生体腎移植者 山上隆さん(仮名)
生体腎移植者 山上隆さん(仮名)
2017.08.31 レシピエントインタビュー
腎移植者インタビュー
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Chapter2: 体調が回復した腹膜透析
----- シャント作製がうまくいかず、その後はどうされたのですか。
大脇さん:
腹膜透析を行うことを考えました。私の友人が腹膜透析を行っていたこともあり、腹膜透析についてはよく知っていました。ただ、当時はあまり治療成績が良くなく、その友人が腹膜炎(腹膜全体に炎症が起こる病気)を起こして具合が悪くなったのを見ていたので、最初はあまり積極的になれませんでしたが、シャントが作れない以上、他に選択肢はありませんでした。
----- その時は、生体腎移植については検討しかなったのですか。
大脇さん:
当時は、腎移植に対して良いイメージを持っていませんでした。
私が高知県で働いていた1986年に、高校時代の友人が、母親からの腎提供で生体腎移植を受けました。高知県では4例目の腎移植だったそうです。彼は移植を受けて体調がとても良くなり、私は腎移植の劇的な効果に驚きました。しかし、新聞記者をしていた彼は、仕事がハードだったため、数年後に心筋梗塞を起こしてしまいました。その後、私が彼の治療にあたったのですが、心不全を繰り返し、腎移植を受けてから13年後に亡くなりました。腎移植が原因ということではありませんが、移植を受けた友人の死を目の当たりにして、どうしてもネガティブな印象を持ってしまいました。
長野県の病院を退職した後、透析導入までまだ時間があったので、友人が院長をしていた茨城県の病院で半年ほど勤務しました。その間、腹膜透析についてインターネットで調べ、娘が住んでいた藤沢市に近い湘南鎌倉総合病院で腹膜透析を行っていることを知り、院長である友人から湘南鎌倉総合病院を紹介してもらいました。
腹膜透析導入前に、日髙先生から、生体腎移植について考えてみてはどうかとのお話がありました。以前とは異なり、近年は治療成績が格段に良くなっているということでした。また、周りからも腎移植を受けることを勧められました。しかし、友人の死がトラウマになっていたので、前向きに考えることはできませんでした。
----- そして、その時は腹膜透析を選ばれたのですね。
大脇さん:
はい。64歳の時に腹膜透析を始めました。日髙先生には、その時から今日までお世話になっています。
日髙先生:
腹膜透析は、お腹の中の腹膜を、血液透析のダイアライザーの代わりに用いる透析方法です。ダイアライザーは透析ごとに新しいものを使用しますが、腹膜は取り換えることはできないので、長期間腹膜透析を行っていると、透析液によって腹膜が劣化したり、それが原因で被嚢性腹膜硬化症(EPS)※を起こしたりすることがあります。腹膜が透析を行う機能を失うと、治療が継続できなくなるため、腎移植か血液透析への移行が必要になります。
腹膜透析を継続できる期間は7~10年程度(*)と言われていますが、医療の進歩に伴い、現在は治療成績が向上しています。特に透析液が中性液になってからは腹膜への負担が少なくなったので、当院でもEPSになった患者さんはいません。また、週5日間は腹膜透析を行い、週1日だけ血液透析を受けるというように、血液透析を併用することで、腹膜への負担を減らすこともできます。このような方法によって、腹膜透析を15~16年継続できている患者さんもいらっしゃいます。ただし、治療の継続期間には個人差があって、腹膜炎を繰り返して腹膜が劣化し、比較的短い期間で継続が難しくなる患者さんもいらっしゃいます。
※ 被嚢性腹膜硬化症(EPS):腹膜透析液による腹膜の劣化や、重度の腹膜炎などが原因となって起きる腹膜透析の合併症で、腹痛や吐き気、嘔吐などの腸閉塞の症状を伴う。
----- 腹膜透析を始めて、体調や生活はどのように変わりましたか。
大脇さん:
体調は劇的に改善しました。食欲が出てきて、しっかりと食事ができるようになったことが大きかったと思います。おかげで、ある程度活動的な生活を取り戻すことができました。毎日、朝・昼・夕方・就寝前の4回、自分で透析液を交換していましたので、それに伴う時間の制約はありましたが、非常勤ながら仕事ができるようになりました。腹膜炎を起こすこともなく、尿量も維持できていたので、とても調子よく透析ができていました。
ただ、不便なことが無かったわけではありません。旅行に行くときには、透析液のバッグを持参するか、現地に送る必要がありました。一度、ハワイに行こうとして、透析液を現地に送ろうとしましたが、医薬品の自己輸入になるので高い税金がかかり、1人分の旅費くらいの費用がかかるということだったので、旅行を断念しました。
日髙先生:
そんなことがあったのですか!大脇さんは国産の透析液を使用していましたが、一時的に海外の透析液に変更して、現地で入手するように手配することもできたと思います。その時に言ってくださればよかったのに...今、知りましたよ(笑)。
大脇さん:
また、腹膜透析を行っていた頃は、妻にも手間をかけたと思います。例えば、透析液がお腹に溜まっているので、自分1人で靴下を履くことが難しく、妻に手伝ってもらっていました。また、1人では不便なことが多かったので、どこへ行くにも妻に付き添ってもらっていました。
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<出典>
* 日本腎臓学会 他. 腎不全 治療選択とその実際(2023年版)
2017.08.31 レシピエントインタビュー
2018.04.12 腎移植の基本情報
2018.03.22 腎移植の基本情報
2017.10.26 腎移植のドクターコラム