ドクターコラム

腎移植における誤解と、腎移植医療の最新情報

腎移植における誤解と
腎移植医療の最新情報

はらだ腎泌尿器クリニック 院長 原田 浩 先生

はらだ腎泌尿器クリニック 院長 原田 浩 先生

腎移植における誤解と、腎移植医療の最新情報

掲載日:2016/01/21

☞ 「病院を探そう!」市立札幌病院のご紹介ページ

現在では血液型が異なっても移植は可能です。たとえばA型からB型やO型へ、B型からA型やO型、AB型からO型、A型、B型への提供も可能です。特殊な処置が必要ですが、最近では日本の生体腎移植の25%以上が血液型不適合移植となっています(☞ ABO血液型不適合移植)。その割合は世界でも群を抜いて多いため、日本がリーダーシップを取っており、その成績は、血液型適合移植を凌ぐものとなっています。

血液型が違っても移植可能

さらに、6親等以内の血族のみがドナーになれるわけではなく、配偶者と3親等以内の姻族でもドナーになることができます(☞ 生体腎移植の適応条件)。現在日本では、生体腎移植の半数以上が配偶者からの提供となっています(☞ 夫婦間腎移植)。しかもその成績は肉親からの提供による腎移植を凌ぎます。

親族

また、現在でも、「腎移植を受けるためにはまず透析を受けなければならない」と誤解されている医療者もいらっしゃいます。透析は確かに、どうしても腎移植を受けることができない方のための腎代替療法でありますが、腎移植を受けることができる方にとっては、不要の医療です。透析療法を経ない腎移植を「先行的腎移植」と呼びます。日本でもその認識が年々改善されてきており、最近では移植直前のみの透析も含めると、生体腎移植の約30%が先行的腎移植です(*1)(2021年に行われた生体腎移植においては約37%(*2))。当然ながら透析アクセス(内シャント腹膜透析のチューブ)手術が不要で、透析による合併症も回避できます。透析をすることで、仕事などに不利益を被ることがある方はこれも回避できます。また、成長期前の子どもの場合、腎不全による成長障害が解決できるため、移植後は身長が伸びることが多いです。何より、透析療法による運動、学業の制限から開放され、友人と比べても行動の制限がほとんどなくなることは、精神面の発達にも良好と言えます。

pekt

かつては、先行的腎移植は、透析導入してから移植をした場合よりも、移植腎の生着率や、生存率が良好とされていた時期もありますが、最近は1~2年程度の透析期間であれば、移植腎の生着率や生存率は先行的腎移植とあまり変わりはないとされています(*3)(*4)。いずれにせよ、透析が不要なものならば行う必要がないということを理解するのに時間はかからないと思います。

加えて、まだまだ世の中に広まっているのは「腎移植にはお金がかかるのでは」という誤った認識です。おそらく、一昔前に渡航移植が問題視され、盛んにメディアをにぎわせていた頃の、実費で数百万から1千万円くらいかかったというような報道が、そのまま誤解につながっているものと思いますが、腎移植は保険診療です。それでも免疫抑制薬や、検査料、移植の手術手技料は安くはなく、移植を行った月には相当の医療費(400万円前後)が発生します。しかし、多くの方は1割負担であり、自立支援医療という医療補助制度のおかげで、実際には、1割負担以下の支払いで済みます。当院で移植を受けた患者さんの、移植手術を受けた月の負担額は、納税額などによって異なりますが、0~数万円でした。自立支援医療は移植後の外来診療でも有効ですので、月の支払いは一定額で済みます。よって、日本においては、移植のための医療費をあまり気にしなくて良いということが分かると思います。

☞ 参考:腎移植の基礎知識「腎移植手術の費用」、腎移植ライフ「腎移植後の医療費と自己負担

以上、腎移植における誤解および腎移植の実情について簡単に述べました。ドナーになっていただける方がいらっしゃれば、腎移植は皆さんが享受できる最良の腎代替療法です。是非、最寄りの腎移植に詳しい腎臓内科医や、腎移植を行っている医療機関に問い合わせみてはいかがでしょうか。可能な限り早めに問い合わせ、ご家族ともよく相談の上、意思決定をすることが、今後の人生を変えると言っても過言ではないと思います。

バナー

☞ 「病院を探そう!」市立札幌病院のご紹介ページ

<出典>
*1 日本移植学会・日本臨床腎移植学会. 腎移植臨床登録集計報告(2018)移植 2018;53:89-108
*2 日本移植学会・日本臨床腎移植学会. 腎移植臨床登録集計報告(2022)移植 2022;57:199-219
*3 Goldfarb-Rumyantzev A, et al. Nephrol Dial Transplant 2005;20:167-175
*4 Jung GO, et al. Transplantation Proc 2010;42:766-774


この記事を見た人が読んでいるのは

専門家に聞こう!


関連記事


病院検索 閉じる
トップへ