ドクターインタビュー

大阪大学大学院医学系研究科 腎臓内科学 教授

猪阪 善隆 先生
大阪大学大学院医学系研究科 腎臓内科学 教授

猪阪 善隆 先生
猪阪 善隆 <font size="4">先生</font>

目次

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Chapter 2: 腎代替療法の選択について

-----CKDの進行抑制に努めたものの、残念ながら末期腎不全となってしまった場合、透析や腎移植といったなんらかの腎代替療法を選択しなければならないと思います。日本では年に3万人以上の人が新たに透析導入となったり腎移植を行ったりしていますが、腎代替療法はどのように選ぶべきなのでしょうか。

現在、日本では、腎代替療法選択の際には、血液透析を選択される方がほとんどです。その要因としては、患者さん自身も血液透析以外の代替療法をご存知ないということもありますし、医療者も血液透析、腹膜透析、腎移植の3つの選択肢についてすべて説明をしていないという状況があると思います。そのため、患者さんご自身が、主治医に聞いたり自分で調べたりして、腎代替療法にはどのようなものがあるのかを知り、自分にはどの治療法が合っているのかをゆっくりと考えていただく必要があると思います。
ただ、すぐに代替療法が必要になるような段階では、急いで治療法を選ばなければなりませんので、血液透析を選ばざるをえないことが多いと思います。そのようなことにならないためにも、代替療法を選択するまでにまだ時間がある時点から、どの治療法を選択するべきかを考えていただく必要があると思います。

-----まだ時間がある時点で、ということですが、どのくらいの腎機能になったら代替療法を検討すればいいのでしょうか。

遅くとも、CKDのステージでいいますと4(腎機能高度低下)になったくらい、eGFRで30を切ったころには、腎代替療法について考えていただく必要があると思います。

-----CKDステージ4で腎代替療法の準備を始めたものの、その後、悪化のスピードを抑えることができ、腎代替療法に至るタイミングが遅くなる方もいらっしゃるのでしょうか。

もちろんそういう方もおられます。例えば、血液透析のためのシャントを作ったり、腹膜透析用のカテーテルを入れたり、腎代替療法への準備を行い、代替療法を意識すればするほど、ご自身でも進行抑制のための治療を頑張らないといけないという気持ちが強くなり、そこから腎機能悪化のスピードが遅くなるという方もいらっしゃいます。

-----代替療法を検討する時期になったとしても、その段階から実際の透析導入や、腎移植までの期間は患者さんによってさまざまだということですね。

猪阪先生6

当院で開設している、「腎代替療法選択外来」でもよくあることなのですが、腎代替療法のお話をさせていただくと、患者さんの中には、「すぐに透析導入になる」と誤解される方もいらっしゃいます。しかし、決してそういうことではなく、あくまで準備であるということを理解していただきたいと思います。そのときが来るまではできる限り進行を抑制することが治療の目的ですので、透析、あるいは腎移植などの代替療法をすぐに行うということではありません。実際、今後の治療に向けての心構えをすることで、最終的に腎代替療法を選択するまでの期間を遅らせることができたという事例はよくあります。

-----腎代替療法には、血液透析、腹膜透析、腎移植の3つがあると思うのですが、それぞれの治療法について、簡単に教えていただけますでしょうか。

血液透析というのは、まず、腕の、多くは手首のところに、動脈と静脈を手術でつなげる、シャント手術という手術を行います。シャント手術によって静脈が太くなりますので、その太くなった静脈に針を刺し、1分間に200ccぐらいの血液を抜きます。その血液をダイアライザーという機械を用いて老廃物を取り除いてきれいにし、再び体の中に戻すという治療法です。多くは週に3回、1回3~4時間行うことによって血液中の老廃物を除去します。
一方、腹膜透析というのは、お腹の中に臓器を覆っている腹膜という袋のようなものがあるのですが、その袋の中にカテーテルという管を入れることによって、透析液を出し入れすることができるようにします。腹膜に透析液を入れ、しばらくすると透析液の中に血液中の老廃物が出てきます。その老廃物がたまった透析液を体の中からカテーテル経由で外に出し、新たな透析液をまた体の中に入れるということを1日4回くらい繰り返すことによって、血液中の老廃物を除去するというのが腹膜透析という方法です。
腎移植とは、基本的にはご自身の機能が悪化した腎臓は取り出さないまま、お亡くなりになられた方、あるいは血縁の方などのドナーから1つの腎臓を提供していただき、移植するという治療法です。移植後は、健常な方にほぼ近い生活を送ることができますが、移植腎が機能している限り、免疫抑制薬という薬を飲み続ける必要があります。最近は医療技術の進歩によって、移植を受ける方(レシピエント)と腎臓を提供される方(ドナー)の血液型が異なっていても腎移植ができるようになり、血液型が同じ場合の腎移植と遜色ない成績となっています。そのような背景から、血縁のドナーからだけではなく、奥様やご主人から腎提供をしていただくというような夫婦間の生体腎移植もかなり増えています。

-----各治療法のメリットとデメリットを教えていただけますか。

血液透析というのは、ある程度医療者や病院にお任せの治療になります。一般的には週3回、定期的に通院して治療を受けますので、腹膜透析に比べると比較的、自己管理はつらくはありません。しかし、基本的には週に3回しか血液中の老廃物を取り除くことができませんので、透析と透析の間に体内に徐々に溜まっていった老廃物を、透析を受けている3~4時間で一気に除去することになります。そのため、体内のバランスが崩れやすい状況が起こってきますので、その点に関しては注意が必要になります。
一方で腹膜透析というのは、治療の管理をご自身でしていただくことが必要になります。カテーテルが入っている部分などを清潔に保たないと、腹膜炎を起こしやすいというデメリットもあります。逆にご自身できちんと管理できる方であれば、腹膜透析は血液透析と違い、常にお腹の中で老廃物を除去し続ける治療になりますので、比較的、体内のバランスが保たれ、安定した状態を維持することができます。
腎移植の場合は、移植後安定すれば、月に1回程度の通院で済むようになります。特に血液透析や腹膜透析と違い、移植した腎臓自体から体に必要なホルモンを出すことができますので、そういう意味では、透析療法に比べて健常な方に近い生活ができるようになります。そのため、もし、移植を受けることができる状況なのであれば、やはり腎移植が、腎代替療法の中では一番おすすめできる治療法なのではないかと思います。

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