球体濾過量(GFR)が低い
◆ 発熱や、呼吸(呼吸が苦しい、痰に血が混じるなど)や皮膚の症状(赤い皮疹=紫斑など)があるなど、他の全身症状を伴う場合 など
☞ 参考:教えて!ドクター「Q. 血尿が出ていると言われました。どうしたらいいですか?」
<出典>
*1 日本泌尿器科学会 他 編. 尿路結石症診療ガイドライン 第2版. 金原出版, 2013:42
*2 日本腎臓学会 他 編. 血尿診断ガイドライン 2013. ライフサイエンス出版株式会社, 2013:26
*3 日本腎臓学会 他 編. 血尿診断ガイドライン 2023. ライフサイエンス出版株式会社, 2023:13