ドクターコラム

糖尿病患者さんの腎代替療法

糖尿病患者さんの腎代替療法

聖マリアンナ医科大学 腎臓・高血圧内科 講師 今井 直彦 先生

聖マリアンナ医科大学 腎臓・高血圧内科
講師 今井 直彦 先生

糖尿病患者さんの腎代替療法

掲載日:2019/06/17

☞ 「病院を探そう!」聖マリアンナ医科大学病院のご紹介ページ

慢性腎臓病(CKD)は国民病の一つであり1,330万人(成人の8人に1人)(*1)の患者さんがいるとされています。CKDが進行し、末期腎不全になると、その原因にかかわらず腎代替療法が必要となります。これは糖尿病患者さんも同じです。腎代替療法としては、透析療法だけでなく、可能なかぎり腎移植も検討することが推奨されています(*2)

腎移植

糖尿病患者さんは新規透析導入患者の約4割を占める

腎代替療法は透析療法と腎移植に大別されます。この中で透析療法に関しては2017年の透析患者の統計調査では38,786 人が導入されています。透析導入の原因となった疾患として、その第1位が糖尿病性腎症(42.5 %)、第2位が慢性糸球体腎炎(16.3 %)、第3位が腎硬化症(14.7 %)、第4位が原疾患不明(13.2 %)となっています。糖尿病性腎症は1998年以来ずっと透析導入の原因として1位となっています(*3)
※2021年においては、透析導入患者数は40,511人、原因疾患の割合は糖尿病性腎症:40.2%、腎硬化症:18.2%、慢性糸球体腎炎:14.2%、原因不明:13.4%(*13)

原疾患の推移

透析療法だけでなく 腎移植も検討しましょう

糖尿病患者さんは腎移植を避けたほうが良いと考えられていた時代もありました。しかし、糖尿病患者さんにおいても、透析療法よりも腎移植の方が患者生存率が良いことが確認され(*4) 、現在は全く逆に考えられています。

☞ 参考:ドクターコラム「糖尿病患者さんの腎移植」(DKDからのCKD患者さんにおける最近の腎移植医療

2017年の統計調査では1,742名が腎移植を受けており、そのうち生体腎移植が1,544名、献腎移植が198名ですが、糖尿病合併は生体腎移植で315名(23.7%)、献腎移植で37名(23.9%)※1 となっています(*5)
また、まだまだ改善の余地はあるものの、2001年〜のわが国の統計における糖尿病患者さんに対する生体腎移植の成績は、生着率※2が1年:97.7 %、5年:90.1 %、10年:71.9 %、生存率が1年:98.3 %、5年:93.4 %、10年:81.7 %となっています(*6)

※1( )内は、詳細データのある症例(生体腎移植:1,429例、献腎移植:184例)における割合。なお、2021年に行われた腎移植における糖尿病合併の割合は、生体腎移植で24.5%、献腎移植で21.7%(*12)
※2 生着率:移植後のある時点で機能している移植腎の割合。移植腎が機能している期間を示す指標とされる。

<糖尿病患者さんこそ 先行的腎移植(PEKT)を目指しましょう>
最近では、透析療法を導入せずに腎移植をする先行的腎移植(PEKT)が増えてきています。2017年に行われた生体腎移植の33.6 %が先行的腎移植でした(2021年では37.0%)(*5,12)
先行的腎移植は、透析を行った腎移植に比べて患者生存率が良好であるとされ(*7,8)、透析を行っていても、その期間が短いほど成績が良好と言われています(*9)。特に糖尿病患者さんにおいては、そのような先行的腎移植のメリットがより大きいとされています(*2)

糖尿病患者さんには なぜ先行的腎移植が良いのか
糖尿病患者さんが透析導入になると、終末糖化産物(AGEs)※1の産生が促進され、その結果、心血管イベント※2のリスクがさらに高くなると言われています。高率に心筋梗塞や脳卒中などの心血管疾患を既に合併している糖尿病患者さんでは、先行的腎移植によって早期に末期腎不全から脱却することは、なおさら必要です。腎移植により、心血管イベントが抑制されることが知られています(*10)
※1 終末糖化産物:タンパク質と糖が加熱されてできた物質。強い毒性を持ち、老化を進める原因物質とされている。
※2 心血管イベント:心筋梗塞や脳卒中などの心血管疾患の発症や、心血管疾患による入院や死亡などの事象。

PEKTの有用性

先行的腎移植は早めに準備しましょう

先行的腎移植を目指すなら早めの準備が必要となります。生体腎移植はすぐにはできません。当院では、具体的にはeGFR 20 mL/min/1.73㎡以下を目安に移植外来の初回受診を勧めています。きちんと準備をして、そのタイミング逃さないことが重要です。

治療開始時期のイメージ

<糖尿病患者さんは蛋白尿がなくても安心できない:きちんと通院しましょう>
今まで、蛋白尿の程度が腎障害の進行のリスク評価に使われてきました。糖尿病患者さんにおいても、蛋白尿が高度であるほど腎障害の進行が速いとされてきました。しかし、近年、糖尿病患者さんの中に、蛋白尿が陰性あるいは軽度であるものの、腎障害の進行が速い患者さんがいることが注目されています(*11)。まだ分かっていないことも多いですが、適切な時期に腎代替療法の選択を行うためにも、蛋白尿の有無や程度に関わらず、きちんと外来に通院していただくことがより必要となります。
通院

バナー

☞ 「病院を探そう!」聖マリアンナ医科大学病院のご紹介ページ

<出典>
*1 日本腎臓学会 編. エビデンスに基づくCKD診療ガイドライン2023:1
*2 Becker BN, et al. Preemptive transplantation for patients with diabetes-related kidney disease Arch Intern Med 2006;166:44-48
*3 日本透析医学会 統計調査委員会. 図説 わが国の慢性透析療法の現況(2017年12月31日現在)
*4 USRDS. 2023 Annual Data Report / Reference Tables / H. Mortality and Causes of Death
*5 日本臨床腎移植学会・日本移植学会. 腎移植臨床登録集計報告(2018) 移植 2018;53:89-108
*6 Yagisawa T, et al. Trends of kidney transplantation in Japan in 2018: data from the kidney transplantregistry Renal Replacement Therapy 2019;5:3:1-14
*7 Mange KC, et al.Effect of the use and nonuse of long-term dialysis on the subsequent survival of renal transplants from living donors. N Engl J Med 2001;344:726-731
*8 Vats AN, et al. Pretransplant dialysis status and outcome of renal transplantation in North American children: A NAPRTCS study. Transplantation 2000;69:1414-1419
*9 Goto N, et al. Association of dialysis duration with outcomes after transplantation in a japanese cohort. Clin J Am Soc Nephrol 2016;11:497-504
*10 Meier-Kriesche, H.-U., Schold, J. D., Srinivas, T. R., Reed, A. & Kaplan, B. Kidney transplantation halts cardiovascular disease progression in patients with end-stage renal disease. Am J Transplant 2004;4:1662-1668
*11 Bolignano, D. & Zoccali, C. Non-proteinuric rather than proteinuric renal diseases are the leading cause of end-stage kidney disease. Nephrology Dialysis Transplantation 2017;32:ii194-ii199
*12 日本臨床腎移植学会・日本移植学会. 腎移植臨床登録集計報告(2022) 移植 2022;57:199-219
*13 花房規男 他. わが国の慢性透析療法の現況(2021年12月31日現在) 透析会誌 2022;55:665-723


この記事を見た人が読んでいるのは

専門家に聞こう!


関連記事


病院検索 閉じる
トップへ