2018.04.12 腎移植の基本情報
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~レシピエントとの関係の要件、移植前の検査・確認内容~
日本では、生体腎ドナーになれるのはレシピエント(腎移植を受ける人)の親族に限られます。具体的には、6親等以内の血族、配偶者、3親等以内の姻族がドナーになることができます(☞ 生体腎ドナーの適応条件)。2017年に行われた生体腎移植におけるドナーの内訳は、39.6%がレシピエントの配偶者、37.2%が親となっています(*1)。
※2021年に行われた生体腎移植においては、42.8%が配偶者、30.2%が親でした(*11)。
また、血液型の一致は望ましいですが、現在では血液型が異なっていても移植は可能です。最近では、日本の生体腎移植の約3割がABO血液型不適合移植となっています(*1)。特殊な処置が必要ですが、その成績は血液型適合移植とほとんど変わりはありません(*2)。
また、生体腎ドナーになるためには、倫理的基準と医学的基準の両者を満たしている必要もあります。倫理的基準とは、誰にも強制されない自発的かつ自由で強い意志のもとに臓器移植が行われる、という原則です。ドナーの腎提供の意志は、移植医療に携わらない第三者(多くの施設では精神科医や臨床心理士)との面接により確認します。さらにドナーは、術後も健康であり、社会生活が術前とほぼ変わりなく送れなければならないため、一定の医学的基準も満たす必要があります。
ドナーの医学的評価は、主には以下の項目について、血液・尿検査や画像検査(内視鏡・CT・エコー)などを用いて行っていきます。
・年齢:20 歳以上で70 歳以下が望ましい(70歳以上でも健康な状態であれば提供可)
・腎機能の評価:糸球体濾過量(eGFR) 80 ml/min/1.73㎡以上、尿蛋白・潜血がないこと
・管理不能な高血圧、糖尿病、感染症、重篤な心肺疾患、がん(悪性腫瘍)などがないこと
将来的に腎障害を起こす病気(糖尿病、管理不能な高血圧など)や感染症(肝炎、HIVなど)、がん(悪性腫瘍)がある場合は、原則としてドナー不適格と判断します。特にドナーが若い場合は、腎提供後に片腎で長期間生活しなければならないので、高齢のドナーよりも厳格に評価を行います。しかし、日本では生体腎移植が多くを占め、慢性的にドナーが不足しているため(☞ 腎移植件数)、年齢が80歳以下の症例や、降圧薬使用で管理良好な高血圧、経口糖尿病薬のみの使用で管理良好な糖尿病などの症例も、日本臨床腎移植学会の『生体腎移植のドナーガイドライン』の基準を満たせば腎提供を許容する場合があります。
当院においても、高血圧を認めている70歳代のご高齢の方でも、食事・運動療法や降圧薬の内服で血圧の管理が良好であったことから、実際にドナーとして腎提供をしていただいた方もいらっしゃいます。また、血液検査ではeGFRが80 ml/min/1.73㎡以下であっても、畜尿検査※やより詳しい検査で腎機能を評価し、腎機能に問題ないと判断する場合はドナーとして腎提供を許可することも多いです。
※ 畜尿検査:通常1日(24時間)の尿を溜め、尿量や、尿中のクレアチニン、蛋白、ナトリウム、カリウムなどの量を測定し、腎機能を調べる検査。
☞ 参考:教えて!ドクター「血圧や血糖値が高めでもドナーになれますか?」
~ドナーの腎提供後の腎機能など~
生体腎ドナーは、腎提供により必ず腎機能は低下します。一般的には腎提供後の腎機能は、提供前の6~7割程度になるといわれており(*3,4)、日本では腎提供により8~9割程度の人がeGFR 60 ml/min/1.73㎡以下となります(*4)。しかし、もともと正常な腎機能を持ち健康であるため、ほとんどの場合では進行性腎障害とならず、安定することが知られています(*5)。
これまで生体腎ドナーは、腎提供後の死亡リスクも末期腎不全になるリスクも一般人と比較して変わらないとされてきました。生体腎ドナーの生存率は一般人と比較しても良好であることが、海外でも日本でも報告されています(*6,7)。
しかし、もともとドナーになれるのは、一般的にはとても健康な人だけです。そのため、腎提供がドナーの体に与える影響を知るためには、腎提供前のドナーと同じくらい健康な人と、腎提供後のドナーを比較する必要があります。
最近の研究から、ドナーと同じくらい健康な人と比較した場合には、腎提供後15年以上の長期では心血管病による死亡リスクが若干高くなることが分かってきました(*8)。また、ドナーが末期腎不全になるリスクも、一般人よりははるかに低いですが、ドナーと同じくらい健康な人と比較した場合には、発症リスクが若干高くなることも分かっています(*8,9)。特に40歳台以下の若いドナーでは、長期的に見たリスクという点からも注意が必要です。また、高血圧・糖尿病・蛋白尿などを合併している場合も、進行性に腎機能低下を起こす可能性が十分にあるため、注意しなければなりません。
~外来受診や生活習慣病予防について~
レシピエントだけでなく、ドナーも術後を健康に過ごすことができて、はじめて生体腎移植は成功と言えます。そのため、腎移植後の外来受診は、レシピエントと同じように、ドナーにとっても非常に重要であり、ドナーは術後に定期的(最低でも1年に1回)かつ長期(10年以上)の外来受診が必須です。アメリカでは、移植後10年で約3%のドナーしか外来受診を継続していなかったという報告があります(*10)。
ドナーは"もともと健康である"という意識があるため、移植後もずっと健康であると考えて外来受診をやめてしまうことが原因と考えられています。ドナーの健康を守るためには、患者さんも医療者側も意識的にドナーの外来受診を継続していくことが重要です。
また、高血圧や糖尿病の合併がある場合には、かかりつけ医を持ち、数か月に1度定期的に受診することも大切です。
リスクがないドナーであっても、普段の生活から体重や血圧を測定することや、習慣的に運動をすることが大事になります。血圧が上昇してきたり、体重が増加してきたりする場合には、減塩やカロリーを減らした食事にすることも有効です。肥満・生活習慣病は、腎機能を低下させるリスクであることが知られており、日々の生活からこれらを予防することが重要です。また、会社や市町村の検診制度を積極的に利用して、日々の体調管理を行うことが勧められます。
☞ 参考:腎移植ライフ「腎提供後の生体腎ドナーの自己管理」
生体腎移植はドナーの善意により行われるからこそ、ドナーの健康は守られなければなりません。もし生体腎ドナーになった場合は、上記の点に注意していただき、レシピエントとともに健康な生活を過ごしてください。
☞ 参考:生体腎ドナーインタビュー
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<出典>
*1 日本移植学会・日本臨床腎移植学会. 腎移植臨床登録集計報告(2018)移植 2018;53:89-108
*2 Takahashi K, Saito K. ABO-incompatible kidney transplantation. Transplantation Reviews 2013;27:1-8
*3 Yazawa M, et al. Kidney function, albuminuria and cardiovascular risk factors in post-operative living kidney donors: a single-center, cross-sectional study. Clin Exp Nephrol 2011;15:514-521
*4 Kido R, et al. Very low but stable glomerular filtration rate after living kidney donation: is the concept of "chronic kidney disease" applicable to kidney donors? Clin Exp Nephrol 2010;14:356-362
*5 Saito T, et al. Changes in glomerular filtration rate after donation in living kidney donors. Int Urol Nephrol 2015;47:397-403
*6 Hassan N, Ibrahim MD, et al. Long-Term Consequences of Kidney Donation. N Engl J Med 2009;360:459-469
*7 Okamoto M, et al. Short- and Long-Term Donor Outcomes After Kidney Donation: Analysis of 601 Cases Over a 35-Year Period at Japanese Single Center. Transplantation 2009;87:419-423
*8 Mjen G, Hallan S, et al. Long-term risks for kidney donors. Kidney Int 2014;86:162-167
*9 Muzaale AD, Massie AB, et al. Risk of End-Stage Renal Disease Following Living Kidney Donation. JAMA 2014;311:579-586
*10 Mandelbrot, DA, et al. Practices and barriers in long-term living kidney donor follow-up: a survey of US transplant centers. Transplantation 2009;88:855-860
*11 日本移植学会・日本臨床腎移植学会. 腎移植臨床登録集計報告(2022)移植 2022;57:199-219