生体腎移植者 山上隆さん(仮名)
生体腎移植者 山上隆さん(仮名)
2017.08.31 レシピエントインタビュー
腎移植者インタビュー
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Chapter4: 夫婦で若い頃に戻ったように
----- 移植後に感じた一番大きな変化は何ですか。
大脇さん:
時間の制約がほとんどなくなったことです。腹膜透析をしていた頃でも、しっかりと時間割を作れば何とでもなると思っていたので、それなりに満足していましたが、移植を受けたら、やはり活動できる量も内容も大きく違いました。実際に動けるようになって実感しましたね。
特別何かを気にすることもなく旅行に行けるようになりましたし、何より、以前のようにフルタイムで働けるようになりました。移植後、最初は1週間に半日程度働いていたのですが、その後週1日になり、さらにその後、パート先から頼まれてフルタイムで働くようになりました。現在、介護老人保健施設で医師として働いています。
日髙先生:
フルタイムで働けるようになったと聞いて、腎移植を提案した私としてもうれしかったですね。
----- 日髙先生は、腎移植を受けた患者さんに、どのような生活を送ってもらいたいですか。
日髙先生:
私の上司である、腎臓病総合医療センター長の小林修三先生は、末期腎不全になって日常生活が困難になった患者さんが透析導入する際、患者さんに「これから生まれ変わるんだよ」と伝えています。透析導入すれば、体に溜まりやすくなった老廃物を透析で取り除けるようになり、体調がある程度回復するので、できるだけアクティブな生活を送ってほしいというメッセージです。腎移植は、多くの場合で、健常者とほとんど変わらない活動的な生活をもたらしてくれる可能性のある、素晴らしい医療です。移植後は気分を一新して、その人らしく、好きなことを一生懸命やっていただきたいですね。大脇さんが当院でコンサートを開くと聞いた時は、とてもうれしかったです。
大脇さん:
昨年の秋に「藤沢男声合唱団」という合唱団で、湘南鎌倉総合病院の院内でコンサートを開きました。年寄が多いのですが(笑)、地元では有名な、伝統のある合唱団です。
日髙先生:
藤沢市民会館の大ホール(1,380席)が満員になるくらい人気がある合唱団ですよ。
2018年10月に湘南鎌倉総合病院で行われた藤沢男声合唱団のコンサート
(下の写真、最前列の一番左が大脇さん)
大脇さん:
腎移植を受けたおかげで、毎週練習に行けるようになりましたし、ハードな練習にも耐えられるようになったので、小林先生を捕まえて、歌わせてもらえるよう頼みました(笑)。ご好評いただけたようで、今年も開催予定です(2019年10月に開催)。
日髙先生:
大脇さんは移植後、仕事や趣味に一生懸命取り組み、充実した日々を送られていますね。
腎移植を受ける前、透析療法や腎不全治療にとても真面目に取り組んでいた方は、移植後も食事などの日常生活に過度な制限を加えがちですが、できるだけ健常者と同じように生活していただければと思います。
ただ、免疫抑制薬を決められた時間やタイミングできちんと服用することや、一般的な感染予防など、最低限のことだけは気をつける必要があります。
大脇さん:
私は旅行中、一度だけ服薬時間が遅れたことがありましたが、それ以外は薬の飲み忘れはありません。感染予防も神経質なくらい徹底しています。手洗いもかかさず行っていますし、感染のリスクがあるときは手袋をはめています。また、インスリン注射などの糖尿病治療もしっかり継続しています。
日髙先生:
糖尿病から腎不全になり、腎移植を受けた患者さんは、服薬管理や感染予防、糖尿病治療などをすごく頑張っている方が多い印象です。移植前は10%台だったHbA1cが、移植後に6%台まで改善した方もいらっしゃいます。腎臓を提供してくれたドナーのためにも、移植腎をとても大切にされているのだと思います。
----- 腎移植を受けて、ご自身の医師としての仕事に変化はありましたか。
大脇さん:
腎不全患者さんや透析患者さんの往診を行うことがあるのですが、腎移植を受けた方が良いのではないかと思う方には、自分の体験を伝えて腎移植を勧めたりしています。私が診察している60代の透析患者さんで、娘さんに介護してもらっている方がいるのですが、娘さんはご主人の親御さんも介護されているとのことでした。そこで、先日娘さんに、ご自身の介護の負担を減らすためにも、お父様に腎移植を受けていただくことを検討してみてはどうかとお話ししたら、家族で相談してみるとおっしゃっていました。
----- 最後に、これまでの腎不全治療を振り返って、先生方や奥様に伝えたいことはありますか。
大脇さん:
やはり、感謝の気持ちをお伝えしたいです。私は移植手術後に拒絶反応が強く、退院するまでに少し時間がかかったのですが、昼夜に渡って治療にあたっていただいた先生方やスタッフの方々にはとても感謝しています。また、日髙先生には、腹膜透析導入の頃から本当にお世話になっています。私は結構好き勝手なことを言う方ですので、我ながら面倒な患者だと思いますが(笑)、いつも親身になって診療していただき、ありがたい限りです。
そして、妻にも心から感謝しています。移植を受ける決心を強く後押しし、腎臓を提供してくれました。また、腹膜透析を行っていた頃は、いつも私に付き添って世話をしてくれました。移植後、靴下を1人で履けるようになったことを妻は一番喜んでいました。おかげで、1人旅をすることにも許可をもらえました(笑)。
日髙先生:
奥様も、大脇さんが腎移植を受けたことで、ご自身の時間をより楽しめるようになったでしょうね。
大脇さん:
私自身もそうですが、妻も毎日何かしらスケジュールがあって、じっとしていることがありません(笑)。お互い、若い頃に戻ったように、好きなことを楽しんでいます。腎移植が2人の生活を大きく変えたと思います。腎移植は、患者のためだけでなく、家族のための医療でもあるのだと実感しています。
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