ドクターインタビュー

大阪大学大学院医学系研究科 腎臓内科学 教授

猪阪 善隆 先生
大阪大学大学院医学系研究科 腎臓内科学 教授

猪阪 善隆 先生
猪阪 善隆 <font size="4">先生</font>

目次

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Chapter 3: 大阪大学医学部附属病院におけるCKD治療について

-----ここからは大阪大学医学部附属病院におけるCKD治療についてお聞きしたいのですが、腎臓内科の診療の特徴を教えていただけますでしょうか。

当科の診療の特徴は、疾患ごとに異なりますが、糸球体腎炎などの腎臓病特有の疾患に対しては、寛解を目指すような治療を行っています。例えばIgA腎症に対して、扁桃摘出術およびステロイドパルス療法を行う、あるいは、急速進行性糸球体腎炎に対するステロイド治療や免疫抑制療法などの治療をしっかりと行っています。
一方で、糖尿病、高血圧、あるいは糸球体腎炎などをベースとして、腎障害が進んでしまった患者さんに対しては、血圧のコントロールや、食事療法など、トータルにケアすることで、それ以上の進行をできる限り抑えるための治療を行っています。また、慢性腎臓病の患者さんは心血管病や骨ミネラル代謝異常などをきたすことがありますので、そのような病態に対しても生命予後が改善するような治療を目指しています。
※寛解(かんかい):症状が一時的あるいは継続的に軽くなったり、消えたりした状態。

-----こちらでは特にCKD患者さんに対する食事療法を強化されているとお聞きしましたが。

管理栄養士と協力しながら患者さんに対する食事指導を行っています。
最近はCKD患者さんも高齢の方が多いので、(腎臓を守るだけでなく)栄養不足にならないようにすることも大切です。高齢の患者さんの場合、フレイル(筋力や心身の活力が低下した状態)に陥って、腎機能はいいものの、生命予後が悪化してしまうということもありますので、そのようなことにならないように注意しながら指導しています。

-----20~30年前は、CKDの食事療法といえば、かなりタンパク質を制限するという指導だったと思うのですが、最近は全身の栄養状態の方を重視しているということでしょうか。

現在は、低蛋白療法自体は、透析導入の時期は遅くできるかもしれませんが、腎障害の進行を必ずしも遅くするわけではないといわれています。タンパク質の取り過ぎはよくないですが、全身状態をきちんと管理し、生命予後を改善させることが食事療法の一番の目的だと思いますので、私どもは、過剰な低蛋白療法というのは行っていません。

-----食事療法を進めていく上で大切なことはどのようなことですか。

食事療法を進める上で重要なのは、決められた塩分やタンパク質などの摂取量をきちんと守れているかということを患者さんにフィードバックすることです。フィードバックすることによって、患者さん自身の「自分の健康は自分で守らなければいけない」という意識が強くなり、治療に対して前向きになることができます。

-----進行を抑えるための治療を行っても、残念ながら腎代替療法を選択せざるをえない状況になることもあると思うのですが、こちらの病院では「腎代替療法選択外来」を開設されているとお聞きしました。日本ではそのような外来を開設している病院はまだ多くないと思うのですが、選択外来ではどのようなお話をされるのでしょうか。

腎代替療法選択外来では、まず、腎代替療法にはどのような治療法があるかということを説明します。血液透析、腹膜透析、そして腎移植ですね。最初は透析などの腎代替療法に対して、嫌悪感を持っている患者さんもいらっしゃいますので、少しずつお話をしていき、徐々に現実を受け入れていただくようにしています。
外来は女性医師と看護師が一緒に行い、通常の診察ではなかなかお聞きすることができない、患者さんがどのようなところに生活の重きを置いていらっしゃるのかということなどをお聞きした上で、どの治療法が向いているのかということを患者さんと一緒に考えていくという形をとっています。外来はとてもなごやかな雰囲気で、患者さんは比較的、ご自身のことを素直にお話ししていただけるようです。
そのような過程を経ることで、どの治療法を選択されても、前向きに生活していこうという気持ちになれるよう、それぞれの患者さんに合ったペースで共に進めていくことが大切だと考えています。

-----腎代替療法を選択するには、ご家族の協力も必要になると思われますが、ご家族にはどのようなお話をされるのでしょうか。

猪阪先生2

患者さんの生活スタイルを見据えながら選択することが必要だというお話をさせていただきます。
最近は腎代替療法を選択される方の中にはご高齢の方がたくさんいらっしゃいます。そのため、ご家族の負担という観点から考えると、血液透析というのは比較的、病院にお任せに近い治療ですので、負担もそこまで大きくはありません。一方、腹膜透析となると、ご家族の負担も出てきます。しかし、高齢者の方が血液透析になりますと認知症が進んでしまうというケースもありますので、そのような点から考えますと、ご家族の負担はありますが、腹膜透析を選択した方が比較的通常の生活を保ちながら治療ができ、これまでに近い生活を送ることができるかもしれません。また、若い方であれば、仕事をしていらっしゃる方も多いので、腹膜透析や腎移植という選択肢の方が、血液透析に比べるとそれまでの生活スタイルを維持できるというようなこともあると思います。そのようなお話をしながらご家族も含めて相談していきます。

-----腎代替療法選択外来を開設された経緯を教えてください。

通常の診察の中では、どうしてもゆっくりと患者さんに腎代替療法について説明する時間を取ることが難しく、特に患者さんの生活スタイルなどをじっくりとお聞きする時間がないことが多いと思います。そのような状況を改善し、それぞれの治療法について、ゆっくりと時間をかけて説明したり、ビデオを見ていただいたりして、理解し納得した上で選んでいただくということが必要だと考え、腎代替療法選択外来を開設しました。

-----選択外来の開設前と後では、選択する治療法に違いは出ましたでしょうか。また、患者さんの治療に対する意識の変化などはありましたでしょうか。

外来を開設する前に比べますと、腹膜透析と腎移植を選択される方が増えているような気がします。
また、患者さんがご自身で治療法を選ぶことで、自己管理も含めてしっかりとやっていこうという気持ちが起こり、治療に深く関わっていこうという姿勢が出てくるようです。
それぞれの治療法をしっかりと理解した上で、ご自身に合った治療法がどのようなものなのかを時間をかけて考えることが、納得して腎代替療法を選ぶことにつながっていると思います。

-----それがシェアードディシジョンメイキング(医療者と患者さんが情報を共有して一緒に治療方針を決定するというもので「共有意思決定」と呼ばれる)という、腎代替療法選択において先生が力を入れておられるところなのですね。

そうですね。腎代替療法を選択される際には、患者さんが主体となり、ご自身に向いている治療がどういうものなのかということを考えていく中で、医師や看護師などの医療スタッフが患者さんの意思決定をサポートしていくという形がいいのではないかと思っています。

-----まずはきちんと各治療法を理解した上で、自分や家族のライフスタイルからどのような点を重視するのかを考え、ご自身で治療法選択を行うということが大切だということですね。 最後に、このサイトをご覧になっている読者の方に向けて、メッセージをいただけますでしょうか。

まず、慢性腎臓病というのは、基本的には元に戻らない病気だということを意識していただく必要があります。ただ、進行の速度を落とすことができる病気でもあります。ですから、例えば血圧をコントロールしたり、糖尿病や原疾患をきちんと治療したりすると同時に、生活習慣も改善することで、末期腎不全への進行を遅らせることができます。
ただ、進行抑制のための治療を頑張っても、どうしても徐々に腎機能が低下していってしまうこともあります。そのような場合には、早くから自分に向いている腎代替療法は何かということを主治医ともよく相談して考えていく必要があります。その際にはそれぞれの治療のメリット、デメリットをよく検討した上で、患者さんご自身が自分の生活スタイルを考えた上で、どのような治療法が合っているのかということを、主体的に選択してください。信頼できる医師、医療スタッフと一緒にじっくりと考えることが、納得して治療を選択することにつながると思います。

☞ 参考:3療法経験者インタビュー 松尾 裕子 さん

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