慢性腎臓病の原因疾患

慢性腎臓病の原疾患(原因疾患)にはさまざまなものがあります。

多発性嚢胞腎(ADPKD)

監修:虎の門病院 腎センター内科 部長 乳原 善文 先生

遺伝性の腎臓病

多発性嚢胞腎(たはつせいのうほうじん:ADPKD)は、両側の腎臓にたくさんの嚢胞(液体のつまった袋)ができる遺伝性の病気です。日本では約4,000人に1人発症すると推定されており(*1)透析導入原因の2~3%程度を占めています(*2)
※ 多発性嚢胞腎には、成人で症状が現れる常染色体優性多発性嚢胞腎(ADPKD)と、出生前~新生児期に症状が現れる常染色体劣性多発性嚢胞腎(ARPKD)がありますが、ここではADPKDについて説明します。

ADPKDでは、腎臓の尿細管に嚢胞ができ、それらが増えて大きくなっていきます。腎臓の大きさは数倍になり、正常な腎臓の組織が圧迫されるようになると、腎機能が低下していきます。

腎嚢胞

ADPKDは遺伝子の異常で起こる病気です。ADPKDが親から子どもに遺伝する確率は基本的に1/2です。子どもが2人いればどちらかがADPKDというわけではなく、それぞれの子どもにADPKDである可能性が50%あります。つまり、両方の子どもがADPKDである可能性もあり、両方ともADPKDでない可能性もあります。
遺伝

ただし、ごくまれに、両親ともにADPKDではないにも関わらず、遺伝子の突然変異でADPKDを発症することもあります(ADPKD患者さん全体の約5%(*3))。

主な症状

ADPKDは、一般的に30~40歳代まではほとんど症状がありませんが、病気の進行に伴って以下のような症状が現れる場合があります。ただし、進行の速さは人それぞれで、同じ家系の患者さんでも異なります。

<高血圧>
若い年代から発症します。人によっては子どもの頃に発症する場合もあります。嚢胞が大きくなる前、腎機能が低下する前から発症することも多いとされています(*4)

高血圧

<血尿>
目で見て分かるくらいの血尿(肉眼的血尿)が、30~50%の患者さんに現れるとされています(*5,6)

<腹痛、腰背部痛>
約60%の患者さんで、背中の腰のあたり(腎臓があるあたり)やお腹に慢性的な痛みがみられます(*7)。また、ADPKDは嚢胞の出血や感染、尿路結石を起こしやすく、その場合は突然激しい痛みを感じることがあります。

要背部痛

<腹部膨満>
嚢胞によって腎臓が著しく大きくなると、お腹が膨れるようになります。大きくなった腎臓が胃や腸を圧迫し、食欲がなくなる場合もあります。

主な合併症

ADPKDは以下のような合併症を起こしやすいとされています。発症すると激しい痛みを伴うものや、命にかかわるものもあるため、定期的に必要な検査を受けることが大切です。

腎臓に起きやすい主な合併症

<嚢胞出血>
嚢胞の細い血管から出血し、嚢胞内にたまるものです。痛みを伴うこともあり、血尿の原因にもなります。

<尿路結石>
腎臓から尿道までの「尿路」に石(結石)ができる病気です。男性患者さんの21%、女性患者さんの13%に合併するとされており(*8)、背中の腰のあたりやお腹の急激な痛み、血尿といった症状が起こります。

尿路結石

<嚢胞感染 >
腎嚢胞が血流や尿路から入り込んだ細菌に感染することがあり、痛みと発熱を伴います。30~50%の患者さんに見られ(*9)、再発を繰り返す場合もあります。

腎臓以外の臓器に起きやすい主な合併症

<脳動脈瘤>
脳内の動脈に異常な膨らみ(こぶ)ができる病気です。破裂すると生命に関わる恐れがあるため、頭部の画像検査を定期的に受ける必要があります。

脳動脈瘤破裂

<肝嚢胞>
ADPKDでは、肝臓にも嚢胞ができやすく、大きくなった肝臓が腹部膨満や痛みの原因になることもあります。

診断方法

一般的に、家族の病歴や上記のような症状・合併症の有無の確認、腎臓の状態を調べるための画像検査などを行います。

検査

予後

ADPKDでは、60歳までに約半数の患者さんが末期腎不全になり、腎移植透析が必要になると言われています(*1)。ただし、ADPKDが原因で透析導入となった患者さんの生命予後は、他の病気で透析導入となった患者さんに比べて良好とされています(*10,11)

主な治療方法と日常生活の注意点

<血圧のコントロール>
ADPKDでは、多くの場合、早い段階で高血圧を発症します。高血圧は慢性腎臓病を悪化させるため、腎機能低下をより早めてしまいます。また、高血圧は心筋梗塞や脳卒中などの合併症の原因でもあります。そのため、降圧療法はADPKDの治療の基本です。
食事療法で塩分を制限し、必要に応じて降圧薬を服用します。

減塩、降圧薬

<嚢胞の増殖・増大の抑制>
体内で作られ、分泌されているバソプレシンというホルモンは、嚢胞の形成や成長を促進します。バソプレシンは、飲水によって分泌が抑えられるため、1日あたり 2.5 ~ 4 L程度の水をこまめに飲むことが勧められます(*12,13)(飲水量は医師との相談で決めます)。嚢胞によって腎臓がすでに大きくなっていて、かつ増大するスピードが速いときには、バソプレシンの分泌を抑える薬が用いられる場合もあります。
飲水

また、他の慢性腎臓病と同様に、必要に応じて食事療法運動療法なども行います。ただし、腎臓が既に大きくなっている場合、お腹に衝撃が加わるような激しい運動は勧められません。

*1 Higashihara E, Nutahara K, Kojima M, et al. Prevalence and renal prognosis of diagnosed autosomal dominant polycystic kidney disease in Japan Nephron 1998;80:421-427
*2 日本透析医学会 統計調査委員会 図説 わが国の慢性透析療法の現況(2016年12月31日現在):17
*3 Grantham JJ. Autosomal Dominant Polycystic Kidney Disease N Engl J Med 2008;359:1477-1485
*4 Higashihara E, Horie S, Nutahara K, et al. Renal disease progression in autosomal dominant polycystic kidney disease Clin Exp Nephrol 2012;16:622-628
*5 Gabow PA, Duley I, Johnson AM. Clinical profiles of gross hematuria in autosomal dominant polycystic kidney disease Am J Kidney Dis 1992;20:140–143
*6 Johnson AM, Gabow PA. Identification of patients with autosomal dominant polycystic kidney disease at highest risk for end-stage renal disease J Am Soc Nephrol 1997;8:1560-1567
*7 Hogan MC, Norby SM. Evaluation and management of pain in autosomal dominant polycystic kidney disease Adv Chronic Kidney Dis 2010;17:e1.-16
*8 Higashihara E, et al. Clinical aspects of polycystic kidney disease J Urol 1992;147;329-332
*9 Alam A, et al. Managing cyst infections in ADPKD: an old problem looking for new answers Clin J Am Soc Nephrol 2009;4:1154-1155
*10 荒井純子. 透析療法(東原英二監修)多発性囊胞腎の全て インターメディカ 2006;16-21:225-232
*11 Perrone RD, Ruthaazer R, Terrin NC. Survival after end stage renal disease in autosomal dominant polycystic kidney disease: contribution of extrarenal complications to mortality Am J Kidney Dis 2001;38:777-784
*12 Barash I, Ponda MP, Goldfarb DS, Skolnik EY. A pilot clinical study to evaluate changes in urine osmolality and urine cAMP in response to acute and chronic water loading in autosomal dominant polycystic kidney disease Clin J Am Soc Nephrol 2010;5:693-697
* 13 Wang CJ, Creed C, Winklhofer FT, et al. Water prescription in autosomal dominant polycystic kidney disease: a pilot study Clin J Am Soc Nephrol 2011;6:192–197


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